きみに落ちるまであと3秒




「えーっナマエ南くんと別れたの?」
「そうなの〜3日前に」
「えぇー早く言ってよ!」

ミョウジナマエ15歳。3日前に人生3人目の彼氏と別れました。

同じ地域にある中学でも、男女交際が盛んな学校とそうじゃない学校があるらしい。うちは紛れもなく盛んな方の学校で、大して好きでもない異性と「付き合う?」「あ、うん」なやりとりが結構あるらしく、中身なんてなんもないような交際が校内のあちこちで起こっている。とりあえず彼氏、彼女っていうステータスが欲しい。ちょっとエッチなことにも興味がある。そんな思春期のバカ共の集まり。それが渋谷第二中学校だ。

「南くんとどれくらい付き合った?」
「えーっと1か月かな」
「まぁそんなもんだよね〜」

そう、1か月ぽっちで別れるのもよくある話。そしてまたすぐ気になる異性ができるのも、よくある話。特に女子はこの手の話題が大好きだからしょっちゅうそんな話をしている。

「それに比べてよっちゃんは凄いよね。もう一年以上でしょ!?」
「うん」

私たちのグループ内で唯一彼氏と長続きしているよっちゃん。彼女は男を取っ替え引っ替えなんてすることなく、去年卒業した一個上の先輩が初彼で、そのままずーっと付き合っている。周りの友達はみんな彼氏が頻繁に変わることをちょっとカッコいいと思ってるタイプだけど、よっちゃんだけは違った。

「飽きないのー?」
「え、全然〜。ずっと一緒にいても楽しいしかっこよく見えるんだよねぇ…」
「出ましたー惚気〜!うらやましーい!」
「もう、やめてよナマエ」

適当におちょくってるけど、羨ましいのは心からの本心。周りに流されて好きでもない男子と短期間で付き合って別れてなんてしてるより、よっちゃんみたいに大好きな人と長く付き合いたい、本当は。みんなに「どーしたお前(笑)」とか言われそうだから言わないけど。よっちゃんは周りがなんと言おうと、自分の信念を曲げないし恥ずかしいとも思わない。そんなところも密かにかっこいいと私は思っている。私は周りに流されやすくてそういうこと、できないから。





「あ、忘れ物した」
「え、なに?」
「鞄」
「え!?アホすぎるー!」
「…先行ってて」

放課後みんなと下駄箱で靴を履き替えている時、まさかの鞄を丸ごと忘れていることに気づいた。友達は大爆笑。自分のアホさに自分でも笑いそうになりながら踵を返して廊下を戻った。

「やっべー!忘れ物忘れ物…」

階段を登ろうとした時、横を走って行った男子がそんなことを呟いていた。あ、仲間だ。鞄持ってないところを見るともしかして私みたいに鞄忘れたのかな、なんてくすりと笑いながら階段の一段目を足を置いた。

「あ、じゃーな三ツ谷!」
「おーまたなー」

ガコンッ

さっきの男子が踊り場を猛スピードで走り抜けて行った時、何かがぶつかる音がしたので顔を上げた。そして次の瞬間私の視界に入って来たのは、宙を舞うゴミ箱とゴミたち、それから「あっ!!」と目を丸くして大声を出す銀髪の男子。…ん?銀髪?と思った時にはゴミ箱は大きな音を立てて私の顔面にクリーンヒットしてきた。


「ごめん!!大丈夫!?」

さすがに衝撃で後ろに倒れたし、多分腰打った。いやそれ以前に…顔面が痛い。更に言えば私、ゴミも被っている。いやいや…なにこの状況。ツイてなすぎる。

「どっか痛いとこねぇ!?」
「…ふつーに顔痛い……」
「だ、だよな!?あーーごめんまじ!」

銀髪の男子は慌てて私の体を起こしてくれた。そして私の頭や肩に乗ったゴミを払い落としてくれ、怪我してねぇ?と聞きながら私の顔をまじまじと見てきた。

あーこの人…隣のクラスの三ツ谷くんか。うちの学校、少々荒れてもいるけど三ツ谷くんは中でもなかなかワルな不良くんだ。校内で暴れたりとかはしてないけど、噂によると暴走族入ってる本格派らしいし。そんな人がぶっ放ったゴミ箱にぶつかったなんて、ますますツイてない。


「なあ…ここタンコブなってね?」
「うそ?…あ、ほんとだ痛い」
「だよなぁ?あー…ほんっっとごめん…」
「いいよ大丈夫…顔っていうよりオデコだし」
「そうは言ってもさ…とりあえず保健室行こ?」
「うーん、行くほどかなぁ」
「ミョウジさん女の子なんだからアザ残ったら大変じゃん」

…ん?今この人ミョウジさんって言った?なんで私の名前知ってるの?3年間一緒のクラスなったことないよね?そう思いながら三ツ谷くんの顔をぼーっと見ているととあることに気づいた。……三ツ谷くん、初めてちゃんと真正面から見たけど、こんな顔綺麗だったの?いや、喧嘩ばっかしているせいかアザあるけどさ、こんなに整っていたの?

「どうした?あれ、名前ミョウジさんで合ってるよな?」
「うん…どうして知ってるの?」
「知ってちゃおかしい?」
「おかしくないけど…」
「だろ。まぁそれより保健室行こ。あ、ぺーやん!いいとこに!悪ィけどこのゴミとゴミ箱片付けといてくんね?」
「はぁ!?なんでオレが!?」
「ミョウジさん怪我させちまった。保健室連れて行くから」

ゲッ…林じゃん。去年同クラだったんだよね…。相変わらずガラ悪いしセンス最悪な柄物シャツ学ランの下に着てるし…どこのチンピラだよ。そんな林だけど、三ツ谷くんの頼みは聞くのかブツクサ文句を言いながらゴミを片付け始めた。…え,これ本当に林?

「行こ」

三ツ谷くんは私を立ち上がらせると、私の手を引いたまま保健室へ向かった。





「とりあえず冷やしておくしかねぇか…」

養護教員の先生は今日はもう帰ってしまっているらしい。誰もいない保健室の椅子に三ツ谷くんは私を座らせ冷凍庫から保冷剤を出してタオルで巻き、私のおでこに当てた。

「先生いねぇしさ、この後ちゃんと病院行けよ」
「タンコブだけだよ?」
「でも他になんか怪我してるかもじゃん」
「そうかなぁ」
「行って。お願いだから」

不良の三ツ谷くんがちょっとキツく言ってくるもんだから、ちょっと怖かった。とりあえずここは反論しても仕方ないと思い、首を縦に振っておく。

「オレ今日用事あるから病院付き添えねぇけど…」
「いいよいいよそんなの。ていうかそもそも三ツ谷くん悪くないじゃん。あの階段駆け登ってた男子が危なかったんだし」
「そうかもしれねーけど…でもオレも適当に片手でゴミ箱持ってたしさ」

不良のくせに、そのへんちゃんと反省してるんだ。というかこうやって保健室に連れてきてくれるのもかなり意外だった。それに今も私のおでこにずっと保冷剤当て続けてくれている。…なんだ、この人。不良のくせに優しいじゃん。

「ミョウジさん」
「ん?」
「ミョウジさんこそ、オレの名前知ってんじゃん」
「そりゃきみはそれなりに有名だから…」
「んなことねーよ」

いや、そんなことあるから。そう思いながら三ツ谷くんの方に目線を上げるとばっちり目が合った。そして見たことないような優しげな目元とその笑い方に、不覚にも心臓がドキリと動いた。え、え、え。なんで…こんな不良風情に私ときめいてるの?

「保冷剤、ちゃんと自分で持って」

私の手を掴み、保冷剤を掴ませた。女の子の手を触ることに何の躊躇もないのかこの男は。普通この年頃だと異性の手に触るとか、一大イベントじゃん!ドキドキとキュンの塊じゃん!なのに三ツ谷くんは涼しげな顔でそれをやり遂げたのだ。…もしかしてこの人、女の子にものすごぉく慣れてる?ちょっと手を触るくらい、なんてもないってこと?

「オレそろそろ帰らなきゃなんねーんだけど…どーする?送る?」
「えっ、と…」

ここで頷いて一緒に帰ったら、きっと私たちの距離はぐんと縮む。そしたらきっと「付き合う?」「あ、うん」な流れになってしまう。別に今までもそうだったし周りもそんな感じだからそれはいいんだけど…何故だろう、三ツ谷くんとはそんな軽い感じに持っていきたくないと心が言っている。

「だ、大丈夫…自分で帰れる」
「そっか。あーじゃあさ、連絡先交換できる?なんかあったら連絡してほしいから」

不良のくせに、そこまで心配してくれるの…!?あなたのその顔のアザの方が絶対私のタンコブなんかより痛い怪我だったと思うけど!?

でも三ツ谷くんとメアドを交換する機会を逃したらダメだと脳が判断した。私は携帯をポケットから出して、三ツ谷くんと赤外線で連絡先を交換した。…へぇ、下の名前、隆って言うんだ。

「サンキュー。じゃあ気をつけてな」
「うん、ありがと」
「いいえ。ほんと今日はごめんな」

ガラガラピシャン、と保健室の戸が閉まり彼の後ろ姿が見えなくなるのを私はぼーっと眺めていた。…なんだろう、体がフワフワするし顔が熱い。タンコブのせいかな。とりあえず保冷剤でおでこだけじゃなく顔も冷やしてとこう。

そのまま私はぽやーっとしたまま家に帰ってしまった。鞄は結局教室に忘れたまま帰ってしまった。親に本格的に呆れられた。



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