特別を一粒この夜に




「いやナマエちゃんさ、マジでもっと俺に感謝するべきだって」
「えへっ、そうかな?」

こんにちは!私ミョウジナマエ。三ツ谷くんと付き合っている三ツ谷くんの彼女のミョウジナマエです!

こんなことを全世界に毎秒叫び続けたいくらい浮かれている、ミョウジナマエです。あれから半月ほど経った。私が三ツ谷くんの彼女になってから、そう、もうそんなに月日が流れたのだ。正直毎日浮かれすぎて時間の流れがとってもゆっくりに感じる。なんかもう何ヶ月も付き合ってるような気分だ。うへへ…私、三ツ谷くんの彼女なんだよ……はあ、幸せすぎて死ねる。

「つーかナマエちゃんいま勤務中だろ?こんなとこいていいのかよ?」
「なによ。退院するって言うからちょっと顔見に来てあげたのに」
「いいよ別に……三ツ谷と付き合ってから毎日毎日退勤後は惚気に来てたじゃん…」

この幸せをお裾分けするべく、私は毎日入院中の一虎くんに面会に来ていた。いやお裾分けなんて建前いいこと言ってるだけで、ただ私が一方的に話したいから来てたんだけど。そんな一虎くんも怪我が完治して今日で退院だ。

「まぁとにかく無事治って良かったね!今後はバイク気をつけてよ?」
「うん。まぁバイクやめられそうにねぇからまたすぐ乗るけど」
「えぇ!?…あっ、そうだ私が三ツ谷くんのバイクの後ろに乗せてもらった話、聞く?」
「もう五億回くらい聞いたからいい」

え?そんなに話したっけ?でもいいや、聞いてもらいたいから。私が話し出すと一虎くんはわざとらしく嫌な顔をして耳を塞いだ。いやっちょっと…あからさますぎない!?


「一虎くーん、迎え来ましたよーってあれ?お客さん?」

ドアの方を向くと、見たことのない黒髪で猫目の男の子が立っていた。まさか一虎くんを迎えに来るような人がいるとは思っていなかったから驚いた。

「お、千冬。迎えサンキュー。荷物一個持って」
「はぁ…で、この人は?」
「あーコイツは………友達」
「ねぇ何で今そんなに間があったの!?」

私がギャンと吠えるように突っかかるとまたわざとらしく耳を塞ぐ仕草をしてきた。ほんっとに…憎たらしい!

「お友達、ですか。初めまして、松野千冬って言います。一虎くんとは中学ン時から知り合いでー…」
「え!?じゃあもしかして同じチームだったり?」
「そうっス」
「なんと…!ご挨拶遅れました!わたくし三ツ谷くんのヨメ…いえ彼女のミョウジナマエと申します!三ツ谷くんから私の話聞いてるかもしれませんが…」
「いえ、聞いてないです。へぇー三ツ谷くんの彼女サンだったんすね」

三ツ谷くんの彼女サン。そのフレーズに私の目尻は緩やかに下がった。うわぁ…初めて言われた。三ツ谷くんの彼女だって。こんなにも嬉しいものだとは…。

「てか一虎くん。三ツ谷くんの彼女サンならそう言って下さいよ」
「そう言うとコイツあほみてぇに調子乗りそうだから嫌だったんだよね」
「一虎くん、最近私への当たり強くない?」
「むしろナマエちゃんは三ツ谷と付き合ってからウザくなってない?」

ウザい?そうかな…まあ確かに惚気すぎたかな?独り身の一虎くんにはちょっと遠慮なすぎたかな…と少し反省していると松野くんが三ツ谷くんとラブラブなんですねなんて目を細めて笑いかけてくる。…なんていい子なんだ。

「三ツ谷くんって彼女の前だとどんな感じなのか想像つかないっすね」
「あー確かに」
「デート中とかどんな感じなんですか?」
「あ、デートまだしたことないの」

私のその言葉に二人はギョッとした顔をした。いやでもあの、まだ付き合って半月だし!三ツ谷くん必ずしも土日休みじゃないし!私も隔週で土曜出勤だし!…なんて理由をつらつら述べてみたが、二人は驚いた顔をしたままだった。

「いやさ、付き合いたての一番盛り上がる時期にそれって大丈夫かよ?デートってさ仕事終わりにちょっとメシ食いに行くぐらいでもいいんだぞ?」
「でも三ツ谷くんすごぉくお忙しそうで…なかなか声かけづらくて…」
「確かに、デザイナーの卵って言っても雑務も多くてなかなかハードだって言ってましたよ。でも今日はさすがにデートっすよね?」
「え?」
「あれ?今日って12日じゃなかったっけ」

松野くんの言葉を聞いて12日…と自分で呟いてから、サーっと血の気が引いていくのが分かった。恐る恐るスマホを見る。ディスプレイに表示される日付は6月12日。ああ…今日、6月12日だ。

「今日三ツ谷の誕生日か!」
「でしたよね?確か」
「じゃあバシっと決めて来ねえとなナマエちゃん。…あ?ナマエちゃん?どした?」
「まさか、忘れてたんじゃ……」
「……」
「はぁ!?お前そんなんある!?あんなずっとベタ惚れだった男の誕生日忘れる!?」

一虎くんの言葉がズシンと脳に響いた。いや私…何やってんの。毎日毎日浮かれまくって、ラインの返事まだかなとか、今日は3分間だけ電話できたなとか。そんな目の前の出来事のことで頭いっぱいにしてばっかで…、私ほんっとになんてことを!!

「どうしよう一虎くん……」
「彼氏の誕生日忘れてんじゃねぇよ!今からでも三ツ谷に連絡入れろ!」
「彼氏…だけじゃない……今日自分の誕生日でもあるの…」

はあ?と二人の呆れた声が室内に響いた。私は呆れるどころかもう悲しみで卒倒しそうだ。その時スマホが振動し、三ツ谷くんからLINEが届いた。慌てて見てみれば『18時に舞浜駅集合。』と一言だけ書いてあり、もう涙が溢れそうになり視界が滲んできた。





「よ」

18時ジャスト。三ツ谷くんは舞浜駅に現れた。
流石に遅刻だけは絶対にできないと思い、今日は周りの目を気にせず定時ダッシュをきめたおかげで、私は15分前には着き、無事三ツ谷くんをお迎えできた。

「三ツ谷くん……ごめん」
「何が?」
「誕生日、0時ぴったりにお祝いしたかったのに…!」
「0時ぴったりどころかオレが連絡するまで忘れてただろお前」

返す言葉が思い浮かばず黙ってしまう私を見て、三ツ谷くんはやっぱりなと呆れたように息を吐いた。あー…軽く死にたい。いやほんと、あり得ないよね。彼女失格だよね。

「まぁオレもプレゼントとか用意してねぇし気にすんなよ」

そう言って駅構内から出て、煌びやかな世界へ一歩ずつ足を踏み出していった。プレゼント用意できてないとか言いつつ、舞浜駅で待ち合わせだなんて私は今から起こることが分からないわけはない。私が一番喜ぶことをしてくれてるのに。私にあんな冷たくしてたくせに。なのに、なんで…!

「はい到着。誕生日おめでとう、ミョウジ」

そう言ってディズニーランドの入り口前で、三ツ谷くんはペシンと私のおでこにチケットを押し付けてきた。はらりと落ちるチケットを手に取り、私は泣いてしまった。平日なのに、誕生日当日にディズニーランドに来れるなんて。彼氏と誕生日にディズニーに行くという私の昔からの夢を、こうも簡単な叶えてくれるなんて。

「三ツ谷くんも…お誕生日おめでとう」
「おー」
「さいっっこうのプレゼントだよ…本当にありがとう…!」
「プレゼントって…チケットだけじゃん。しかもアフター5だから安いし」
「安いとか高いとかじゃないよ!私彼氏と誕生日にディズニー来るのが夢で…!って私これ言ったことあったっけ!?」
「…さぁ。どうだったかな」

なんだか含みのある言い方だけど、とにかく私は自分の気持ちが抑えきれず三ツ谷くんの体に抱きついた。今日は特別な日だし思いっきり抱き返してくれるかなと期待したけど、三ツ谷くんは片手で私の頭を軽く撫でるくらいだった。でもそれが彼らしい気もして、なんだか心がくすぐったい。

「三ツ谷くん欲しいものなんでも言って。パーク内でなかったらまた休みの日買い物行こう一緒に。なんでも買ってあげる」
「なんでもって…」
「本当になんでも買う。家電でも車でも家でも何でも!」
「お前すげぇ貢ぎ体質なのな」
「そうでもしないとお返しした気になれないもん」

ぎゅうっと力強く、三ツ谷くんの肋骨が折れるくらいの力を入れて抱きしめた。でも私の力なんて全然通用してないのか、三ツ谷くんは涼しい顔をしている。もうヤンキーやめて喧嘩はしてないらしいけど、今でも筋肉質だし全然太ってないしもう顔から下もかっこよすぎて無理。

「マジでプレゼントいらねぇからな」
「やだ!あげる!」
「じゃあ今日のメシはお前奢って」
「そんなんじゃ足りない!」
「じゃああとは体で払ってくれたらいーよ」
「そんなんじゃ足りない!……って、え?」

えっえっえ?体?体って…えっそういこと?あの一晩だけの甘い出来事が急に蘇ってきて、自分の顔がブワッと赤くなるのを感じた。

「ドキっとした?あ、お前的にはキュンしたって言うんだっけ?」

悪戯に笑うその笑顔に、私はまさしくキュンとした。もうやだ…何なのこの人。反則。全てが反則級にかっこよくて私もう息ができない。

自分の我慢の限界が来たのか、気づけば私は背伸びして三ツ谷くんの後頭部を抑えて自分の唇を彼の唇にぶつけていた。勢いよくやってしまったからか、お互いの歯ががちっと当たってしまったが…もうそんなことすら気にならない。

「ヘタクソ」
「えっごめっ…」
「ちゅーは、こうすんだろ」

突然両腕でぎゅっと抱き込められ体がこれでもかってほど密着し、そのまま合わさった唇はとても深く、甘く、脳を溶かすようなものだった。歯なんてぶつからない、舌と舌が絡み合うようなキスに、私の目からは生理的な涙がつぅーっと流れた。すき、すき、だいすき。三ツ谷くん、だいすき。

「三ツ谷くん……」
「なに」
「もう無理、抱きたいです貴方をいますぐ!」
「いやまじお前さ…女がそんなこと言うなよ萎える」

さっきまでの甘い顔はどこへ行ったのだろうか。三ツ谷くんは眉間に皺を寄せ目を細め、いかにもヤンキーですって感じの表情を見せてきた。

「とりあえず中入ろうぜ。時間そんなにねぇんだから」
「あっう、うん!そうだね!」

ディズニーに行くのが夢とか言いながら…パークインする前に満足した挙げ句盛ってしまった。ああ恥ずかしい。三ツ谷くんから貰ったチケットを今一度握りしめ、中に入った。そこには何度訪れても心が弾む光景と音楽が広がっていた。

「イェーイ!夜に入るの初めてー!」
「ミョウジ」
「ん?」
「今日は無理だけど、また今度な?」
「へ?なにが?」

私が首を傾げると、三ツ谷くんはまた目を細めた。そして私の髪を乱暴に掻き乱してから言ったのだ。

「何がじゃねぇよ。抱きてぇんだろ?オレのこと」

その言葉に私は鼻血が噴き出しそうだった。やっぱり抱かせて下さい、今すぐにでも。




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