「ナマエ今日も部活?」
「うん」
「コンクール近いんでしょ?大丈夫?先生入院しちゃって」

帰りのホームルームが終わり、ガヤガヤとした教室。みんなそれぞれ部活の準備や帰宅の準備をしている中、クラスの友人達が話しかけてきた。

「この間からね、先生の元教え子のデザイナーさんが指導に来てくれてるの。だから大丈夫」
「えー!良かったね」
「なに、デザイナーってプロの…?」
「プロって言うのかな…とりあえず職業がデザイナーの人」

友人達がいいなぁーとか、めっちゃお洒落そうな人?等と聞いてくる。確かにデザインを生業としている人に教えてもらえる機会なんてなかなかないし、今回はラッキーだなと思う(入院した先生には申し訳ないけど)

色々指導してもらえることも嬉しいけど、そんなことより私はその指導者自身に会えることが嬉しかった。ただの憧れ的な「すき」なのか、恋愛的な「すき」なのか、自分の中ではハッキリしていないけど…でも、早く三ツ谷先生に会いたいって思うあたり、私はあの人に恋してるのだろうか。


「ミョウジさんいるー?」

開けっ放しになっていた教室前方のドア。そこから自分を呼ぶ男の人の声がした。私も友人達も顔をそちらに向けると、そこにいたのは三ツ谷先生だった。

教員と言うにはあまりにも小洒落た髪型と服装。ピアスやごつめの腕時計なんかもして、スラックスはやや腰履き。細いストライプ柄のシャツもちょっとオーバーサイズでダボっとしていて、明らかに一般的な学校の先生が身につけるものではなかった。そんな姿の若い男性に、当たり前のようにクラス中の注目が集まる。

「あ、いたいた」

そして遠慮なしにズンズンと教室内に足を踏み入れ、私の机の前でぴたりと止まった。

「ど、どうしました…?」
「部室の鍵ある?職員室で聞いたら昼休みミョウジさんに渡したって言ってたから」
「あっあっあります!」
「貰っていい?一足先に行ってたいから」
「あっ、あの、私も行きます!」
「いーよゆっくりで。掃除当番とかあるっしょ?」
「ないです!あの、いま荷物纏めるんで…!」

大慌てで持ち帰りたいプリントや教科書を鞄に突っ込んだ。友人達も筆箱とかポーチとかを入れるのを手伝いつつ、ちらちらと三ツ谷先生に目を配らせていた。

「おっおまたせしました!」
「ん。じゃ行こっか」
「みんな。また明日ね」

友人達に挨拶すると、「その人誰!?」と小声で聞かれたから、「例のデザイナーさん」と返すとみんな甲高い声を上げていた。うん、気持ちは分かるよ。こんな若くてかっこいいおにーさんだとは思わなかったよね。






「コンクールまであと2週間だな」

部室のカレンダーを見ながら三ツ谷先生は言った。

「みんな間に合いますかね」
「なんとしてでも間に合わせるよ、オレがいるんだから」

白い歯を見せながら笑う三ツ谷先生は、どこか少年ぽい可愛さがある。でもやっぱり先生だからか、頼りになるなあってなんだか見惚れてしまいそうだった。

「三ツ谷先生って仕事抜けて来てここに来てくれてるんですか?」
「ん?そーだよ。コンクールまでの間は週に3回、夕方はここってことになってる」
「お仕事抜けて大丈夫なんですか?」
「まーオレまだぺーぺーだしさ。なんとでもなるよ。上司には石田先生が話つけてくれてるし」
「ぺーぺー…あの、先生って何歳なんですか?」
「22」

22歳…てことは4個上か。思っていたより少し若かった。4個上なんて大人になれば大した歳の差ではないと聞く。現に私の両親も4個以上歳の差があるし。でも学生のうちの4個は大きい。私はまだ未成年で高校生なのに、三ツ谷先生は成人で社会人。

私はそんな大人の人を好きになっていいのだろうか。三ツ谷先生はまだ18歳の私を恋愛対象として見てくれるだろうか。

「先生、私…先生のこと色々知りたいです」
「え?」
「…あ、あの!この間初めていらした時も、名前しか言わなかったから…私も他の部員の子達もちょっと先生の素性が分からなくって警戒したって言うか…!」
「ああ、そっか…そうだよね」

先生のことを知りたいだなんて、ちょっと大胆なことを言ってしまった気がして顔に熱が集まるのを感じる。でも三ツ谷先生はいつもの柔らかい雰囲気で目尻を下げて笑いながら、私の要望に答えてくれた。

「三ツ谷隆、渋谷区出身の22歳双子座のA型。4年前にこの高校を卒業してからデザインの専門学校入って今はデザイン事務所で働いている。手先が器用だから裁縫以外にも料理とか絵描くのとか割となんでも得意。苦手なのはパソコンとかの機械系かな」

ペラペラと三ツ谷先生の口から出てくる言葉を私は一言一句聞き逃さぬよう集中して耳を傾けた。下の名前、隆って言うんだ。手先が器用って自分で言えるなてよっぽと自信があるのかな。でもパソコン苦手とかちょっと可愛いかも。

新たに知れた三ツ谷先生の一面に、私の顔は緩んだ。それを見た三ツ谷先生は「他に聞きたいことは?」と言ってきた。

「じゃあー…あだ名は?」
「あだ名?」
「先生ってあだ名で呼ばれがちじゃないですか。体育の小林先生はコバセンって呼ばれてるし、日本史の菅原先生は裏で道真って呼ばれてます」
「あーなるほどね。ってか菅原先生未だに道真とか呼ばれてんだ、ウケる」
「えっ、てことは三ツ谷先生がいた頃から?」
「うん。そう呼ばれてたね」
「へーすごい!で、三ツ谷先生はあだ名ないんですか?」
「ないね。仲間にも三ツ谷って呼び捨てされてたし。あーでも一人タカちゃんって呼んでる奴はいるかな」
「タカちゃん!?」

なにそれ、可愛い。周りがみんなが苗字で呼び捨てしてる中タカちゃんなんてそんな特別な呼び方してくる人がいるなんて…いいなぁ、そのあだ名。

「おい、間違えてもタカちゃん先生とか呼ぶなよ?」
「え?なんで私の考えてることが…」
「ミョウジさん、案外顔に出やすいよな。この間も思ったけど」

それはこの間「話聞いてたか?」って聞かれたとき目を泳がせたことだろうか。確かに、考えてることが顔に出やすいよなとは友達にも言われたことがあるけど、まだ会って2回目の人にそう言われるなんて。

「ダメですか?タカちゃん先生呼びは」
「だーめ。つか先生って呼ばれること自体小っ恥ずかしいんたから」
「先生は先生です!私たちに指導してくれてるんだから」
「まぁねぇ…そう言われちゃそうなんだけど…」
「…タカちゃん先生は、」
「おいこら、やめろやその呼び方」
「えぇ〜せっかく可愛いあだ名だと思ったのに…」
「なんで女子高生ってこうもあだ名つけたがるんだかな…」

先生は呆れ気味に溜息を吐きながら鞄からメジャーやらなんやら裁縫に使う道具を出し始めた。

先生ともっと仲良くなりたい。週3回、部活の時間しか会えないんだからもっと距離を縮めたい。だって私、今先生と話していてすごく楽しいんだもん。先生、そう思うのは私の我儘ですか?

先生は長めの前髪をピンで留めながら私の方に振り向き、じっと私を見てきた。

「…他の部員の前では呼ぶなよ」
「えっ!?」
「基本は三ツ谷先生だからな」

そう言ってストンと私の頭部に全然痛くない手刀を下ろした。びっくりして声が出ない。みんなの前じゃなきゃそう呼んでいいの…?

部室の外がガヤガヤとしてきた。「そろそろみんな来る時間だな」と言いながら先生はドアの方に歩き出した。

「たっ、タカちゃん先生!」

呼んでいいと言われたのに、なんでこうも緊張してしまうんだろう。裏返りそうな声で呼ぶと、先生はゆっくりとこっちを向いてくれた。

「もう一つ、先生のこと、聞いてもいいですか?」
「なに?」
「タカちゃん先生は、彼女いるんですかぁー?」

真剣に聞いたらガチだと思われる。だから私は喋り方も表情も飛びっきりおちゃらけて聞いてみた。先生もそんな私の顔を見てちょっと吹き出していた。うん、作戦成功だ。

「いねぇよ」
「へぇー!いつからいないんですか?」
「それは内緒だな。ほら、部活始まる時間だぞ」

いねぇよ、のその一言に私の心は踊った。やっぱり私、憧れとかじゃなくって、タカちゃん先生に恋してるんだ。





恋情の淡い初色


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