07


「結構可愛い子捕まえてきたじゃん三ツ谷ぁ〜」
「は?なんのこと?」
「なんのことって名前ちゃんに決まってんだろ!」

『暇な奴ファミレス集合〜』なんて緩いメールが来たあの日。今日は暇だしと思い足を運んだそのファミレスには、いつだかの夜公園で助けた女の子がいた。タケミっちの先輩らしく、さっきまでオレらと談笑してたその子は、帰り際にオレにハンカチをお返ししたいなんて言ってくるほど律儀な子だった。


「捕まえたってなんだよドラケン…。別にガラ悪ィのに絡まれてたの助けただけじゃん」
「ほんとそれだけぇ?」
「それだけだろ。現にあの日以来今日初めて会ったし」
「でも三ツ谷にはあーゆー子よさそう」

パフェを食べながらマイキーが言う。

「三ツ谷は世話焼きなところあるから名前ちゃんみたいな子が合うだろ」
「確かにな」
「…世話は妹達のでもう十分だよ……」
「なぁタケミっち!あの子彼氏いねーの?」
「え?どうだろう…そう言えばそんな話したことないです。でも元カレは生徒会長だったって言ってました」
「生徒会長!?」
「やべー!オレらと全く反対のタイプじゃん!」


ドンマイ三ツ谷!なんて言われたが、いやだからドンマイも何も、狙ってもなんもねーっつーの。あの子の元カレの事はどうでもいいけど、気になる事は他の点で。


「タケミっち。名前ちゃんて家族いねぇの?」

その質問にタケミっちは一瞬顔色を変えて、あー…っと気まずそうに目を逸らした。


「オレも詳しく知ってるわけじゃないスけど…家族はいるけどなんか複雑みたいですよ。上手くいってないのか、夜ずっとフラフラしてるみたいで」
「ふーん…友達は?」
「いないワケじゃないと思いますけど…でも夜一緒に遊んだりはしてないみたいで」

やっぱ家に居づらい環境らしい。友達もいまいちっぽいし…。可愛いとか狙ってるとか、そんなんじゃないけど気になるのはそこだった。


「オレ帰るわ」
「もう?」
「おー妹も帰ってるだろうし」

この時ファミレスを出て、少し早歩きで歩いたのはあの子がまだその辺にいるかと思ったからだった。放ってとくとまた変な男に絡まれそうなあの子に、もう一度釘刺しておきたかったからだった。

案の定近くをまだ歩いていた名前ちゃんに声をかけて話しながら帰った。その流れでオレの家庭環境のことを話すと名前ちゃんは心打たれていた。確かにオレのうちは「普通の中学生」とはちょっと違ぇけど、でも東卍の奴らは複雑な家庭の奴が多いし、これくらい…。でもオレがラムネを出せば涙を流すほど笑ってて、なんだか表情がコロッと変わって面白い子だなと思った。

名前ちゃんの涙を拭く時、確かにオレは世話を焼かせてくれる存在って嫌いじゃねぇかもって気づいた。




暫く経って、八戒を救うために黒龍とやり合った。その最中、オレは八戒に生まれた環境を憎むな、なんて随分と偉そうな事言ったモンだなぁと考えながら頭の片隅にチラリと名前ちゃんの顔が浮かんだ。

そしてこの抗争もマイキー達が来てくれたおかげもあり無事終わり、興奮した体を落ち着かせるため公園でボーッとしてるとまた名前ちゃんのことを思い出した。あの子の家族のことなんも知らねーくせに余計なこと言っちまったかなぁ。苦しめてねぇかなぁって。

その後偶然にも現れた本人にもその話をしたが、名前ちゃんは気にしてないと言ってくれた。ホッとした、マジで。でもこの子が本心でそう言ってるのか、やっぱり心の中でモヤモヤした。

ツーリングに誘ったのもそんなあの子を元気づけたかったからだ。女の子をバイクの後ろに乗せるのも誘うのも初めてだったけど、名前ちゃんならいいと思ったから。夜のレインボーブリッジを見て笑う名前ちゃんを見て、もっと笑わせてやりたいって思った。ウチに飯食ってけよって誘ったのも、花火のとき指を絡めてきたから絡め返したのも、全部オレがしたいと思ってやったことだ。





「んで?あの後どうなんだよ三ツ谷」
「ん?なにが?」
「名前ちゃんのことに決まってんじゃん!なぁケンチン?」

東卍の集会の後、また面倒なうちの総長と副総長に絡まれた。さすがに以前ファミレスで聞かれた時とはオレも心境が違う。さぁ、どうかわそうか。


「時々会ってる。偶然も含めだけど」
「手ぇ出した?」
「なんつー聞き方すんだよオマエは…してるわけねぇだろ」
「さっすが三ツ谷!誠実さの塊!」
「でもよー三ツ谷も彼女欲しいんじゃね?だってこんなタケミっちすらいるんだぜ?」
「こんなって失礼っスよドラケン君!!」

別にタケミっちにすら彼女いるから欲しいとかそんな気持ちは1ミリもないけど。次付き合う子はちゃんと慎重に選びたかったし。なんとなく可愛いとか、そんな軽はずみな気持ちで付き合うのは相手に悪いって思うし。…別に名前ちゃんのこと「なんとなく」可愛いとか思ってるワケじゃねぇけど。


「あの、三ツ谷君」
「ん?どーしたタケミっち」
「名前ちゃんが三ツ谷君にあげたあのハンカチ、実はオレが一緒に選んだんです。既に別の買ってたみたいだけどあのファミレスの翌日、ちゃんと三ツ谷君の好きそうなの選びたいから買い物に付き合ってくれってオレに言ってきて」
「え…」
「正直オレも三ツ谷君の趣味わかんねーから大してアドバイス出来なかったんスけど、でも#名前1ちゃんすげぇ真剣に時間かけて選んでて。気に入ってもらえるかなってすげぇ気にしてて。渡すのも自分でしたいからってオレに預けなくて」

あ、これ名前ちゃんに内緒にして下さいよ?、って顔を赤らめながら話すタケミっちを見て、思わず笑ってしまった。なにオマエが照れてんだよって。

でもそうか、あのハンカチ…そんな気にして選んでくれてたのか。あの子がオレの為に…。







「部長、それで次のコンクールなんですが」
「……」
「部長?聞いてます!?」
「あっ、ごめん。なに?安田さん」
「ぼーっとしてるなんて珍しい。なんか考え事ですか?」

考え事と言われれば考え事だ。名前ちゃんのことを考えていた。考えてたっつっても何をどうしようとか、そういうんじゃなくてただ気になる事があってここ数日頭ん中を巡っている。机の上に置いた飲みかけのペットボトルを手の中で転がしながら、うーんと唸るオレに安田さんはどうしたのかと聞いてきた。


「安田さんはさー…付き合うならオレみたいなチーム入ってる不良と生徒会長だったらどっちがいい?」
「は?」

……いや、そういう反応になるよな普通。オレなんつーこと安田さんに聞いてるんだ。ごめん忘れて、と言いながらペットボトルの水を飲む。


「部長、好きな人できたんですね?」
「ブッ」

思わぬ事を言われ口に含んだ水を噴き出してしまった。悪い、と言いながらポケットからハンカチを出すと図らずともそれは名前ちゃんから貰ったあのハンカチだった。


「図星ですね」
「いや…別に」
「好きな人、不良じゃない普通の子なんですね」

名前ちゃんが安田さんの言う普通の子なのかは甚だ疑問だが。だってあの子夜徘徊してるし、ピアスしてるし、多分あれは髪も軽く染めてる。


「で、さっきの質問への返答ですけど。私を含め普通の女子って不良と付き合うの嫌がりますよ。同類だと思われそうだし、変な喧嘩に巻き込まれそうだし」
「だよなぁ」
「でも、前も言ったけど、私部長以外の不良は嫌いです。たぶんうちの部員の子みんなそうですよ。部長は不良だけど不良ぽくないし、穏やかだし私達にも親しみやすいし。生徒会長がどんなもんか知らないですけど、部長なら中身だけなら生徒会長とも張り合えると思います」

貴重な女子からの意見にオレは静かに耳を傾けた。なかなか嬉しいこと言ってくれるな。自分で言うのもアレだけど、オレ東卍の中じゃ怖くねぇ方だし冷静な方だし。名前ちゃんもこんなオレなら、向き合ってくれるんかな。


安田さんの意見に触発されたのか、部活を終えたオレは携帯で名前ちゃんにメールを打ちながら帰った。理由はないけど、今日は会っておきたくなった。回りくどい言い方も好きじゃねぇから、シンプルに今日暇?と打ち込み送信ボタンを押そうとした時、誰かに肩を叩かれた。


「三ツ谷」
「おー、ぺーやん」
「マジいいとこにいたな。ちょっと付き合えよ」
「は?どこに?」
「うちの隊の奴がいまボコられてんだわ。助太刀行くぞ」
「や、オレ今日は、」
「てめぇ仲間がやられてんのに知らん顔するつもりか!?あぁ!?」

そう言われると断れない自分の性格を恨んだ。これは今日あの子には会えそうにもない。




 




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