傷つけあった愛






 それから定期的にナマエとはセックスをした。お互い家に誰もいない状態で予定が何もない日、となると小学生と言えどそんな頻繁にないのがもどかしかった。もっともっと会いたいのに。あー早く冬休み来ねえかな春休み来ねえかなって考えるほどナマエのことで頭がいっぱいになった。

 中学に上がってからもオレ達のこの関係は続いた。でもお互い部活にも入ったし、オレはマイキーが立ち上げた東卍で隊長になったし、相変わらず家事や妹達の世話もあるしで、会える機会はますます減った。でも会うたびにセックスは必ずした。だって気持ちいいし、ナマエのこと好きだし、満たされるし。そんなんヤるしかねぇじゃんって思っていた。でも思えば、ヤる以外でオレとナマエが二人ですることなんて、他になくなっていた。

 


「んじゃアイツは?鈴木」
「んー処女!」
「んじゃ高橋」
「アレも絶対ぇ処女だろ」
「だよなー」

 休み時間。周りに女子がいないとこんなくだらないことを話し出すのは中学生男子なら仕方ないことなんだろうか。誰が処女とかそんなん全く興味なかった。つか想像すんのも嫌だった。その後も異性の体とかセックスについて鼻の下を伸ばして語り出すコイツらに「いや実際女の体ってそんなんじゃねぇから」と心の中でツッコミながら頬杖をついて片耳で聞いていた。

「あ、じゃあさ、アイツは?ミョウジナマエ」
「あー…言われてみれば処女じゃねぇ雰囲気ある!」

 でもナマエの名前が聞こえた途端ピクリと反応してしまう。相変わらずオレはナマエとのことをドラケン以外に話していない。特に学校の奴らになんて絶対にバレたくねぇし。だからナマエの話題が出てもスルーしたかった…が、できなかった、さすがに。

「は?なんで?」
「なんとなぁ〜くエロさと余裕さを感じる!」
「そうか?髪染めてるギャルの子達の方がよほど経験済みって感じすんじゃん」
「なんだよ三ツ谷、珍しくこの手の話題に乗るじゃん。お前ミョウジに気があんの?」
「いやねぇけどさ」

 ねぇわけねぇけど。気ありまくりだけど。あーでもミスった。ナマエの話題に乗っかってしまうのはやはり良くなかった。ボロが出る前になんとか話題変換を…

「そういや三ツ谷とミョウジって小学生の時から仲良かったよな?夏休み二人で宿題したりして」
「うわなにそれエッッロ!」
「どこがエロいんだよ。宿題だぞ宿題。全く色気ねぇ話だろ」

 実際はエロさしかなかった、あの宿題を写し合った夏の日。未だに思い出しても心が疼いた。あれほど興奮して高揚感に包まれた日はなかった。オレにとっても、そしてきっとナマエにとっても忘れられない一日だった。その思い出を何も知らない下世話なコイツらに汚されるような気がして、心底気分が悪くなった。

「だって二人きりで宿題だろ?なんでもするチャンスあんじゃん!」
「ねぇって。そんな気アイツに対して起きないから」
「本当かよー?三ツ谷もミョウジもなーんか落ち着いてるとこあるし怪しいよな〜」
「元々こういう性格なだけだよ」
「だからこそじゃん!エロに興味ないフリしてさぁ。もしやお前もう童貞じゃない?」
「ンなわけねーだろ」
「実はちゃっかりミョウジで卒業してたり…」
「だからねぇって!あんな色気のカケラもねぇ女に興味湧くかよ!」

 思わず声を張り上げてしまった。そんなオレの様子を見てコイツらは目を見開いた後、更に目をもう一段階見開いた。その理由はすぐにわかった。ナマエが、オレの後ろに立っていたからだ。

「担任が呼んでたよ、三ツ谷くん。」

 抑揚のない声でそう言うと、すぐさまナマエは去っていった。

「うわビビった…でも怒ってなさそうだし聞こえてないっぽいな?」
「だな。セーフセーフ」

 わざとらしく冷や汗を拭く仕草をするコイツらに呆れた。お前らなんもナマエのこと知らねぇくせにナマエのこと話題に出すんじゃねぇよ。アレは明らかに怒っている。ずっと一緒にいたオレだから分かる。あー…やっちまった。コイツらのこんな下らない話題に乗っかったばかりに、ナマエを怒らせてしまうなんて。



 その日ナマエは部活の日だったから、帰宅するタイミングを見計らってナマエのマンションの前で待ち構えた。遅ぇなぁ、もう結構暗くなってきたのに。そういえば小6のとき何度かアイツ、オレを玄関の前で待っていてくれたことあったな。暑いのに、汗ダラダラ流して待っててくれたよな。何分くらい待ってたのか知らないけど、ナマエもあの時、こんな気持ちだったんだろうか。

「…何してんのよ」
「あ、おかえり」
「連絡もなしに来ないでよ」

 あ、やっぱり明らかに怒ってる。オレを無視してエントランスに入ろうとするから迷わず追いかけた。

「今日のこと、ごめん。アイツらがオレとナマエのこと疑ってきたからわざと興味ないフリしてあんなこと言っただけだから」
「それにしては的確なこと言ってたね」
「え?」
「色気のカケラもない、だっけ?」

 しっかり聞かれていたししっかり記憶されていたことに焦りを感じた。いくら本心で言ったことじゃないとは言え、あんな言葉を聞いたら傷つくに決まっている。あーもう…、なんでこんなことになっちまったんだ。

「ンなこと思ってるわけねぇじゃん」
「でも私の体貧相じゃん。もっと肉つければって言ったの誰でしたっけ」
「それはお前が痩せてるから心配して言ったんだよ!抱く時折れそうなんだもん」
「デブ専だったの?」
 
 絶対思ってもいないようなことをツンとした態度で言ってくる。すげぇ怒ってんじゃん…。ナマエだってオレが本心であんなこと言ったんじゃないって分かっているはずなのに、もうムキになっているのが見え見えだった。

「ねぇどこまで入ってくるの。エレベーターは住人専用なんですけど」
「家行っちゃダメ?」
「だめ」
「まだおばさん帰る時間じゃねぇだろ?おじさんは?」
「…今日は飲み会」
「じゃあ仲直りしようよ」

 半ば強引にエレベーターに乗り込み3階のボタンを押す。狭いエレベーターの中でナマエと二人きり。言葉はないけど手は繋がれている。ナマエがオレの手を振り払わないだけで正直かなり心は救われた。

「三ツ谷くんは、」
「二人きりの時は普通に呼べって」
「…隆は、私以外にこういうことする相手、いるの?」
「は?いるわけねぇだろ!?」
「…でも、誰かと比べられてる気がしちゃって…」
「ナマエ…ほんとごめんあんなこと言って。傷ついたよな。思ってねぇからあんなこと。オレがナマエのことすげぇ大切に思ってるの分かってるだろ?」

 エレベーターを降りて、我慢しきれずマンションの廊下でつい抱きしめてしまった。ナマエは慌てて玄関の鍵を開けオレを入れてくれた。そして、泣き出した。我慢していた涙がぶわっと吹き出すかのように泣いてオレのシャツを濡らした。

「隆のバカ…嫌い」
「嫌わないでよ。ナマエに嫌われたら生きてけねーよ」
「バカな男子達と私の話はしないで…!」
「オレもしたくねぇよ。アイツらがナマエのこと口にするだけで…殴りたくなる」
「しちゃってよ…あんな奴ら」

 嫌だった。ナマエのことを他の男に言われるのは。オレとナマエの関係なんて、誰にも口出しされたくなかった。たとえ短気だとか乱暴者だとか言われようと、他の男がナマエのことを話題にするのも性的な目で見るのも耐えられなかった。

 久しぶりにナマエの家でヤった。ナマエは確かに昔から痩せてるけど、貧相な体なんかじゃない。オレはコイツ以上に興奮できる女なんているわけない。そう思いながらゆっくりとナマエの中に腰を沈めた。







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