淡い甘い朝寝の夢 

ぐっと腰あたりに何かが触れる違和感で目が覚めた。なにかと思うと私の腰に巻きつかれていた三ツ谷くんの手がもぞっと動いた違和感だったようだ。少しくすぐったく感じたその手をそっと外してから時計を確認する。午前3時25分。あたりはまだ真っ暗だった。

はぁ…やってしまった。いや、一つ屋根の下で暮している以上遅かれ早かれこうなることは分かっていたのだが。三ツ谷くんは上半身裸のまま眠っていた。いくらこの季節だからと言え寒くないのかな。

キッチンに行ってコップ一杯の水を飲んで一旦頭を落ち着かせた。三ツ谷くんは彼氏じゃない。だから私以外の女と会ってナニしてようが、私が口出しできるわけはない。でも残念ながら私の脳はそう簡単に気持ちを処理できない。肌を重ねてしまって改めて感じた、私の彼への想い。悔しいけど、やっぱかっこいいし付き合うなら三ツ谷くんがいいと思ってしまっている。色々難ありな性格なのは分かってるけど、でも……


「名前ちゃん!?」

ベッドの方から慌てた彼の声が聞こえ驚いてそっちを見た。私と目が合うと「あ、良かった」と三ツ谷くんは安心した顔をした。

「どうしたの…?」
「いや…ぱっと目覚ましたら名前ちゃんいねぇから…いなくなったかと思って焦った」
「え?ここ私の家だよ?」
「分かってるけどこう…腕の中にいたはずなのにってビックリしたんだよ」

よく見れば三ツ谷くん、額に汗をかいている。そんなに焦ったの?なんで?私がいなくなったくらいで?意味わかんない。

とりあえずタオルと水を彼に渡す。ゴクゴクと水を飲み干すその喉元の動きにすら目を奪われる。そっと彼の汗を拭くと「ありがと」と微かな声で呟かれた。

「三ツ谷くん、ちゃんと服着て寝なよ」
「だってオレのTシャツ名前ちゃんが着ちゃってるんだもん」
「え?…あ、ほんとだ。ごめん」
「うそうそ。オレが着せたの。名前ちゃん裸のまま寝ちゃったからさ」
「ここ私の家なんだから私の服なんていくらでもあるのに」
「んーでもなんかいいじゃん?女の子が彼氏の大きめの服着るのって。定番だけどグッとくる」

彼氏?
驚いて顔を上げるが三ツ谷くんはたまたま時計を見てるタイミングだったから目が合わなかった。…え?彼氏って、なに?言葉の綾?

「ん?どーしたのこっち見て」
「えっ、あの、いや今」
「名前ちゃん、かーわい」

空になったグラスを床に置いた三ツ谷くんはそのまま私を押し倒して口を塞いできた。「今彼氏って言った?」と言おうとしていた私の口は簡単に発言権を奪われた。

「んっ…ちょっと」
「明日…あ、もう今日か。祝日だし休みだよね?」
「うん…」
「じゃあもう一回シたい」 
「え……」
「ね、いいでしょ名前ちゃん」
「…いいよ」

完全に私は彼の良いように扱われてる。なのに拒めない。拒みたくない。あぁもう、だから嫌だったんだ、この男と再会するのは。







三ツ谷くんと1時間かけてじっくりえっちをし、その後二人でもう一度寝た(今度は彼もちゃんと服を着ていた。)目を覚ましたのは朝の9時半で、一緒のタイミングで起きた三ツ谷くんは今日も朝ご飯を作ってくれた。しかも私がリクエストしたら、ちゃんとだし巻き卵を作ってくれた。

「オレ午後から出掛けるね」
「…そう」
「なーんでそんな悲しい顔すんだよ。不動産屋行ってくるだけだから」
「…別に何も聞いてないもん」
「表情で聞いてきてたぞ。“三ツ谷くんどこ行くの?女のところじゃないよね?”って」

歯を見せて笑いながらそんなことを言ってくる男、いますかね。世界一美味しいだし巻きを咀嚼しながら三ツ谷くんを軽く睨むと「嘘だって」とまた笑われた。もうやだ、この男。せっかく幸せな甘い夜を過ごせたと思ったのに、朝になったらこんな態度かよ。

「住むところ見つかりそうなの?」
「んーとりあえず即入居可のところリストアップしとけとは言っといたんだけど」
「いいとこ見つかるといいね」
「それにしてもさ、この辺いいとこだよな。二路線使えるし、バスの便もいいし、大きいスーパーあるし美味そうな飯屋多いし」
「そうそう。だからさぁこの辺結構家賃高いんだよー」
「だよなぁ。でもオレこの辺住みたいんだよなぁ」
「えっ!?」
「そしたらすぐ名前ちゃんにも会えるし」
「えっ!?」
「家賃的な問題もあるんだろうけどさぁ、名前ちゃんがこのオートロックもないアパートで一人暮らししてるとかオレ心配で仕方ねぇんだわ。だから近くに住んどきたいなって」

いや…やめてくれよ。いくらこの街が気に入ったからって近所に住むとか勘弁してほしい。三ツ谷くんが駅前で他の女といちゃついて歩いてるとことか、他の女を家に連れ込んでいるとことか、絶対絶対見たくないんですけど!

「…この辺なかなか空きないと思うよ」
「やっぱり?じゃあオレもうここに住むしかねぇかな?」
「はい!?」
「そしたらずーーっと名前ちゃんと一緒にいられるし?」
「……」
「ジョーーーダンだって。かわせよ」

ヤッたからか何なのか、三ツ谷くんは昨日より明らかに私を揶揄う態度に転じてきた。…もうやだ……本当に勘弁してください。



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