→その2






「みみみみつや!」
「なんだよ…」
「マイキー君が…!」
「マイキーが?」
「ナマエって、呼び捨てで呼んでくれた…!」
「…そーかよ」

あの日からマイキーとの仲は深まったようで、どうやらもうオレを介して会うとかそんな次元ではなさそうだ。きっとオレの知らねーところで会ったりメールしたり電話したりしてるんだろう。別にこうなることぐらい分かってたし。分かっててマイキーんちにコイツ連れてったんだし。でもな、やっぱ面白くねェんだわ。こんな話聞いてんのは。


「私もマイキーって呼び捨てした方がいいのかな…?」
「さぁな」
「怒ったりしないよね?」
「んなことでアイツは怒らねーよ」
「……あーー!でもやっぱ無理!呼び捨てとか、この間知り合ったばっかなのに…無理無理無理」

だったらしなきゃいーだろ!と怒鳴りたくなるのをグッと堪えた。こんなことぐらいで女相手に怒鳴るとか、そんな小せぇ男だとは思われたくなかった。どんなにミョウジがマイキーマイキー騒いでても、結局コイツの前ではカッコつけようとしてる自分がまじ不甲斐ない。


「じゃオレ帰るから」
「あっうん、呼び止めてごめんね。今日東卍の集会なんだよね?」
「よく知ってんな」
「えへへ」

誰にでも明るく笑いかけるミョウジが、完全に恋する乙女の顔で頬を赤らめながら微笑む。そんな顔知らない。オレの知ってるミョウジの表情じゃない。コイツにこんな顔させられるのはただ一人。ウチの総長以外いねぇんだ。











「マイキーおっせぇなー」
「今日一緒じゃなかったのかよドラケン」
「おー。なんか用あるからって」
「ふーん」

武蔵神社に集合したはいいものの、肝心のマイキーが現れない。まぁやや時間にルーズなところは昔からあるしな、ぐらいに思いながら皆各々談笑していた。すると聞き慣れたバイク音が近づいてくる。あぁやっと来たか、と思いオレ達は整列し始めた。


「「「お疲れ様です!総長!!」」」
「うん。ごめん、ちょっと遅れちった」
「…おい、マイキーなに連れて来てんだよ」

オレは自分の目を疑った。何故ならマイキーが自身のバイクの後ろに乗せて来たのはどっからどう見てもミョウジだったからだ。

「あれ?あの女よく学校で三ツ谷といる奴じゃねぇ?」

ぺーやんがわりとデカい声でそう言いながらアイツを指差した。

「あいつ三ツ谷の彼女じゃなかったん?」
「ちげーよ」
「え?てかなんでマイキーのケツ乗ってんの?どういう関係?」
「さぁー知らね」
「なんだよマイキー。ナマエちゃんと居たのか」

ずいっと横から登場したのはドラケン。ミョウジを連れてマイキーの家に行ったあの日、ドラケンも居たから顔見知りなのは分かっている。でもこの口の聞き方からして、明らかにドラケンともあの日以外でも会っている気がする。


「ケンチン遅れてごめん。エマも来てるんだろ?ナマエ、一緒に待っててな」
「うん」

そう言ってマイキーのバブから降りてエマちゃーん!なんて弾んだ声で走って行った。いつの間にエマちゃんとも友達になってんだアイツは。別にアイツがいつ何処で誰と何してるかなんて、一クラスメイトのオレが知ってなくて当然だ。当然なんだが、なんだよアイツ。オレには気付きもせず真っ先にエマちゃんて。誰がお前をマイキーに紹介してやったと思ってんだ。


「三ツ谷ぁ、どこ行くんだよ」
「…集会始まるんだろ、行くぞ」
「え?なんかお前怒ってる?」

ぺーの癖に勘が鋭くて嫌んなる。明らかにオレは不機嫌になっていた。集会の間も、正直マイキーの話なんて耳に入って来なかった。全部全部アイツのせいだ。





「三ツ谷なんかあった?」

集会後、さっさと帰ろうと自分のバイクに跨るとマイキーが声を掛けてきた。

「なんかずっと心ここに在らずって感じだったから」
「あー…ちっと具合悪ィんだ今日」
「ふーん、そっか」

珍しいな、なんて言いながらマイキーはオレのバイクに寄りかかった。おい、さっさと帰りたいんだからやめて欲しい。数メートル先にはドラケンとエマちゃんと話すミョウジの姿があった。


「ありがとな、三ツ谷。ナマエ紹介してくれて」

その言葉にオレは耳を疑った。それは、つまり…なんだ。そういうことか。

「なに、もう付き合ってんの?」
「ううん。ただ単にあんな明るくてイイ子オレの周りにいなかったからさ、一緒にいるとこっちまで明るくなれるっつーか。あーゆー子、そばに置いておきたくなるね」
「………」
「いーんだよな?三ツ谷。あの子オレんちに連れてきて紹介したってことは」
「なにが」
「三ツ谷と争ってまで女欲しいと思わねーからさ。一応確認しとかなきゃじゃん?」

マイキーはバイクにもたれかかったまま、サンダルで足元の砂を弄りながら聞いてきた。オレだって、お前と女のことで争いたくねぇし競い合いたくもねぇ。てかそもそも争う土俵にも上がれてない。アイツは、ハナっからマイキーしか見ていない。


「…マイキーの好きにしろよ。そんなんオレに聞くことじゃねぇだろ?」


もう帰るからどいてくれよ、と付け足して言うとマイキーはバイクから離れた。エンジンをかければ聞き慣れたエンジン音が響く。

「サンキュー、三ツ谷」

マイキーは時々見せる子供みたいな笑い方をしてオレに礼を言った。なんだか虚しくなる。まるでオレが諦めたような言い方じゃねぇかよ。いや実質諦めたも当然なんだけど。そんなこと、アイツとマイキーを引き合わせた時点で決まってたことだけど。でもあんなに毎日喋ってるオレを一度たりとも意識しなかったような女は、やっぱりもう懲り懲りだ。





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