遊び人三ツ谷くんのセフレ






「お昼ご飯後の体育ってマジだるいー」
「ほんと。食ったもの吐くわ」
「やめろ汚い汚い!」

笑い声を上げながら更衣室に向かう。今日も私の友達たちは面白い。一緒に笑いながら長い廊下を歩いていると、着崩した制服と銀髪の頭が視界に入ってきた。向こうも私と同様に友達と談笑しながら歩いてくる。一度も同じクラスになったことのない男子。委員会だって部活だって、何も同じものに所属したことのない男子。だからほら、廊下でこうやってすれ違う時だってお互い目も合わせない。でも、すれ違うその一瞬、彼は小指を私の小指に掠めてくる。







「なぁ、うちのクラスのヨッシー知ってるだろ?」

私の制服のスカートのホックを外し、ジーっとファスナーを下ろしながら聞いてきた。

「…そりゃ知ってる、けど」

廊下で小指を掠められたとき、きっとそれは「今日家行っていい?」の合図なのかなぁとは思ったけど、予想は的中だった。三ツ谷くんはいま、私のベッドの上で私の上に跨っている。露にされた私の胸元に、さっきまでこれでもかってほど齧り付いていたが、今はもう下半身に手を伸ばしている。

「ヨッシーがさぁ、お前に告ろうかなって迷ってた」
「……うそ」
「ほんとほんと」

その時私の中に生まれた疑問は二つ。
ヨッシーってだって、男子バスケ部のエースで中性的な顔立ちも手伝って学年でも結構人気な爽やかスポーツ男子。私は女バスに所属してるけど、正直そこまで交流ない。まだ他の男子の方が喋ったりするのに、なんで私?って疑問が一つ目。

二つ目は、なんで性行為の真っ最中にこの人は他の男子の話をしてくるの?ってこと。


「どーする?告られたら付き合う?」
「えっ…」
「ヨッシーかっけーじゃん。モテるし。バスケ部同士気合うんじゃね?」
「そうだね。条件だけ見るといいかもね」
「だろ?まぁでもやめとけよってオレ言っちゃったけど」
「なんで…」
「だってそしたらナマエともうヤれなくなる」

私のパンツを脱がして、慣れた手つきでコンドームの封を切って装着する彼は、彼女じゃない存在にこういうことするのを何とも思ってない表情だった。でもまぁ、抵抗しない私も私だ。

「ヨッシーがさぁ、お前のこと他の女子みたいに下品じゃなくて大人しくて、でもバスケ部で運動もできる感じがいい〜とか言ってたぜ」
「そう、なんだ…」
「なんかそれ聞いてさ、オレ気分良くなっちゃった」
「え?」
「運動部所属の爽やか系男子が好きな大人しめの女子。そいつの淫らな姿見られんのオレだけだって思うとさ、なんか気分良くね?」

そんなこと言われた直後でも、四つん這いになって、って言われて言われるがまましてしまう私って一体なんなんだろう。

三ツ谷くんは不良で、暴走族に入ってて、でも手芸部に所属してて、学校に友達も多い人当たりのいい不良って感じの人だ。だから誰も知らない、彼が本当はこうやって彼女でもない女にこうやって腰を振っていること。私以外にもこうやって遊ぶ女がいること。無論、私がこういうことしてる相手は三ツ谷くんだけだと言うのに。

ひょんな事がきっかけで、私は三ツ谷くんに初めてを捧げ、同時に彼の初めてを貰ったのは自分だということだけが、私を謎の優越感に浸らせてくれるのだ。


「ナマエが一番可愛いな」

三ツ谷くんは困ったことに女の子の扱いが上手い。最中によくこういうこと言ってくれる。でもこの「一番」っていうのは、彼の中に複数いるセフレの中でせいぜい一番ということなんだろう。それでも、十分嬉しいと思ってしまう私、ほんと終わってる。

終わった後も、はい終わりってすぐ帰ったりせず、時間が許す限りそばにいてくれる。時間が許す限り、一時だけ彼の彼女になったという錯覚を与えてくれる。


「ナマエ、さっきはああ言ったけどさ、ほんとにヨッシーのこといいって思うんなら付き合えばいいよ」
「え?」
「ナマエ可愛いんだしさ、よくよく考えたら中学3年間彼氏いないとか逆におかしいじゃん。普通に彼氏作って青春したいならヨッシーとか良さそうじゃん」
「…でも、私ヨッシーのことそういう風に見たことない」
「じゃあこれからそう見てみれば?ヨッシーはいい奴だよ。優しいし、オレなんかより絶対ェいい男」

そう言いながらベッドの中で私の髪を優しく撫でる三ツ谷くんは、本当に発言と行動が伴ってない人だと思う。でもそれはつまり、私のことをなんとも思ってないからできること。


「オレそろそろ行かないと」
「次の女の子のとこ?」
「ばーか、違ェよ。今日は東卍の集会」
「ふぅん、そっか」
「ナマエももう服着たら?」

むくりと体を起こすと、ベッドの下に落ちていた私の下着を拾ってくれる。髪乱れてるぞって手櫛で髪を整えてくれる。着替える彼の背中に抱きついても何も文句言ってこない。三ツ谷くんは酷く優しい悪魔なんだ。


「三ツ谷くん…次会う時は三ツ谷くんのお家がいい」


勇気を振り絞って言ってみた。体を重ねる時はいつも、私の家だ。私だって一度くらい三ツ谷くんのお家に行ってみたい。

「はぁ?何言ってんの。オレは女は家に呼ばねぇって最初に言ったろ」

けど優しい悪魔は、時にこうやって冷たく言い放つ。

「めんどくせぇこと言うなよ二度と」
「…ごめん」

結果なんて分かっていたけど、事後の彼の優しさに賭けてみたくなっただけなのに。冷たい言い方をされて傷つくのは自分だって分かっていたのに。どんなに冷たく接してこられても、三ツ谷くんに嫌われたくないから何も言い返せない。

「じゃあなナマエ。また来るからな。いい子で待ってろよ」

まるで外国人が恋人にするみたいに、いつも頬にキスをしてバイバイしてくれる。良かった、もう怒ってないのか今のはいつもの優しい言い方だった。良かった、私まだ三ツ谷くんに切られてない。いつもの去り際の言葉も、頬にしてくれるキスも、全部全部他の女の子にもしている事なんだろうけど、それでも私はいつか、三ツ谷くんの特別になれると夢を見てまた彼が私を抱きにくるのを待つのだった。





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