踏み越えたボーダーライン




やっちまった。まじでかなり…やっちまったと思う。

服を着ないでベッドの中でミョウジと二人。何がどう考えてもやっちまった、な展開でしかない。


記憶がないわけではない。久々に同窓会でミョウジに会い、店の隅で二人で喋っていたらそういう雰囲気になった…ような気がしたから二人で抜け出した。コンビニに寄って酒を買ってラブホに行った。二人で乾杯してまた酒が回って来た頃にベッドに入った。行為中にミョウジのピアスが引っ掛かったらいけないからと外してやった。ミョウジが三ツ谷くん巨乳が好きなんだよねと悲しそうに言ったからそうでもねぇよって言ったらミョウジは安心した顔をした。ミョウジの下着は黒だった。思ったより体が細かった。処女じゃなかった。ミョウジがもう眠いと言ったのにオレが求めて2回目もした。

…いやこれ記憶がないわけじゃないってモンじゃねぇじゃん。ばっちり全部覚えてんじゃん。どうすんだよこれ。軽ノリで男と付き合うミョウジを散々非難してきたのに、軽ノリでヤっちまうとかミョウジ以下じゃん。オレこんな男じゃないはずなのに…おかしい。なんでこうなった。

隣で眠るミョウジの顔を見ると罪悪感が生まれた。ああ、メイクも落とさず寝かせてしまった。コイツこういうこと気にしそうなのに。コンビニでメイク落としも買ってやるべきだった。ホテルのアメニティに置いてあるかもしれないと洗面台へ確認しに行き再びベッドに戻ったとき、三ツ谷くんとミョウジがオレの名前を呼んだ。

「……おはよ」
「おはよう……はぁ、良かった」
「え?」
「起きたら三ツ谷くんいなくなってたらどうしようって思ってて…」

そんな…さすがにホテルに一人コイツを置いて行くようなマネをする気は全くなかった。そんなんヤリ逃げみてぇなもんじゃん。さすがに人としてそれはないわ。

「えっと…メイク落としとか、置いてあったけど…使う?」
「あ、うん…」

洗面台に置いてあったメイク落としシートを開封し一枚取り出した。オレがやっていい?と聞けばミョウジは静かに頷いたので、シートをなるべく優しく彼女の頬に当てて化粧を拭き取った。目元の化粧が取れれば、中学時代のミョウジの顔が見えてきた。

「ミョウジ?大丈夫?」
「え?あ、うん。ありがとう三ツ谷くん」
「あー…どういたしまして」

明らかにオレの知っているミョウジと違う。オレの知るミョウジだったらオレと寝たことにキャーキャー騒ぎそうなモンなのに。そしてもう私たち付き合うってことだよね!?と調子乗ったこと言って来そうなモンなのに…。寝起きだからなのか、月日の流れがそうさせているのか。それとも…オレとヤったことを後悔しているのか。

後悔していてもおかしくはない。昔みたいにオレにベタ惚れみたいな感じは全くしねぇし。じゃあどうする。もうオレ達は成人なんだし、まぁこういうこともあるよなって何もなかったかのように解散すればいいのか。いやでも中学の連中にオレにお持ち帰りされた…なんて言い振り回されたらどうする。それは困る。事実だからなんも弁解できねぇし。じゃあ責任を持ってコイツと付き合うしかないのか…?男なら、覚悟決めるしかないのか?まぁでもコイツ…見た目悪くねぇし昔から話してて楽だし気遣わなくていいし、オレに何言われてもめげないから忙しくて会えなくなっても文句言わなそう。それにあんだけオレに惚れてたんだから浮気もしなそうだし…

あれ、案外コイツありなんじゃね?


「ミョウジ」
「なに?」
「ごめん…付き合ってもねぇのにこんなことして」
「いやそれは…私もだから」
「オレさ…こんなこと初めてで」
「私も」
「最悪だよなって思う」
「それは…私もだから」
「いやこういうのは一般的に男が悪いって…」
「違うの三ツ谷くん…あのね私ね、」

そう言った時ミョウジの携帯が鳴って、ミョウジは慌てて画面を見た。そして安堵した顔をして鳴り続ける携帯を枕の下に隠すようにしまった。

「出なくていいの?」
「うん大丈夫…一虎くんだから」
「は?一虎?お前まだ一虎と連絡取ってんの?」
「まぁ…」
「言っただろ。アイツ危ねぇから近寄んなって」
「大丈夫大丈夫。そういうのじゃないから。普通に友達なの」
「やめろって」

自分がそんなこと言う権限なんてないのは分かっているが、口が止まらなかった。一虎なんて…アイツ絶対ワンチャンミョウジとヤること狙ってる。いや今こんな状況になっちまったオレが言えることじゃないけど。あーやっぱダメだ。コイツはオレが見張ってないと。

「あの、それでさ…話の続きだけどさ」
「うん」
「わ、わたし…いま彼氏いて……」
「……は?」
「ど、どうしよう…どうしよう三ツ谷くん!?これれっきとした浮気だよね!?うわぁぁぁどうしよう!?」

いきなり昔のミョウジに戻った気がした。さっきまでの大人しくてしおらしい雰囲気はどこ行った。つか彼氏って…いんのかよ。なんだよそれ。もう完璧にオレのこと忘れてたんじゃん。

「やばいよどうしよう西くんにバレたら……こっこっ殺されるかなぁ!?」
「誰だよ西くんて…そんなおっかねぇ奴なのかよ…」
「いやめっちゃ優しいよ!?でも優しい男ほどプツンとキレた時怖いって言うじゃん!」

目が覚めたのかミョウジは本格的に慌て始めた。素っ裸のまま、胸元を隠すことなく。揺れるミョウジの胸を見ながらまたヤりたくなるなんて、やっぱオレの頭はイカれて来てんのかも。

「あ」
「え?」
「あー…悪ィミョウジ…ここ」
「ここ?」
「ごめん、触るけど…ここ」

ミョウジの右胸の横のあたり…脇に近い部分に赤い痕が数個付いているところを指で突かせてもらった。はっきりとは覚えてないけど…昨日コイツの胸元に唇を寄せまくってた記憶はある。これは多分その時のものだ。

「ちょっ…三ツ谷くんあんた…」
「ごめん…ほんっっとごめん!ちょっと消えるまで彼氏とそういうことはしない方がいいかと…思う」
「無理!どうしよう!?明日会う約束なんだけど!?」
「それ断れねぇ?」
「でも先週生理だからって断ってて…えぇー!どうしよう!?」

ミョウジがオレ以外の男のことで頭を悩ませている。その姿がどうもしっくり来ない。おかしいだろ。こんなのミョウジじゃねぇだろ。なんだよ西くんて。お前いつからオレのこと忘れてんだよ。絶対落としてやるって息荒くしてたくせに。

「お前さ、その彼氏とどんくらい続いてんの?」
「え、えーと…半年…とか…」
「ふーん…そいつのこと好きなの?」
「そりゃ半年も続いてるし…好き、だよ」

少し恥ずかしげに他の男を好きだと言うミョウジに猛烈に違和感を覚えた。なんかコイツ異様に垢抜けたし名前がミョウジナマエなだけでオレの知るミョウジナマエじゃない気がしてきた。だってこんなの…ミョウジじゃねぇじゃん。

「…悪かったな、何も確認せずこんなとこ連れ込んで」
「いやだからそれは私も…」
「じゃあお互い様ってことでこれはなかったことに」

そう、ある程度年齢のいった男女ならこんなことよくある。同窓会で再会して盛り上がっちまって、なんて本当によくあるパターンなんだと思う。一瞬でも変な考えが頭をよぎったことを恥じながらオレは脱ぎ捨ててあった服を着た。

「じゃな」
「ま、待って!三ツ谷くん!」

帰ろうとするオレの腕をミョウジは両手で掴んできた。なんだよ触るなよ。つか服着ろよこのアホ女。

「三ツ谷くんにまた軽い奴だとかバカだとか思われるかもだけど…言っていい?」
「…なに」
「彼氏いるけど…いるんだけど、それでも三ツ谷くんと同窓会抜け出したかったんだって言ったら…引く?」

さっき彼氏の話をしている時より何倍も顔を赤くしてミョウジはそう言った。…なんだよ。結局そうなんじゃん。やっぱお前オレの知ってるミョウジナマエじゃん。そのことにホッとしてしまう自分の心が憎たらしいけど、紛れもなく今オレの心は安堵していた。

「相変わらずバカだなお前」
「うん」
「軽すぎだし。オレ前も言ったけど自分から惚れた女としか付き合わねぇ主義だから」
「知ってるよ…ただ、誰とでもノリでこんなことするワケじゃないよって。私の気持ち知っておいてもらいたかったって言う、か」

ごちゃごちゃと喋るその煩い口を塞いだ。昨日も何度もしたけど、酒が抜けた今改めてするのはむず痒さと少しの恥ずかしさがあった。オレとミョウジがキスしている未来があるなんて、中3の時には想像もつかなかった。

「お前の気持ちなんて前から知ってんだよバーカ」
「ま、待って三ツ谷くん…ちゅーした後にそのセリフはきゅ」
「キュンすんな」

キュンとか知らねーから、とミョウジの頬を摘むとコイツは嬉しそうに笑った。やっぱバカだコイツ。これから彼氏と修羅場になるであろうこととか絶対ェ頭から抜けてる。

「三ツ谷くんだーいすき」
「はいはいどーも」

彼氏持ちのくせに軽々しくそんなこと言ってんじゃねぇよとしか今は言えない自分が、なんだか歯痒かった。



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