社交辞令と共に去る春




「答辞」

どこのクラスの誰だかも分からない真面目そうな男子が答辞を読み始めた。入学式やら文化祭やら定期テストやら思い出を振り返る文章が読み綴られると、周りからは啜り泣く声が。しかし私は泣けなかった。文章上手だなぁとか、そういうことしか考えられなかった。そして校歌斉唱でみんな馬鹿泣き。男子まで鼻の頭赤くして鼻穴から水垂らして。ちげぇよこれ花粉だよ、と誤魔化したりして。

あーあ なんで私泣いてないんだろ。

寂しいよ、もうこの高校に来れないのは。だってもう会えない人が大勢いるんだから。関係が終わってしまうんだから。





「高杉」


式が終わり会場の外で写真を撮ったり後輩からなんか貰ったりと皆が賑わってる中、私は必死に人をかきわけて彼を探した。こういう行事ダルいと言っていたから端っこで一人でいるかと思えば、クラスの子達と喋っていた。だから余計見つけにくかった。


「よぉ」

声をかけたら友達から離れて私に近寄ってくれた。それだけで嬉しかった。友達より優先してくれるだけで十分だった。

「…卒業おめでとうだね」
「だな」
「大学、頑張ってよ。留年すんなよ」
「お前もな」

一言でしか返してくれないのはいつもの事。だからそんなに怖くないはず。一言、たった一言を言葉にするのは。言えよ、言えよ私。これ逃したら最後なんだから。


「泣いてねぇんだ?」
「え、うん」
「お前絶対泣くと思ってた。もう皆に会えないーとか言って」
「ははっまあ…寂しいは寂しいんだけど」
「俺にも会えなくなるしな?」
「…ね」

「高杉も私に会えないと寂しい?」って聞けるぐらい素直で可愛い子だったら良かったのに。そしたら喉に突っかかっているあの一言も簡単に言えそうなのに。

好き、好きだよ高杉。なんとなく一緒にいる時間が多かったけど、私達は友達とも恋人とも括れない変な関係だったからこそ言えない。だけど本当は好きでたまらなくて、卒業して寂しいと思うのはアンタがいなくなっちゃうからなんだよ。


「…あ、クラス写真だ俺」
「そか…うちのクラス最後だからまだまだだよ」
「じゃあもう行くわ」
「うん…」
「じゃーな」
「…高杉!」
「あ?」
「また、ね」
「…あぁ、またな」


言えなかった。結局最後まで言えなかった。馬鹿だなわたし。もうこれでサヨナラだよ。またな、なんて言葉は当てにならない。あんなの社交辞令。だけど、またなって言いながら笑ってくれた高杉の顔が消えなかった。アイツでもあんな風に笑うと最後の日に知った。

少し遠くに見える高杉の背中を見ていたら、今日初めて涙が流れた。寂しいと感じる原因は、全てアンタだった。





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