諦め方なんて知らないから




「みっ三ツ谷くん…おまたせ…!」
「お前さ…遅刻できる立場かよ」
「ごめんごめん!ごめんなさいいいい!」

冬休み最終日。約束していた三ツ谷くんとの初詣。3日前から服装も靴も髪型も完璧に決めていたのに、どうして当日ってこうもバタバタしてしまうのだろう…いや思いの外気温が低い日だから服装を悩み直してしまったからなんだけど。

「ごめんね!怒った…?」
「5分程度だから怒らねえけどさ」
「ほんと申し訳ない…実はね、」
「どうせ服迷い始めたとかだろ」
「…本当よくわかるね」
「お前単純だから」

自分のことが筒抜けで恥ずかしいけど、三ツ谷くん、私のことめっちゃ理解してくれてるなって嬉しくなってしまう。相変わらず素っ気ないし私のこと異性として意識してくれてないけど、でも休み中にわざわざデート(これ…デートって言っていいんだよね!?)してくれるほどに気は許してくれるようになった、と思う。

学校から一番近い神社だと学校の人に見られかねないからと、ちょっと足を伸ばして離れた神社まで来た。武蔵神社、と書いてある。結構大きい神社だ。

「ここ来たことあるの?」
「しょっちゅう来る。チームの集会基本ここだから」
「集会…!?なにするの?」
「んなことお前は聞かなくていいの」

暴走族のイロハは全く知らないし正直興味もないけど、三ツ谷くんのせいでここ数ヶ月は興味津々だったりする。一虎くんと前メールした時に聞いたけど、三ツ谷くんは二番隊の隊長らしい。それがどのくらいすごいのかとか本当は色々聞きたいけど、三ツ谷くんは学校の人間にチームのことを話すのは好まないようだ。だから聞きたくても我慢している。三ツ谷くんの嫌がることはしたくたい。これ以上嫌われたくないし。


「空いてるね」
「まぁ三ヶ日過ぎりゃこんなもんだろ」

お債権を投げ、鈴を鳴らし、二礼二拍手一礼だっけ?と聞けば彼は多分そうだと思うと曖昧な返事をした。とりあえずこんな感じだろうと思いながら、三ツ谷くんと肩を並べて手を合わせお参りをした。受験が上手くいきますように、三ツ谷くんともっとお近づきになれますようにもっと私のこと意識してくれますようにあわよくば彼女にしてもらえますように……!

必死な顔をしてお祈りをしてる私を、三ツ谷くんが小さく笑いながら見ていることなんて知る由もなかった。



「ねぇおみくじ引こうよ」

このまま帰るって流れになるのは寂しいから、少しでも一緒にいられる時間を長くするためおみくじ売り場に三ツ谷くんを誘導した。

「はい」
「ん?」
「はい」
「ん?」
「100円」
「え、なんで?」
「いーよ100円くらい」

三ツ谷くんは私の掌に100円玉を押し付けてからさっさと前へ進んでいきおみくじを引きはじめた。なんでお金出してくれたの…?たった100円だけどさ、さらりとこういうことして来るから私はいつまで経っても三ツ谷くんから気持ちが離れられないんだ。

「お、よっしゃ大吉ー!」
「えっすごい!」
「お前は?」
「待っていま開ける…」

大吉なんてなかなかお目にかかれるものではない気がする。すごいなぁ。三ツ谷くんも嬉しいのか、生き生きした顔をしておみくじに書いてあることを読んでいた。私は大吉なんて無理だろうけどまぁ中吉か小吉くらいは……

「ん?ミョウジ?」
「……」
「おいどうした?」
「…大凶」
「はっ!?まじ?」

三ツ谷くんは私が握るおみくじの紙に書いてある大凶の二文字を見て驚いていた。私だって驚いている。大凶って…これこそなかなかお目にかかれない。縁起悪いから大凶を入れてない神社もあるというのに……

「ははっ…やべぇ」
「え?」
「ミョウジ面白すぎっしょ。大凶って。オレ大吉なのに」

お腹を抱え出して笑い出した三ツ谷くんに、そこまで面白い…?と静かにつっこむことしかできない程私はショックを受けていた。それがまた彼のツボらしく、ますます笑い出してしまった。新年早々あんまりだ。来月入試だってあるのに。唯一いいことと言ったら三ツ谷くんがこんなに笑っているところを初めて見れたことだろう。

「はーー…やべ、初笑いだ」
「三ツ谷くんの初笑いに貢献できて幸せだよ…」
「落ち込むなって、たかが占いじゃん。ほら、そこに結んでおけばオッケーオッケー」

私は大吉だったら結び付けずお財布に入れておいちゃうところだが、三ツ谷くんはそういうのは気にしないらしくさっさと枝に結びつけてしまった。私の大凶は、枝にしっかり結んで神様に吉に転換してもらおう。そして早く元気に戻らなくては…

「届く?」
「あ、下の方はもういっぱいだね…」
「貸して。結んでやる」

正月明けだからか枝には隙間がないほどおみくじがびっしり結ばれていた。下の方は本当に、びっちりと少しの隙間もない。三ツ谷くんは私の手からおみくじを奪うと丁寧に折って、少し背伸びをして上に結ぼうとしてくれた。

「三ツ谷くん、そこがいい!三ツ谷くんのおみくじの隣に結びつけて…!」

三ツ谷くんは振り返って、また吹き出すように笑った。だって、せっかく一緒に来たんだもん。いつか三ツ谷くんの隣に立てますようにって願掛けも含め、隣に結びつけたかった。

「お前必死すぎだろ」
「うん必死だよ」
「じゃー特別にオレの隣に結んでやろう」

最近三ツ谷くんは私に対して上からだなと思う。まぁ私が片想いしてるって知ってるからなんだろうけど。同い年のくせに偉そうだし生意気だよね本当。けどおみくじを結びつけているそのかっこいい横顔を眺めていると、そんな感情どうでも良くなるんだ。





「じゃあ…今日はありがとう」
「おー」

この後用事があるという三ツ谷くんとは神社の前で別れることになった。本当に……小一時間のデートだった。

「あの、ね。ごめんね今日わがまま言って付き合わせちゃって…」
「別にいいよ。これで傷跡のことチャラなんだろ?」
「それは勿論!ほんと…気にしないで」

この後ご飯食べに行く流れにならないかな、とか。家の方まで送ってくれるのかな、とか。色々期待していたけど現実はそう甘くなかった。明日また学校で会えるはずなのに…こうやって二人だけで会っている時間が終わるのは物凄く名残惜しい。

「三ツ谷くん、あの!」
「ん?」
「これからほんとに受験前だから…会えなくなると思う」
「それでいいだろ」
「そ、そうなんだけど…!あの、時々メールとかしていい?」
「用があるなら」
「なかったら…?」
「悪いけど返信しないと思う」
「ですよねー」
「うん。じゃあもう行っていい?」

携帯で時間を確認しながら言う三ツ谷くんを、これ以上引き留めることはできなかった。「また明日学校でね」と言えばいつもどおり「おー」としか返ってこなかった。だいぶ距離縮んだと思ったのになぁ。結局こんなもんか。私いつまでこの人に片想いし続けるんだろう。三ツ谷くんに彼女がいるわけでもないのに、こんだけ相手にされないって…もう諦めたほうがいいのかな。


「…どした?」

もう去っていったはずの三ツ谷くんの声がした。下げていた頭を上げてみると、やっぱりそこには三ツ谷くんが立っていた。

「え?三ツ谷くんこそどうした?」
「いや…なんかお前急に俯き出したから。腹でも痛い?」

今ここでうんって言ったら、私の隣に居てくれるのかな。家まで送ってくれたりするのかな。試したくなってしまう、けど、もし期待どおりの反応がなかったら……より虚しくなる。

「変なこと言っていい?」
「だめ」
「…わかった」
「うそだよ。いいよ。言えって」
「……もう三ツ谷くんのこと諦めよっかな、って」

驚くかな、ちょっと寂しがってくれるかな、どんな反応するかな…私の心臓は期待と不安でバクバクしていた。ちらりと三ツ谷くんの顔を覗いてみると、悲しいほどに表情に変化がなかった。ああ、これが現実か。これが彼の私に対する気持ちなのか。早めに気づけて良かった。このまま何年もズルズル片想い…なんて展開になる前で良かった。まだ10代半ば、青春謳歌しまくりたいこの年頃の貴重な時間を無駄にしたくなかった。

「思ったより根性ねぇのな」
「…え?」
「もっと図太く攻めて来るかと思ったのによ。なに?もうギブアップ?」
「……」
「そんなんじゃオレを落とせねぇよ?」

落とせないって見切りをつけたから諦めようとしたのに…なんでこんなこと言うの。涙が溢れそうになるのをグッと堪えながら、私は口を開いた。

「それは…私にもまだチャンスがあるってこと?」
「最初からないなんて言ってねぇだろ」
「うそ…絶対落ちないからって言ってたじゃん」
「オレは今でもそう思ってるよ?でもお前の頑張り次第で天地ひっくり返るかもしれねーじゃん」
「なにそれ…」
「らしくねぇこと言ってんなよ。お前もっとガッツある奴だろ」

そう言って私の頭を乱暴にガシガシと撫でた…というか荒らした?せっかく頑張って巻いてきた髪の毛もボサボサになった。けどこれは…三ツ谷くんなりの私へのエールなんだと思う。それはつまり三ツ谷くん。私のことさほど嫌がっていないんだね?

「ありがと三ツ谷くん」
「おー」
「私やっぱり、もう少し頑張ろうかな」

その時三ツ谷くんが見せた表情は、彼が保健室で私の手当てをしてくれた時に見せたような優しげなものだった。うん、やっぱりこの笑顔、私だけのものにしたい。




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