それでもやっぱりきみが





受験が終わり、かなり久しぶりに三ツ谷くんにメールを送った。

『三ツ谷くん久しぶり!無事志望校に合格しましたー(*≧∀≦*)』

当然の如く、返信はなかった。 

そしてそのまま卒業式を迎えた。おかしいな…初詣デートだってしたっていうに。私たちの距離、いつ縮まるの?






そして今日は6月12日。私…と、三ツ谷くんの16回目の誕生日だ。去年私は来年のこの日までには絶対落としてみせる!なんて言ってたっけな…。残念なことに落とすどころか学校も別になりもう3ヶ月も顔すら見てない。風の噂によると彼は定時制高校に通っているらしい。進学先すら本人から直接聞けない間柄なのに、落とせているわけなんてないのだ。


「ナマエ、誕生日おめでとうー!」
「ありがとうよっちゃん!」
「ナマエちゃんおめでとう」
「先輩も…ありがとございます!」

私と同じ高校に進学したよっちゃん。そしてこの高校にはよっちゃんの一つ上の彼氏さんも在学している。私も今では彼氏さんとすっかり顔見知りになり、時々こうやって昼休みに3人で過ごすようになっていた。

「そういえばさ、二人は三ツ谷隆君って知ってる?」

プレゼントの包みを開けようとした手がビクリと震えた。え…なんで学年違う先輩の口から三ツ谷くんの名が…!?

「知ってるよぉ。私は中1のとき同じクラスだったし。そういえばナマエ最後の方仲良かったよね?」
「え…仲良く見えてた?あれ…」

基本相手にされていなかったし、されてもかなり塩対応だったけど…。好きな男子をあんなに追いかけ回してたのに全く振り向いてもらえなかったという事実が恥ずかしくて、三ツ谷くんに想いを寄せていることは誰にも明かせていなかった。

「そっそれで先輩、三ツ谷隆がどうかしたんですか?」
「あーなんかね、うちのクラスの女子と付き合っててさ」

なん、です、と…?
え、彼女?惚れた女からの告白じゃないと喜べないとか好きな女と長く付き合いたいと言ってた三ツ谷くんに、彼女?彼がどういう人間だかわかってるからこそダメージは大きかった。今まで散々されたどの塩対応よりも、ダメージが大きかった。

「へぇ〜三ツ谷くん年上と付き合ってるんだ。なんか分かる〜って感じ」

ね、ナマエ?とよっちゃんに話を振られたから慌てて首を縦に振った。年上だとか年下だとかはどうでもいい。三ツ谷くんが本気で惚れた女が存在してしまっていることが問題だ。どこで出会ったんだろう、どこに惚れたんだろう、どっちから告白したんだろう、今日誕生日だけど…どうやって過ごすんだろう。

「あ、噂をすれば。あの子だよ」

そう言って先輩が指差した先に立っていたのは、自販機の前で飲み物を買うひとりの女子生徒。スラっとしていて背が高いのに胸がデカい。遠目で見ても胸がデカい。胸の主張が強い。なのに顔は所謂塩顔で大人しそうな人だった。…なるほど、ああいうのが好きなのね。

「すごいモテそうな人ですね」
「んーそんなモテるってわけでも…」
「でも胸デカいじゃないですか」
「あーまぁ確かにあの胸は…あっいやなんでもない!」

よっちゃんからの強い視線を感じたのか、先輩は慌てて言葉を飲んだ。そんな二人の間柄がなんだか微笑ましい。

胸か…三ツ谷くんに限って胸で落ちたなんてあるわけないだろう。あったとしたら私は自分のバストサイズを呪うほど憎む。大きければ私は彼を落とせていたのかもしれないとか…そんなこと、あってはならない。きっと優しくてお淑やかで私みたいにしつこくない人なんだろう。三ツ谷くんが選んだ人だ。絶対にいい人なんだと思う。そう思わないとやりきれなかった。


自分の誕生日に彼氏とディズニーに行くのが夢だったが、それは今年も叶わなかった。でもクラスの友達がカラオケで祝ってくれた。プレゼントもくれた。お母さんが私が食べたいと言っていたキルフェボンのタルトを買ったと連絡をくれた。彼氏とディズニーなんて行けなくたって、最高の誕生日じゃないか。

そう思いながら最寄駅から自宅までの道を歩いていると、何やら通行人が道を開けるようにして向こうから歩いてくる人物を避けていることに気づいた。遠目でもはっきりとわかる。顔から血流してる男の人が歩いてきている……。うわ、これは確かに避けたくなる。ヤクザとかかな…若そうだけど。かっこよさそうだけど……って、

「三ツ谷くん!!?」
「…お前か」

ぽたりと地面に一滴の血が流れ落ちた。私はギョッとして落ちた血と三ツ谷くんの顔を交互に見た。

「どっどうしたの!?死ぬよ!?」
「死ぬかよこんくらいで」
「せめて病院行こう!?」
「もうやってねぇだろこの時間だと」
「夜間救急とかあるじゃん!」
「余計な金取られるから行かねえ主義」

いやおかしい。3ヶ月ぶりに見る私の好きな人は顔に怪我をして血流してるいるなんて…。私の慌てぶりとは反対に三ツ谷くんは至って冷静だった。不良だから喧嘩慣れしてるんだろうけど、私はこんな流血している人を見ることに耐性がない。服の袖で血を拭う三ツ谷くんを見て慌ててカバンの中を漁った。

「待って、ハンカチ…あれ!?ない!なんで!?」
「お前…それでも女子かよ」
「あっ今日忘れたんだった……、えぇっと、じゃあこれで拭いて」

友達からプレゼントとして貰ったばかりのハンドタオルを三ツ谷くんの顔に押し付けた。勿論まだタグ付きだし洗濯だってしていないピカピカの新品だ。

「え?お前これ新しいんじゃ、」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!使って!」

三ツ谷くんは悪いって小さく呟いてからそれで血を拭い始めた。薄いピンク地にプリントされていたキティちゃんがみるみる赤く染まっていく。やっぱり痛いのか、三ツ谷くんは少し顔を歪めていた。こんな表情の彼を見るのは初めてだ。いつも冷たくて無表情な三ツ谷くんも、こうやって歯を食いしばりながら眉間に皺を寄せることもあるのかと胸が痛んだ。

「喧嘩でもしたの…?」
「違う。不意打ちでいきなり後ろから殴られた」
「なんで…!?」
「オレの女に手ェ出してんじゃねぇ、とか言われたかな」
「え?それって……まさか塩顔巨乳の彼女さんのこと!?」

三ツ谷くんは「なんで知ってんだよ」と目を丸くした。うちの学校の人だと説明すれば、世間狭すぎて参るワと少し笑いながら言った。でも私には分かった。三ツ谷くん、いま無理して笑ってる。

「この人いいなと思ってた矢先に告られたから付き合ってみたけど…他に男いるとか最低な女だった」
「うわ…全然そんな風に見えないのに」
「な。完全に見た目に騙された」
「三ツ谷くん…あの人のこと好きだから付き合ったんだよね?」
「どーだろ。お前みたいにさ、軽ノリで付き合ってみるのってどんな感じかなとか思って付き合っちまった。結果最悪。やっぱお前みてぇな考え無理だわ」

無理とかまたすごい否定的な言葉を使われたけど、自分の信念を曲げなそうな三ツ谷くんがそんなことをしたのが意外だった。しかも私みたいに軽ノリでって…学校離れても私のこと思い出してくれてたの?もしかして三ツ谷くんの中で私って実は結構存在感あったの?

三ツ谷くん、どうしよう。私馬鹿だから、単純だから、三ツ谷くんにこんなこと言われただけで舞い上がりそうだよ。

「彼女と…別れるの?」
「もう実質別れたようなモンだろ」
「じゃあ、」
「お前とは付き合いません。」
「…ねぇ……もうやめてよいつも先読みするの」

三ツ谷くんはまた少し笑った。さっきとは違って、無理して笑っている顔じゃない。本当に笑っている。こんな顔されちゃ、私勘違いしてしまうよ。三ツ谷くんを笑顔にできるのは自分なのかもって。

「ごめんな、新品のタオル汚しちゃって。新しいの買って返すわ」
「え!」
「え?」
「いいよ別に…って言いたいとこだけど、三ツ谷くんから何か貰えるなら貰いたいからどうしよう……!」
「ふっ…お前ほんっとアホみてぇな考えしてんな」
「アホってそんな…」
「いいよ買ってやるよ。誕生日プレゼントな。あ、キュンすんなよ」

相変わらず私のキュンポイントも把握しているし、誕生日のことも覚えてくれているし、笑ってくれるし優しさ見せてくれるし…なんなのもう。どうしてなの。やっぱり私、三ツ谷くんが好きだよ。ずっとずっと好きだよ。


「三ツ谷くんも、誕生日おめでとう」
「おー。散々な誕生日だけどな」
「あ、ねぇうちここからすぐだから良かったら来ない?お母さんがタルト買ってくれてるから食べてってよ!せっかく誕生日なんだし、ね?」
「やだ」
「えっ即答?」
「お前家族にオレのこと彼氏だとか紹介しそうだし。外堀埋めて逃げられなくされそうで怖ぇもん」
「…え、そんな?」
「うん。お前そういうとこ隙なさそうだもん。じゃータオルありがとな。今度新しいの渡すから」

三ツ谷くんを好きだと再認識し自分の中で気持ちが盛り上がってきた瞬間に、またどすんと空から地面に撃ち落とされた気分になった。そのへん隙がないのは三ツ谷くんも一緒じゃん。どんだけ私とラブな展開に持っていくことを嫌がっているんだ。…でも大丈夫、これくらいじゃ私はへこたれない。だって近々新しいタオルを貰うために会う約束をするはずなんだから。放課後制服で会うのもデートっぽくてもいいし、土日に私服で会えるのもいいよなぁ…。



なんて楽しみにしていた数日後、自宅の郵便受けの中に「タオル返すわ」と一言メモが添えられた新品のタオルが入っていた。どうやら本格的に、私と余計に対面したくなかったようだ。





×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -