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「んで?なんだって?」
「だーかーらー。ここを名前とオレの愛の巣にしたいからお前出てってくんね?ってこと」

愛の巣って…自分で言ってて恥ずかしくないのかこの人は。

名前が無事(?)兄貴の元に戻ってきたことをキッカケに、この最上階の部屋を自分たちの住まいにしたいと言い出してきた。一応オレも他にマンション持ってるけどさ…ここで一番生活してたし必要な物なんかは全部ここに置いているから正直出て行きたくはない。面倒だし。

「つーかそんなら兄貴たちが新居探せばいいじゃん」
「面倒くせぇ」
「それはオレも一緒なんだよ!!」

それにここ気に入っているだとか、名前もこのマンション自体には慣れているからだとかつらつらと言い訳を並べて兄貴はオレをここから追い出そうとしやがる。ほんっとに…勝手な兄だと思う。慣れてるけどさ。でもうぜぇもんはうぜぇ。

「蘭。別に私今までどおり12階でもいいよ」
「オレがやだよ。狭いじゃん。それにさ、今度は本当に子ども生まれるかもしれねーじゃん?」
「……」

あ、否定しねぇんだ。名前もなんだかんだすっかり兄貴に気持ちが傾いたんだと改めて感じさせられた。騙し合いの結婚だったが、まさかこうも丸く収まると思わなかった。名前のことは結構本気で怪しい女だと思ってたし。そして正直、今でもオレは心許せたわけじゃない。この灰谷兄弟を欺くために結婚までした女だ。はっきり言ってかなり肝は据わっていると思う。でも、

「…いいよ、オレ出てくから」

兄貴がこれだけアホみてぇに惚れてるなら、本当は応援してやりたい気持ちがあるから。別にちょっと引っ越すぐらい本当はいいんだ。それに、 名前が今度こそ本当に兄貴と幸せになるつもりなら……別に、いい。


「待って竜胆くん」

面倒臭ぇ引越し作業なんかは業者に頼めばいいし、とりあえず必要なもんだけ簡単にまとめていたら、 名前がオレの部屋に入ってきた。

「ごめん…本当に」
「あーいいよ別に。他にもマンション持ってるし元から時々そっちにも行ってたし」 
「そうじゃなくて、今までのこと…。実質竜胆くんのことも騙してたようなもんだし…」
「反省してんだ?」
「そりゃあまぁ」
「兄貴に謝ってやれよ。あんなアホだけどあんたのことは本気で好きみてぇだから」

うん、と控えめな声が聞こえてきた。元々の性格なのか、演じているうちに板についたのかどっちかわかんねぇけど 名前は相変わらず高い声男心をくすぐる様な喋り方をする。オレに演技する必要がない今でもこうなら、元々こういう喋り方だったんだろうけど……。サイトウなんかに目ぇ付けられずにいたらそれなりにモテた中学生活だっただろうに。

「竜胆くん、蘭のことすごく大事に思ってるんだね」
「は!!?」
「これからも義姉としてよろしくね竜胆くん。あ、またハヤシライス食べに来てね」

そういって名前が見せてきた笑顔はオレ達を騙していた時に見せていたような笑顔だった。久々に見たかも、コイツの笑った時にできるエクボ。きっと目元なんかは整形済みなんだろうけど、エクボって整形でできるもんなのかな。生まれ持ったものなんだったとしたら、コイツは幸運だと思う。これにやられる男、一定数いると思うから。

無意識的に指を伸ばしてエクボをつつこうとした時「名前〜」と兄貴が呼ぶ声がしたから、慌ててその指を額に持っていき精一杯デコピンしてやった。

「いったぁぁい!」
「は?竜胆お前いま名前に何した?」
「別に。オレ達を騙したんだからちょっとやり返しただけ」
「もぉー…結構痛かった」

オレをギロリと一瞬睨んだ兄貴は、腰を屈めて名前の額に手を当てていた。鼻と鼻がくっついて、なんなら唇すらくっつきそうなその距離にため息が漏れる。こんなことがあってもやっぱり兄貴は名前にベタ惚れだ。でも名前も兄貴にもう完全に、ベタ惚れだった。



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「蘭ちゃんおかえり」

竜胆が出て行って名前と最上階の部屋で暮らすようになって数ヶ月が経った頃。仕事を終えて深夜に帰宅すると、だだっ広いリビングから名前が顔を出したから驚いた。

「なんでこんな時間まで起きてんだよ」
「んーなんか眠れなくて。蘭が帰ってくるまで待ってた」
「寝ろよ。夜更かしは美容の大敵だぞー」

名前の頬を撫でるとしっかりケアされてんのかツヤツヤのすべすべで思わず何度も撫でてしまった。あーやばくね?子供かよこの肌質。

「ナマエー蘭ちゃんお前を抱きてぇんだけど」
「えー、今から?」
「うん、今から」
「えー」

えー、と言いつつオレの腕の中で困ったような困ってないような顔をしてじゃれついてきた。名前はオレの元に戻ってきてから明らかに態度が変わった。まぁ前から名前がオレのこと好きなのは分かっていたけど、明らかに好きオーラが出ているように感じる。今までのどこか胡散臭い笑顔もたまんねぇけど、こうやって甘えてこられたらもうダメ。色々ダメ。

蘭ちゃんやめて、とオレの腕の中で小さく抵抗する名前をそっと押し倒しながら前開きタイプのルームウェアのボタンを一つずつ外していく。ふわふわもこもこのルームウェアは名前に着せたら絶対ぇ可愛いと思ったから全色買いしたやつだ。今日はベージュのを着ていてもうほんっとトイプードルかよって可愛さだ。いや、トイプードルより可愛いんだけど。

「お、今日黒?」
「蘭ちゃん、ご飯は食べないの?」
「はぁ〜?今それ言う?」
「折角作ったんだもん。ご飯もさっき炊いておいたし。お腹減ってない?」
「減ってるから名前食う」
「私じゃお腹いっぱいにならないでしょ!はい手洗ってうがいしてきて。ご飯用意しとくから。あ、ちゃんと靴下はカゴの中入れてよ!?」

あと少しで黒のブラに触れられそうなところで名前はボタンを閉じながらソファから立ってキッチンに向かった。ちぇ、と肩を落としたけど…まぁいい。名前はもうずーーーーっとオレのそばにいるんだし。いつもみたいに叱ってくるのも、やっぱりオレは好きだった。


「ナマエー手ぇ洗ってきたから早くメシー」
「…うん」
「あ?どした?口元抑えて」
「なんか、炊飯器開けたらウッときた…」
「はぁ?なぁーんか前もそんなこと言ってたよなぁ」

ケラケラ笑いながら炊飯器の前に立つ名前の肩を抱いたが、すぐにしゃがみこんだ。…あれ?なんか本当に調子悪い?

「名前?大丈夫か?吐く?」
「吐くほどではないけど……ねぇ蘭」
「ん?」
「避妊…してた?」

その質問にオレは記憶をグルグルと巡らせた。避妊…避妊?するわけなくね?だって前だって避妊したフリして中に出してたけど、名前はピル飲んでたから結局妊娠しなかったわけだし。

「してねぇよ?する必要ねぇだろ?」
「私もうピル飲んでない…」
「なんで?」
「もう…必要ないかなって」

そう言ってぎゅっとオレの首に腕を回して抱きついてきた名前。その小さな背中を左手で抱き締めつつ、右手で彼女の腹を優しく撫でた。顔を見合わせて照れ臭そうに笑うから、我慢できずにその唇に齧り付いた。うん、やっぱりオレの嫁は今日も宇宙一可愛い。



fin.




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