マイキーの誕生日に夏っぽい過ごし方






「おっナマエ?」
「……」
「無視すんなよー。どっか行くの?乗ってく?」

暑い暑い夏の日。お盆休みも明け親の仕事も通ってる塾も通常運転に戻った頃、あまり関わりたくない系のクラスメイトに声を掛けられた。

「別に…家帰るとこだから」
「いーじゃん乗ってけよ〜」
「ていうか佐野君」
「マイキーだってば」
「…マイキー君。それって免許持ってるの?バイクって16歳からじゃなかった?」
「ナマエは真面目だなぁー」

いや真面目っていうか、それが一般的な世間の常識なんだけど。そんな事全く気にしてない彼は、やっぱり常識から逸脱している存在。

6月に親の転勤で東京に越してきた。すぐに夏休みに突入しちゃう時期だったけど、夏休み前に友達出来ていた方がいいだろって親の余計な気配りのせいで、中途半端な時期に編入した私。結果、できた友達…いや、顔見知りは東京ナントカ會とかいう暴走族の総長。この人に付き纏われるようになってから、少し話すようになったクラスの子とも話せなくなってしまった。

そう、つまり。中学最後の夏休み、私は友達がいないと言うなかなか辛い環境に身を置いていたのだ。


「どこ行ってたの?」
「塾だよ」
「へーさすが」
「さすがって言うかさぁ…マイキー君は高校受験しないの?みんな夏期講習くらい行ってるよ?」
「あーいいね、それ」
「は?」
「叱ってくる感じ。母親みたいじゃん」

小馬鹿にされているのか、それとも本気で言ってるのか。甚だ反応に困ることをマイキー君はいつも言ってくる。

「それって嫌じゃないの普通。お母さんみたいな言い方されるって…」
「あーオレ母親いねぇからかな、そうやって叱ってくれる女ってなんか新鮮で」
「あっ、そうなんだ…」
「それともナマエに言われるから、いいって思えんのかな」
「っ、え?」

ニコニコと笑いながらバイクを停めて降りて、私の隣に立ってきた。な、なに今の言い方…。深い意味ない、よね?それともただ単に揶揄われてるの?この人不良だし、ちょっとよく分からない。

顔が赤く火照ってきたのは、きっとこの30℃を超える気温のせい。汗を拭いながら目の前に立つマイキー君の顔を見ると、私と違って顔が赤くなっていなかった。なんだか自分だけ赤くなってる気がして恥ずかしくて、ますます顔に熱が集中してくる。


「暑いね」
「えっ?あ、そうだね…8月だもんね」
「かき氷食いに行こーぜ」
「今から?」
「そう。行きつけの鯛焼き屋が夏季限定でかき氷出してんの」
「そうなんだ…」
「ナマエこの辺の店全然わかんねぇだろ?連れてってやるよ」

友達という友達もできていないし、夏休みに入ってからは塾と家の往復だけだった。そんな私の寂しさに気づいて誘ってくれたわけではないと分かってても、純粋に嬉しかった。東京に来てから初めて人と出掛ける。それだけでも嬉しかった。

「バイク乗ったことある?」
「うん。従兄弟のお兄ちゃんの後ろに乗せてもらったことあるよ」
「へー」

しっかり掴まっててね、と言いマイキー君はバイクを走らせた。小柄なのに、がっちりしてゴツゴツしている体に少し驚きながらも、そのスピード感のある走りに身を任せた。夏の生温い風が体を掠める。蝉の鳴き声が木々から聞こえる。ジリジリと太陽の熱が私たちを照らす。あ、私やっと夏らしいことしてるかもって、その時思った。




「美味い?」
「うん、ふわふわで美味しい」
「だろ?」

かき氷屋さんの入り口の前に置いてある長椅子に座り、マイキー君と初めて並んで食べた。暑いけど、日もだいぶ落ちてきたし日陰だからだいぶ過ごしやすい。溶けないうちにと急いでかき氷を口に運んでいたのに、マイキー君はもうとっくに食べ終えていた。

「すげー夏っぽいことしてんね、オレら」
「そうかもしれないね」
「な。ナマエ友達もいねぇしどーせ夏期講習ばっかで何も遊んでねぇだろ?」
「よく分かったね…」
「今度花火でもする?」
「…マイキー君と?」
「お前オレ以外友達いねぇだろ?あ、オレの友達呼んでやろっか?」
「えーいいよ…それって暴走族の人達でしょ?」
「んな怖がるような奴らじゃねえって」

間違っても女に手ぇ出すような奴らじゃないから、と彼は付け足した。それでも怖いは怖いんだけどな。マイキー君がいつも学校で一緒にいる、龍宮寺君も、見た目からして正直近づきたい感じはしない…。

もうトロトロに溶けてしまったかき氷の残りを、器ごとぐいっと飲み干した。甘いシロップの味が一気に口に広がる。マイキー君は食べ干した私の姿を満足そうに見ていた。

「食い終わった?」
「うん。ご馳走様。なんか奢ってもらっちゃってごめんね」
「いーって。オレがナマエとかき氷食いに行きたかったんだし」
「うん…」
「いい誕生日になったよ」

“いい誕生日になったよ”
そのフレーズが頭の中を3巡くらいした後、私は驚いて声を出した。

「えっ!?た、誕生日?今日?」
「うん」
「え?うそっ?私誕生日の人に奢らせたの!?」
「だからいーんだってそれは」
「だめだって!ちょっと、払うよ」
「やだよ。今更金受け取るかよ」
「…じゃあちょっと、待ってて」

慌てて鞄から財布を出し、お店の中に駆け戻った。知らなかった…今日誕生日だなんて。いやそれは勿論言ってくれなきゃ知らないことなんだけど。転校してから一番に声をかけてくれた人。正直「何この人」って迷惑に思ってたけど、でも私がこっちに来てから唯一の友達…と呼べそうな人。そんな人の誕生日を、祝わないわけにはいかない。


「マイキー君!これ…」
「ん?」
「鯛焼き…買ってきたから食べて」
「え、こんなに?」
「お家で食べてもいいから。あの、お誕生日おめでとう」
「ありがと、ナマエ」

ふわりと笑うマイキー君の笑顔は、どこか幼さが残っていて、暴走族の総長なんて肩書きがとても似合う人には見えなかった。ありがとうはこっちの台詞だよマイキー君。転校してきて右も左も分からない私に声をかけてくれて、家と塾の往復というつまらない夏休みを過ごしてた私を誘い出してくれて、ありがとう。

「ねぇマイキー君はさ、なんで転校初日から私に声かけてくれたの?」
「んー。母性?」
「うそだぁ。喋る前に声かけてくれたじゃん」
「バレたか。んー…なんでかな、まあ直感かな。雰囲気含め、コイツと仲良くなりてーって思った。そんだけだよ」
「…そっか。ありがとう。私もマイキー君と仲良くなれて嬉しい」

さっきマイキー君が笑ってみせてくれたように、私も笑ってみた。彼のようにいい笑顔が作れてるかは分からないけど。でも、私の顔を見て、マイキーがまた微笑んでくれた。それだけで嬉しい。

「ナマエ、だいぶ変わったな」
「え?」
「最初の頃オレのことすっげーウザがってたのに。ずっと佐野君とか白々しく呼んできてさ」
「ウザがってたの分かってたのによくずっと話しかけてきたね…」
「だって落としたいって思ったから。話しかけ続けるしかねぇじゃん?」
「ん?落とす?」

その意味が分かってから、また私の顔にじわじわと熱が集まり赤くなっていく。日陰だし日も落ちてきたし、さすがにこれは暑さのせいだと言い訳できない。怖くてマイキー君の顔が見れなかった。…どうしよう、これ。反応に困ることを一日二回も言われるなんて。

「ナマエバカだなー。男が女に仲良くなりたいって言ってさ、まんま友達になりたいって意味なわけねぇじゃん」
「…言われてみれば、そうかもしれないね…」
「だろぉ?だからさ、ナマエ。オレせっかちだしもう言っちゃうけどさぁ」

オレと付き合おうぜ、ナマエ。

夏休みも後半に差し掛かった中学3年生の夏、思わぬ出来事に直面した。私の暑い熱い夏は、まだまだ終わりそうにない。




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