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自分らしからぬ発言だけど、大切な女ができた。

その子は当たり前に一般的な平和で真っ白でクリーンな社会で生きていて、梵天のぼの字も知らないどころか裏社会ってなんですかぁ?とか聞いてきそうなぐらい心が綺麗な子だ。いや、流石にそれは馬鹿にしすぎか。でも本当にそのくらいオレとは対極的な世界の子だ。

「あ、蘭!こっちだよー」

彼女の仕事終わりの時間に待ち合わせて飯を食いにいくなんて、すげぇ健全なお付き合いだろ?だけどそれがいーんだよ。アホみてぇに清い気持ちになれる。

「名前、今日のワンピース可愛いね」
「え?ありがとう」
「靴もいいね。あ、飯食いにいく前にさ、バッグでも買いにいかね?その服装に合うやつプレゼントさせてよ」
「え?なんで?いいよ。誕生日でも何でもないんだし」
「オレが勝手にプレゼントしたくなっただけだから」
「蘭ちゃん。プレゼントは然るべき時にして下さい。ほいほい女にモノあげるような男は軽くて嫌だよ?」

え、まじ?女の子ってこーゆーの喜ぶんじゃねえの?今までオレの周りにいた女達とはタイプが違すぎて名前といるとカルチャーショックみてぇの受けてばっかだ。

名前は可愛い。ギラギラ派手な可愛さじゃなくて、なんつーの自然体の可愛さ?仕草と喋り方とか、生まれつきのもんなんかな。こんな感じの女の子、小学生んときクラスにいたよなーって思い出す。中学以降は派手なチャラついた女しか寄ってこなかったし付き合いもなかったから、10年以上ぶりに出会った名前みてぇなタイプの女が新鮮で可愛くてとにかく可愛くて愛おしかった。時々蘭ちゃんって呼んでくるのがオレ的にツボすぎた。

「じゃあさ、来週プレゼントさせてよ?3ヶ月記念日に」
「えっ、3か月記念でバッグ?いいよそんな高価なもの」
「いーんだって。ていうか記念日覚えてる蘭ちゃんを褒めてよ」
「うん、そこは嬉しい。覚えててくれたなんて。蘭ちゃんいい子いい子。…でもバッグは要らないからね」

名前は謙虚でいい子だ。女なんてブランド物チラつかせると急に甘えてきたり尻尾振ってくるのに、名前は違った。

「蘭、お金は自分の為にちゃんととっとくんだよ」

たまに母ちゃんかよって感じのこと言ってくるけど、なんかこう言い方とか可愛かったからムカつかねぇ不思議。あーわかってるよ自分でも、ベタ惚れだって。竜胆にも散々馬鹿にされっけど、仕方ねえじゃん惚れてんだから。

メシ食った後はオレの家に行くのがいつもの流れだ。都内の一等地にあるタワマン。その最上階のペントハウスがオレの自宅だけど、そんなとこに名前を連れてったら引かれたり住む世界が違うとか行って離れられかねない。だからいつも名前を連れて行くのは同じマンション内の12階のふつーの2LDKの部屋。資産運用の為にと買っておいた部屋がこう活用されるとは思ってもいなかった。名前を呼ぶ前日に家具家電を搬送して「ふつーの部屋」を慌てて演出した。


「いつ来ても蘭の部屋は綺麗だね。生活感もないし」
「ははっ」

だってここで生活してねーもん。

「わぁー今日も夜景がきれい」
「そう?前のビル邪魔じゃね?」
「えーでも光がキラキラしてる見えるじゃん」

目の前のビルも横のマンションも12階以上の高さがあるから夜景見ようにも邪魔だし。はあ、こんなくらいで綺麗だと言う名前に最上階からの夜景を見せてやりたい。

「名前、一緒に風呂入ろう?」
「あ…うん。じゃあパジャマ…」
「うん、持ってきてあげる」
「ありがとう…」
「ちゃんと洗っておいたから」

ハウスキーパーがね。

名前にはオレの仕事は飲食店やサロンの経営だと言ってある。だからまぁ、そこそこ金持ちってくらいの設定だからタワマン住んでてもさほど怪しまれていない。名前は企業の受付嬢やっていて、毎日色んな男の前で笑顔を振りまいている。それが正直嫌すぎる。この可愛さだ。オレ以外に名前に惚れてる男なんて星の数ほどいるんじゃねぇかと思う。

あーくそ、なんとかして名前を閉じ込めてオレ以外の誰とも触れ合わない世界に住まわせたい。どうすりゃいい?

そんなことを考えていると風呂に入ったまま名前のことを襲いそうになった。お触りだけで止められたけど、逆に焦らされてる感じがしてたまんねー。

「蘭さぁ、一切自炊しないの?」

風呂上がり、うちの冷蔵庫の中を覗きながら名前は言った。

「うん」
「じゃあ今度私何か作ってもいい?」
「…マジ?」
「うん。と言っても、いつも蘭が外で食べてるような美味しいのは作れないけど…素朴なものでもよければ」
「うん、いい。ていうかそーゆーのが食べたい。名前、今度作って?絶対」
「分かった。リクエストあったら言ってね?」

え、何この可愛い生き物。オレの為に手料理?本気?もうどうせならオレが帰ってきたらキッチンから顔出して「おかえり、ご飯できてるよー」なんて言ってほしい。そんでお風呂も沸いてるからねーとか言いながらオレの上着をハンガーに掛けてお仕事お疲れ様とか言って…

あれ、オレなんでこんな変な妄想してんだ?

「蘭?どうしたの?」
「んー、なんでもない」

そんならその妄想を現実にしてしまえばいい。そう、結婚だ。名前と結婚するしかない。そうすれば名前が仕事辞めたってオレの金で生活させる大義名分だってできる。そうだ、それでいーじゃん。

「名前名前」
「なぁにー?」
「結婚しよっか」
「…はい?」
「オレの奥さんなってよ名前」
「え、っと…急すぎない?私たちまだ2ヶ月しか付き合ってない…」
「愛の深さに時間なんて関係ないよね?」
「そうかもしれないけどさぁ、もっとお互いのこと知ってからじゃないとすぐ離婚なんて事になりかねないよ!?」

名前は真面目だなぁ。何言ってんだよオレと名前が離婚するわけねぇじゃん。でもなぁこのままゴネたって婚姻届書いてくれるとも思えねぇし…付き合う時もオレのゴリ押しで半ば無理やりだったしなぁ。なんかもっとこう、結婚せざるを得ない状況に…

「あ、そっか分かった」
「え?」
「んーん、何でもない。名前、ベッド行こうよ。早く風呂での続きしよう?」
「あ、うん…」

名前の手を引いてベッドに連れて行き、いつものごとくたっぷりと愛してあげた。オレの下で喘ぐ名前はもうこの世のものとは思えない可愛さで、もう挿れたくて仕方なくなる。でもまだだと我慢して、名前が懇願してきたタイミングまで待つ。

「蘭…」
「ん?そろそろ挿れてほしい?」
「うん…」
「わかったわかった。じゃあ今日は後ろ向いてね」
「え?うん…」

いつもと違ってバックで突いていく。いつもと違う景色にたまんなく興奮した。名前、オレの可愛い名前。待ってろよ、すぐにオレだけのモノにしてやるからな。








「ら、らん…」
「どうしたの?」
「大変言いにくいんだけど…」
「ん?なに?名前の話ならどんな話でも聞くよ?」
「…最近体調おかしくって、生理も来なくて…仕事のストレスのせいかなって思ってたんだけど病院行ったら妊娠してる、って言われて……」
「えぇ〜マジ?」
「ごめんなさい…蘭いつも避妊してくれてたのにこんなことになって……それで、堕胎するための書類貰ってきたんだけど、」
「堕胎?なんで?オレと名前の子供でしょ?産んでよ」
「…え?蘭、いいの…?それどういうことか分かって言ってる…?」
「分かってるって。つまりはこういうことだろ?」

オレが差し出した記入済みの婚姻届に名前は目を見開いた。

「後は名前の自著と印鑑だけね。あ、戸籍謄本なんかも必要か」
「え?蘭これいつ記入してたの…?」
「えーいつだっけ。まぁいいじゃんそんなの。名前、オレと結婚して世界一可愛いオレの奥さんになってよ」
「………」
「だーいじょーぶ。名前も子供も、オレが世界一幸せにしてやっから」

まだ膨らまぬ名前の腹を撫でながら名前の形のいい唇にキスした。そして彼女にペンとオレが既に購入しておいた印鑑を握らせた。

「…蘭ちゃん」
「なーにー?」
「避妊…してた、よね?」
「うんうんしてたしてた。いつもしてた。でもさぁ、コンドームって100% じゃないからねぇ」


名前はげんなりした顔で「しっかりしてよ」と言う。うん、オレしっかりしてたって。しっかり名前の死角でゴム外して名前が妊娠するようしっかり仕向けたんだって。だってさ、このくらい強行手段に出ないと名前はオレと結婚してくれないっしょ?

安心しろよ名前。お前は世界で一番愛されてる花嫁だから。





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