ちょいアホなココと合コンで出会う



(関東卍會の九井)

「は…?なんだよこれ」

そういって口をぽかんと開けるオレを「まぁまぁ」と宥めるのは、学生時代のダチだった。



オレはそこそこの私立の学校に通っていたけど、イヌピーがネンショーから出て黒龍を建て直してからはろくに学校なんか行かなくなったし、その後も東卍だ天竺だ関卍だと他のチームを渡り歩いていくうちに、学校なんてとっくに辞めていた。はっきり言って今のオレと繋がっているのは所謂不良の連中ばかり。なのに久々に偶然街中で会ったコイツはあの頃のように明るく「九井!久しぶりだな!」と声を掛けてくるもんだから調子が狂う。

「よぉ、元気そうじゃん」
「そっちこそ。…あーなぁちょっと時間ある?よかったら久々に飯行かね?結構美味いイタリアンすぐそばにあんだよ。食べ放題だし」
「…食べ放か」

腹は減っていたし時間はあったし何より…食べ放題。自慢じゃねぇけどオレの胃袋はブラックホール並みだ。まぁいいかと思い「行く」と返事すれば、そいつは笑顔でオレを店に連れて行った。……が、行ってみたら開いた口が塞がらない。



「おいテメェ…これって」
「…あ、バレた?」

店に着いた途端案内されたのは奥の個室。そこに待っていたのは複数人の男女が向かい合って座っている姿。更にこのまだ馴れ合いきってない雰囲気……これは合コンだ。一度も行ったことねぇけど、直感と僅かな知識で判断できた。

「帰る」
「わーー!待ってって!悪かったよ騙して!」
「てめぇオレ騙すとかいい度胸してんな?」
「九井と久々に会ったし喋りたかったのはマジ!でも今日急遽男側が一人来れなくなってさ〜…人助けだと思って!な?」
「助ける義理ねぇから」
「あー待って待って!」
「あ、全員揃ったの?」

個室から出ようとしたオレの前に現れたのは、艶のある長い黒髪を揺らした女だった。トイレでも行っていたのか、ハンカチを片手にしている。…いやなんだよこの女………なんでこんなキラキラして見える?

「男の子二人がなかなか来ないからどうしたかと思ったよ。まさか急遽来れなくなったのかなってー…」
「そ、そんなわけねぇじゃん!?」

自分の口から出てきた言葉に、オレ自身もダチもギョッとした。いやなんでオレこんなこと言った…?その女が可憐な笑顔で「良かった」と言うもんだから思わず顔を逸らしてしまった。…顔直視できねぇんだけど!?なんだこれ!?

「あーっと…じゃあ全員揃ったし始めるか!九井そっちの席な!」
「お、おう」

帰るはずだった合コンに、なんで参加してんだオレ…!?一番端の席の椅子に座るとさっきの女も向かいに座った。

「九井くんて言うの?私ナマエ。今日はよろしくね」

自己紹介なんてまだ始まっていないのに、その女はオレの名前を呼んでくれたし、自分の名前もこそっと教えてくれたのだ。そしてオレはその瞬間決めた。この女をぜってー落として帰る、と。





そのナマエという女は可愛かった。顔も仕草も喋り方も…もう一目見た瞬間にオレは恋に落ちた……って何言ってんだオレ。何キャラだよこれ。落ち着け。相手はただの女だ。マイキーみてぇなバケモン級に強い奴相手にしてるわけじゃねえんだ。ただの女だ。そう、ただの……

「九井くん、サラダおかわりいる?」
「…うん」
「なんか具合悪い?」
「…ある意味な」

そう言えば「大丈夫?」と顔を覗き込んでくれる気がしたから敢えてそう言った。そして案の定このナマエという女はそんな行動をとってくれる。くっっそ…覗き込んでくるな…可愛い……

「本当に具合悪いなら帰ったほうが…」
「いやごめん。全然大丈夫。サラダありがと」

サラダが乗った皿を受け取る時、彼女の手と自分の手が触れた。そんな些細なことにオレの手は過剰反応して皿に乗ったサラダが一瞬揺れた。…自分がこんな少女漫画みてぇな反応するなんて思いもしなかった。あーゲロ吐きそ。

「九井くんてどこの高校?」
「オレ高校行ってない。なんつーか…働いてる」
「えっすごいねえ!」

高校行ってないとか、こんか普通そうな女に言ったら引かれると思ったが、目を輝かせてオレの話を聞きたがるナマエに完全に心が持っていかれた。

やべぇ、可愛い、触りてぇ、連れて帰りてぇ。

この4つの言葉が延々と頭ん中でループする。わりーけどオレだってそういうことに興味ありまくる年齢だ。こんな女目の前にして純情な妄想してろっつー方が無理だ。…はぁ落ち着けオレ。自分がこの女に惚れてるのはもう分かった。ここから問題なのはどうこの女を自分に惚れさせるかだ。戦略練るのは得意だからな、ここは堅実にいこう。


「よく食べるね」
「あーオレめっちゃ食うんだわ」
「その細さで?」
「意外?」
「すっごい意外!」
「でもさ、そういうギャップある男っていいだろ?」

男も女も、異性のギャップに弱いのは常識中の常識だ。日頃から周りに言われるオレの1番のギャップっつったら大食いなことだ。運ばれてきたパスタもピザもぺろりと3人前平らげながらこれでもかってほどドヤ顔をすると彼女は笑顔で「う、うん…確かに、ギャップには私も弱いなぁ」と言う。ホラな、こうやって女は落とせるモンなんだ。

「九井くん、趣味は?」
「趣味?そうだな金集め……いや違う、アレだ、パソコンとか」
「へぇ〜そういうの得意なんだ?」
「そう、IT系強い。あとトランプ占いとか」
「え…?占い……?」
「…あー…えっと…あっあと喧嘩も結構できっから!」
「喧嘩…?」
「……いや喧嘩っつーか…ほら…、合気道とか空手とか、そういう武道系のスポーツ?得意なんだわ」
「へぇ、文武両道なんだね!」

半分馬鹿正直に喋っちまった感じだが、まぁなんとか上手く誤魔化せたし文武両道なんていいイメージ植え付けられたからヨシ。

「ナマエ…さん、の趣味は?」
「呼び捨てでいいよ」
「…ナマエの趣味は?」
「料理とか、最近はお菓子作りの方も」
「まじ?じゃあ今度作ってよ」
「九井くんたくさん食べるし作り甲斐あるなぁ」

…は?やばくね?冗談で言ったのにこれマジで作ってくれんじゃね?
こうやって話してると会話全然途切れねーし向こうも楽しそうにしてるしオレに興味持ってるっぽいし……コレはいけるな。合コンとか初めてだったけど、いけるな。



合コンがそろそろお開きになる頃、ナマエはトイレに消えていったからオレも後を追った。待ち構えるみてぇでキモいと思ったが…アイツが出てくるのを女子トイレ前で待った。

「わ、九井くん、いたの」
「おー…。なんかさ、みんな二次会に流れるかって話してんだけどさ、」
「うん」
「抜け出さね?二人で」

壁に寄りかかってポケットに手を突っ込み、あたかも余裕な雰囲気を作り上げたが内心ヤバかった。心臓バクバクうるせぇし、手汗まで出てきていた。断られ…ない、よな?こんだけ二人で話盛り上がったし、ナマエだってオレに惹かれてるはずだよな!?

「えー…却下」
「はぁ!?!」

驚いて声を上げてしまった。そんなオレの声にナマエも驚いた顔をしていた。却下じゃねぇだろ、ンだよそれ!?

「九井くんさー…結構アホだよね」
「はぁ!?」
「まず合コン初めてでしょ?女の子にもそんな慣れてなさそう」
「…まあ」
「あとわざとギャップいいだろ?とか大食いアピって来るし、その割に私が笑顔見せればちょっと口角上げて嬉しそうにモジモジしてるし…」
「モジモジ!?嘘だろ!?」
「あはは、ごめん。ちょっと嘘」
「ちょっと!?」
「あー面白い!見た目のクールさとこの中身のアホさが一番のギャップだよ」
「…違ぇよ、こんなんじゃねぇから普段は」

はぁ、と溜息を吐きながら前髪をくしゃりと掴んだ。オレがアホなわけねぇじゃん…オレがアホだったら周りの奴ら救いようのねぇドアホじゃん。誰よりも金作ることに長けてたし頭キレる自信あるし、オレがアホなわけねぇだろ。

「…オレがそんなアホに見えんならそれ全部お前のせいだから」
「あれ、人のせいにするの?」
「そう、全部お前の可愛さのせい」

ストレートにそう言ってやれば、さっきまで余裕の表情だったナマエの顔が一気な赤くなった。…あれ、これがこいつのギャップか?くそ……やっぱ可愛いな。

「アホなこと言ってる時より数倍グッと来たよ…」
「そうかよ」
「…抜け出そっか、九井くん」

そう言って控えめにオレの指先を掴んでくるナマエに「そうこなくっちゃな」と笑いかけると「九井くんの笑顔やばい」とまた顔を赤くした。その顔に、体に、唇に触れるまで、きっとあと少しだ。






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