02




あれから一週間以上経ち、私の怪我もだいぶ治ってきた。あの日の翌日、顔に絆創膏を貼って登校したときは、何人ものクラスメイトにどうしたの?と聞かれたから適当に誤魔化すと、みんな適当に心配してくれた。

まぁもう傷は大して残らなそうだしいいとして、あの時助けてくれたトーマンの不良くんのことが頭から離れなかった。

あんな事があった後でも、私は相変わらず夜出歩いていた。あの公園にはもう近付きたくなかったけど、またあの人に会えるかななんて思って少し行ってみたり。でも一向に会えないまま月日が過ぎてゆく。…ちゃんともう一度お礼言いたいんだけどな。トーマンとか言う怖いグループに所属しながらも、ちゃんとハンカチなんて持ち歩いてるあの人に。





「なぁ!このままゲーセン寄ってかね?」
「いいねぇ〜」
「あ、ごめんオレパス。東卍のみなさんに呼び出されてんだわ…」

下校中、トーマンという単語が背後から耳に入り思いっきり振り向くと、そこには見知った5人組が。


「ぅわ!?ビックリした」
「あ、名前ちゃんじゃん。チィース」
「あれ…キミたちだったの…」

一個下の後輩不良くんたち、通称溝中5人衆。体育祭をサボってる時に知り合い、それ以来なんとなく話す関係になってる子達。


「ねぇ、いまトーマンって言った?」
「あぁ、はい。てか名前ちゃん東卍知ってるんだ?」
「うん、ちょっと…。トーマンに呼び出されてるって言ってたのタケミチくん?」
「そーっすけど…」
「えっうそ、きみトーマンに所属してるの?」
「あー…はい、オレらみんな一応」

意外だ。うちの学校の不良なんて、ちょっといきがってる程度の可愛い不良ちゃんレベルだと思ってたのに。トーマンなんて怖いグループに入ってる子がいるなんて…


「ねぇ、私トーマンにちょっと会ってお礼言いたい人がいて…」
「ぇええ!?東卍に知り合いいるんスか!?」
「知り合いっていうか…」

この間あった一連の出来事を彼らに話すと、「はーなるほど」「やっぱ東卍かっけーわ!」なんて言ってちょっと興奮気味な反応をされた。やっぱりこういう不良の間ではかっこいい存在らしい。


「で?誰なんスか?それは」
「えっ」
「助けてくれたのって」
「あー…実は、名前聞いてなくって」
「ぇええー!それじゃあ分かんないっスよ!東卍何人いるチームだと思ってるんスか!」
「そんな大勢いるの!?」


その後、不良事典なんて呼ばれてる山岸君が東卍のことを色々教えてくれた。いますごく勢いづいてるチームなこと(グループではなく、チームらしい)、渋谷を拠点としてること、強い他のチームと抗争を繰り広げてること、総長がバカ強いこと…

なるほど。これが暴走族ってやつなのかと学んだ。まさかタケミチ君たちがそんなことしてるなんて信じ難いけど。だって学校にいるこの子達は本当にちょっと粋がった子達にしか見えない。


「まぁそれで…その助けてくれた人ってどんな人っスか?見た目とか」
「ん?うーん、なんかこう、短髪で」
「短髪…」
「そんなんいっぱい居るからなァ」
「黒髪?」
「ううん、なんかもっと明るい色…銀髪って言うのかな?わりとタレ目で、あと不良のくせにハンカチ持ち歩いてる感じ。そんな人いない?」


すると5人そろって「あーハイハイ!」と言う。どうやら全員一致で思い当たる人がいるみたい。確かにあの人はカッケーし優しいわな!なんてワイワイ盛り上がりだして。

タケミチ君は、今から呼ばれてるところにきっとその人も来るから一緒に来ないかと言ってくれた。行っていいものなのだろうか…だってあの人以外の東卍の人達もいるんだよね。怖そうだし…。でもタケミチ君いるなら平気かな。集会とかじゃなく場所もファミレスだから一部の人しか来ないというタケミチ君の言葉を信じて、私はついていくことにした。





ファミレスに着くと、タケミチ君は店内を見回しすぐにお目当ての人を見つけたようでズンズンと進んでいく。そんな彼の二歩後ろあたりをついていくと、一つのボックス席に着いた。そこには…あっヤバいって感じの男の人が。


「おータケミっち。遅ェじゃねーかよ」
「罰としてドリンクバー入れてきて!オレメロンソーダで、ケンチンのはコーラな」
「えぇえ!そんな来て早々…!」
「早く行ってこい!ってあれ?この子は?お前嫁変えたの?」
「ちっ違います!この人は学校の先輩で…!」

頭に刺青が入ってる人なんて、初めてみた。体の大きさと相成って、益々怖く感じる。もう一人の金髪の人は小柄で中性的な顔であんま怖そうじゃないけど…。
タケミチ君はとりあえずドリンクバー行ってこい!と再び言われそそくさとジュースを取りに行った。



「で?キミはなに?オレらに用?」


優しい口調だけど、笑ってるけど、どこか凄みのある雰囲気。私はごくりと息を呑み、小柄なその人の質問に答えた。


「実は先日、チンピラに絡まれてるところを東卍の方に助けていただいた上、送ってもらいまして…。お礼を言いたいなと思ってたところ、タケミチ君がここに連れてきてくれて」
「へぇー。ケンチンいい事してんじゃん!」
「は?オレ?そんなことしねーよ。マイキーじゃねぇの?」
「オレもしてない」

じゃあ誰だ?となったところで、タケミチ君が炭酸飲料の入ったグラスを二つ持って帰ってきた。やっぱりこの子は東卍のパシリ的な存在なのかな?でもそんなビビってる様子もなければ和やかな空気が漂ってるから違うのかな?なんて考えていると、小柄な彼が私の腕を引き、とりあえずここ座んなよと自分の隣に私を座らせた。小柄な体のわりには引っ張る力がなかなかだ。


「あの、今日って三ツ谷くん来ますよね?」
「三ツ谷?来るんじゃね?」
「あーなるほどアイツなのね、この子助けたってのは」
「たぶん。あ、名前ちゃん、その人の特攻服の腕にさ、弍番隊隊長って書いてなかった?」
「え?うーん、暗かったしあんま見えてなかった」
「そっかぁ。でも特徴からして三ツ谷くんで間違い無いと思うんだよなー」


タケミチ君にこのお二人…マイキー君とドラケン君のことを紹介してもらった。こんな小柄な人が総長なんて意外だし、ドラケン君の方が正直強そうだし総長っぽく見える。でも名前ちゃんも何か頼んだら?とメニューを差し出してくれて、その後店員さんを呼んでオーダーしてくれるあたり、見た目に反してこの人も優しそうだ。


「あ、三ツ谷来た」

ドラケン君が手を挙げてその人物を呼び寄せると、聞いたことのある「おー」と言う声と共に彼は登場した。


「オマエら何食ってんのー…ってあれ、この子は…?」


その三ツ谷君という人物は、私の顔を見ると一瞬止まり、誰だっけという顔をした。そして3秒後、あー!と声を上げた。


「もしかして、あの時の…!?」
「あ、あの、この間は本当にありがとうございました!」
「いーっていーって。てかなんでここにいんの?」
「えっと実はですね、」
「名前ちゃんはオレの彼女なんだよ」

は!?と思うと隣に座るマイキー君が私の肩に手を回してニコリと笑っていた。いや、なんの冗談!?


「うっそ…てかマイキー彼女いたの?」
「そー。助けてくれてありがとな」
「えーマジか…いやー助けといてマジ良かったわ……ってそんな嘘に騙されるかよ!」

三ツ谷君はどかっと私の向かいの席に座り、「くだらねーことすんなよマイキー」と言いながらメニューを手に取った。マイキー君はチェッと言いながら私の肩から腕を外し、再びメロンソーダを飲み始めた。


「名前は?」
「名字名前です。タケミチ君と同じ中学で、今日は彼にここに連れてきてもらって」
「なるほどね。あ、オレ三ツ谷ね」
「よろしく。あと、本当にこの間はありがとう」
「だからいーって。もう何度も聞いた」
「でも三ツ谷君が帰るとき、最後にちゃんとお礼言えてなかったのがずっと気がかりで」
「律儀な奴だなー」


歯を見せて笑う彼の笑顔にドキリとした。この間は夜道で暗かったけど、明るいところで見るとこんな顔で笑うのかとハッキリ見えてなんだか照れ臭かった。

その後も皆さんと時間を一緒に過ごさせてもらった。初対面の私に色々話しかけてくれたり、時には笑わせてくれて、なんだか私が想像してた暴走族のイメージとは全く違う、普通の中学生のお喋りの場だった。でも時折私の知らない人の話やチームの話が出てきたし、そろそろ私は帰ろう。


「あの、私そろそろ帰ります」
「え?もう?」
「うん、突然お邪魔しちゃってごめんなさい。タケミチ君、今日は連れてきてくれてありがとね」
「いえ全然っス」
「それから三ツ谷君」
「ん?」
「この間のハンカチ…あの、ちゃんと代わりのもの渡したいっていうか…」
「いらねーよ?ほんとに洗濯したら大丈夫だったし」
「それがもう買っちゃっててね。タケミチ君に今度渡しておくから受け取って?」
「もー…マジでいいのに」
「それじゃ。バイバイ」


何オマエ、ハンカチなんて持ち歩いてんの?とドラケン君の揶揄う声を背に、私はファミレスを後にした。

私を助けてくれた人は三ツ谷くんという名前だった。弍番隊隊長なんて役職についてて、きっと喧嘩がすごい強い人なんだと思う。でも私の中の彼は、見ず知らずの女の子を助けてくれる優しく親切な中学生。そんな印象しかない。今日話して改めて思った。


「あーあ…ハンカチいつも持ち歩いておけば今日直接手渡せたのになぁ」



また一つ、後悔が残った。




 




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