誰かと誰かのラブストーリー



※山崎、ブラックです



「好きです」
「うん」
「つ、付き合って、ください…」
「うん、俺でよければ」
「ほ…ほんと!?良かったーあ」
「うん」
「あ、あのそれで…」
「ねぇもういいでしょ、何回やってんのコレ」
「ちょー!ここまで来たのに中断させんなバカ!」

名前はさっきからこればっかり。ずっと好きだったバイト先の先輩に今日やっと告白するとかでさっきから俺はその練習台にされている。もう何回も何十回も、練習で告白され続けている。

「ねー…今みたいな感じで大丈夫なのかなぁ?」
「うん」
「あー!先輩ひいたりしないかなぁ!?変じゃないよね、わたし」
「うん」
「もー!退さっきからうんしか言ってないじゃん!真面目に考えてくれてる!?」
「うん」
「聞けよオイ!」
「うるさいなー。ちゃんと聞いてるから」
「うんしか言わないくせに…」
「だってうんしか言いようがないから」
「…なんか今日の退冷たい。なんかあったの?」
「…別に」

機嫌悪くもなるよ。こう何回も何回も名前から好きです、なんて言われてるのにそれはただの練習だなんて。しかも他の男に告白するための練習だなんて。いくら俺だって機嫌悪くなるよ。もう名前の練習台なんて、ウンザリだ。

「退、ありがと」
「は?」
「告白の練習だなんて、くだらないことに付き合わせちゃってごめん」
「…別に」
「けどさ、退くらいしかこんなこと頼める人いないからさー」

まるで俺が特別な人、て言ってるように聞こえるんですけど。だったらさっきの『好きです付き合ってください』ってのも俺に向けての言葉だったらいいのに。バイトの先輩なんて死んじまえ。そしたら名前は俺だけを見てくれるのに。

「上手くいったら退に一番にメールするね!」
「うん」
「じゃっ、行ってきます!」
「行ってらっしゃい」

俺はただ、去っていく彼女の背中を見つめることしか出来なかった。好きな人が幸せならそれでいい、なんて思いは俺にはない。ドラマなんかでこういうキレイごと言ってる人よく居るけど実際にこんなこと思ってるほど人間てキレイな生き物じゃないと思う。だって実際、俺がそうだし。

失敗しちまえ。フラれろ名前。そしたら俺が一番に慰めてやるから。俺の携帯、お前からの残念な報告のメール以外受信しねぇからな。



しかしその晩、俺の携帯に届いたメールは彼女にとっての幸福のメール、俺にとっての不幸のメールだった。ハートの絵文字なんかつかっちゃって、無性に腹立つんですけど。俺は携帯を力強く握り締めた。そして、そのメールを削除した。もういっそ、携帯すら壊してやりたい気持ちだった。


「…つまんねー」


これは初めから所詮、どうせ誰かと誰かのストーリーだったんだ。なのにお人好しなふりをしてあんなくだらない練習に何度も何度も付き合って。俺も馬鹿にも程がある。
元々、これは俺には関係ない話だったのに。





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