「なんでお前ら付き合ってねーの?」

マイキーの隣に座るナマエを見ながらそう言うのは、一虎だった。やっぱりコイツは空気読めねー奴だ。今まで誰一人として聞いてこなかったその疑問を、平気でぶつけてきやがる。ドラケンは目を細めてため息を吐くし、三ツ谷は苦笑いしている。

「なぁ、なんで?なんで?」

ぐいっと顔を前に出してきた一虎にナマエは顔を顰め、マイキーは表情を変えないままどら焼きをもぐもぐと食っていた。ナマエは一言も発さない。マイキーはごくんと最後の一口を飲み込んでから口を開く。

「付き合うとかねぇよ、オレらは単なるガキの頃からの友達だから。な、ナマエ?」

ナマエはこくんと首を縦に振ってから、ペットボトルのほうじ茶を飲み始めた。

一虎はマイキーの返答にもナマエの態度にも納得できてない顔をしていた。はぁ〜?とかなんとか言いながら隣に座るオレに声を掛けて来た。

「場地、どう思うよアイツら」
「別になんも。前からあんなんじゃんアイツら」
「お前もガキの頃から一緒なんだろ?あんないっつもくっついて一緒にいる思春期の男女が付き合ってないとかおかしくね?アイツらバグってね?」

そうは言われてもな。アイツらは、ずっとあんな感じだ。オレが佐野道場に入った時には既にナマエもそこにいた。保育園の頃からの付き合いで家も近所らしく、本当にガキの頃からあの二人は一緒にいた。二人でマイキーの部屋にいることもあるし、ナマエは無防備にもマイキーのベッドで昼寝してることもあった。マイキーのバブの後ろに乗って集会にも時々連れて来られているうちに、他の東卍メンバーとも面識ができていった。でもなんとなく、「お前ら付き合ってんの?」はタブー化されてて、誰も聞いていなかった。

オレはガキの頃から二人を見ているからなんとも思わなかったけどまぁ…思春期になってからこの二人と知り合った奴らはそう思う気持ちもわからなくない。「アイツら絶対ぇ裏でヤッてるよな」と小声で言う一虎に思わず「は?」と言葉が漏れたが、すっげぇ痛そうな拳が一虎の頭上に落ちて来てオレの言葉は遮られた。

「〜〜ってぇぇぇ…何すんだよドラケン!」
「一虎、お前くっだらねぇこと言ってんじゃねぇぞ」
「はぁ?何がくだらないんだよ」
「アイツらがヤッてるとか、んなこと本人たちの前で話題にすんな」
「聞こえねーように小声で言っただろ!」
「いや丸聞こえだったぞ」

ナマエが飲んでいたペットボトルを当たり前のように横から取って口をつけて飲み始めたマイキーは、真っ直ぐに一虎を見て…いや睨んでいた。それを見さすがの一虎も口を紡ぎ、気まずそうにしていた。


「さて、帰るかお前ら」


集会後、神社の前でたむろってただけだったが、マイキーが立ち上がればオレ達は立ち上がった。マイキーとは付き合いが長いけど、やっぱコイツの言葉には場の空気が変わる。良くも悪くも。


「マイキー、もう飲まないの?」
「ん、いらねー」
「ちょっと残ってるじゃん」
「ナマエ飲めば?」
「もうぬるくなったし、嫌だな」

少し中身の残ったペットボトルを握りながらナマエは言った。そしてオレと目が合うとそのペットボトルをオレに突き出しながら、首を少し傾げた。

「場地、飲みたい?」
「いやいらねー」
「じゃあ三ツ谷?」
「オレもいいや」
「あー…じゃあ一虎」
「えー温いのオレも嫌なんだけど。つかお前とマイキーが口つけたやつとか…」
「飲んで。さっき変なこと言った罰として」

ナマエは一虎の胸元にペットボトルを押しつけて、逃げた。「はぁ!?ふざけんな!」と怒る一虎の声なんてアイツは何一つ気にしちゃいなかった。汗ばむ初夏、温いほうじ茶(しかも飲み残し)なんて結構嫌なもんだと思う。その地味な嫌さをナマエは理解して、一虎に押しつけたんだろう。

マイキーは自分の隣に立つナマエの手を握ったり腰に手を回したり、そういった触れ合いはしない。だがまぁ距離はいつも近い。肩が触れ合うとか当たり前だし、「お前ティッシュ持ってねぇ?」とナマエのポケットにマイキーが手を突っ込むとかは日常茶飯事。でも、恋人じゃない。それがコイツらの距離感だった。

ナマエが乗るのはいつもマイキーの後ろだった。一度何かの時に「乗るか?」とオレは聞いたことがあったが、「遠慮しておく」とサラッと断られたことがあった。





「場地」

とある日の放課後、やることもねぇしなんとなくマイキーの家に向かっている途中、ナマエに声をかけられた。ナマエも学校帰りなのか制服を着ていたが、なんか見慣れねぇ感じがすると思ったら夏服に衣替えされていた。

「おー。お前もマイキーんち?」
「ううん別に。約束してないし」
「約束してなくてもいつも行ってるだろーが」
「うーん、そうでもないよ?最近は」

ナマエと二人で肩を並べて歩くのはいつぶりだっただろうか。昔はマイキーも入れて3人でよく歩いていたけど、オレが引っ越して別の中学になってからはその機会がめっきり減った。オレが唯一幼馴染と呼べる女。昔から知っている仲の女。だけどオレとナマエの間には、マイキーとナマエの間に流れるような雰囲気もなければ肩がぶつかり合う程の距離感もない。オレ達の間に吹き抜ける生ぬるい風が、妙に虚しさを醸し出させるのは何故だろう。




「寄って行かねーの?」

佐野、と表札が掲げられ門の前でそう聞くとナマエはゆっくりと首を横に振った。

「男同士の付き合いもあるでしょ?」
「お前男みてぇなもんじゃん」
「ひどいなぁ」

ナマエは静かに笑った。
男みてぇなもんだなんて言われたら、普通の女なら怒ったりすると思うけどナマエはそんなことはしなかった。というかコイツは、昔から温度が一定と言うか、淡白と言うか、低燃費と言うか。とにかく声を荒げたりしねぇしキャッキャと女子っぽいはしゃぎ方もしない。ただでさえオレ達といる事が多い上にこの性格だから、女友達とかいるのか時々心配になる。

「じゃあね」
「おい、本当に寄ってかねーの?マイキーも、」

マイキーもお前に会いたがってるはずだ、って言おうとしたが口が止まった。そう言った時、万が一ナマエが顔を赤らめたりしたらオレはどういう反応をしていいか分からなかったからだ。


「場地?ナマエ?」

敷地内からマイキーが現れ、門の前で立っているオレ達に声をかけて来た。私服で、髪ボサボサなところを見ると今日は学校行ってねぇんだな。どうせ寝過ごしたとかそんな理由なんだろうけど。

「遊びに来たのか?入っててよ、なんか飲むもん持ってくるわ」
「あー、サンキュ。で、お前はどうすんだよ」
「ん?ナマエも来るだろ?」
「…いいの?」
「え?」
「たまには男同士で遊んでたいんじゃないかなって思って」

マイキーはその言葉に目をパチクリさせ、その後軽く笑った。

「なーに今更言ってんだよ。別に男だけでいる日だってあるけどさ、お前はそんなつまんねぇ遠慮してんじゃねぇよ」

そう言ってマイキーはナマエの肩に手を置いて家の中に招き入れた。その姿を見て自分の片眉がピクリと動いたのを感じた。マイキーがナマエに触れる。そんな当たり前のようで滅多に目にしない光景に、オレの目はまだ慣れていなかった。





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