01


「ねーねーキミ何してるの?」
「ひょっとして家出?行くとこないなら一緒に時間潰してやろうか?」

名字名前15歳中学3年生。ただ今、夜の公園でものすごく柄の悪い輩に絡まれています。

時間は22時を回ったところ。中学生はこんな時間に夜外にいるモンじゃないということは重々理解している。しかし私には家に居たくないいわゆる「家庭の事情」たるものがあり、こんな時間でも外にいることはしょっちゅうだった。

そしてこんな時間帯によく公園で一人でいれば、この類の声掛けにも慣れて来てしまう。はぁとため息を吐いてから、そのチンピラ共と向き合う。


「結構です」
「そう言わずにさぁ!困ってんでしょ?」
「そりゃ…あなた達みたいな人に声かけられれば誰でも困りますよ」

……あ、ヤバ、言い過ぎたかな。気弱そうなオッサンならこの程度で引いてくれるんだけど…

案の定、私の目の前に立つチンピラ風な二人組は青筋立った顔をしていた。


「…もう帰るんで」
「待てやコラァ!」

ガシッと掴まれる腕。あ、これはヤバいと本能で分かる。振り払えないかと試みるがやはり男女の力差というのは歴然で、そう簡単に振り解けなかった。


「ちょっとやめて、通報しますよ」
「おーおーこの状況で?鞄から携帯だして?できるもんならやってみろや!」
「おいもういーよこのままこの女ウチまで引きずってこーぜ!」
「おぅよ」


ねぇ、それ犯罪だけど、アンタらわかってる?

腕を掴まれたまま引っ張られ公園の出口へと向かっていく。…どうしよう、蹴りでも入れてみようか。いやでも二人いるし、一人に蹴り入れられたところで…それに私如きの蹴りじゃどうにもならない気もする。けどこのまま黙って連れていかれるなんて!と足を踏ん張り歩みを止めようと試みたが、結局男の腕を引っ張る力の方が強いため私は転倒して、さらに少し引きずられて終わった。


「オイてめーなにすっ転んでんだよ!」

痛い。顔と膝と腕を擦りむいた。引きずられたしこれ絶対残るような傷になってるよ…。私は女の子だ。顔に傷が残ったなんてそんなのかなりショックだ。もうやだ。どうすればいいの…、もうこれ逃げられないんじゃ。


「もう面倒だしこの女担いでいくか」
「ッチ、仕方ねーなァ」
「じゃあオレ担ぐからお前荷物持てよ」
「あぁ」
「オイ何やってんだオメーら」


チンピラ二人組が話を進めているところに、知らない声が混じった。もしかしてお巡りさん?それにしては口悪いけど…じゃあ誰?と思い顔を上げると、黒いつなぎ…?のようなものを着た同い年ぐらいの男の子だった。


「ぁん?なんだてめぇこの女の知り合いか?」
「違うけど」
「じゃあ関係ねーだろ!」
「男二人で女の子一人相手に何やってんだ?ダサすぎねぇ?お前ら」
「んだと?」
「ナンパ失敗してそのまま連れ去ろうってとこか?」

図星を突かれたチンピラはぐぬぬという声が聞こえて来そうな、そんな表情だった。誰かわからないけどこの男の子は私を助けてくれるつもりっぽい。助かった…と思ったのも束の間、チンピラは頭に血が昇ったのか、男の子に対して暴言を吐きながら殴りかかろうとしていた。

やばい、これ喧嘩始まるんじゃ…!?と焦ったが、その男の子はチンピラの拳をいとも簡単に避けた。そしてその拍子に彼に街灯の明かりが差し、黒いつなぎに印字されていた文字が見えた。


「……え?」
「っ!やべ、こいつトーマン…!」

その途端チンピラ二人組はバタバタと走り去って行った。

…ん?何が起きたの?なんでいきなりあの二人逃げたの?この人超能力かなんか使った?


「大丈夫?」

未だ地面に転んだままの姿勢だった私に、彼は手を差し伸べてくれた。ありがとうと素直に彼の手を取り立ち上がり、体や服についた土埃をササッと払ったら膝にズキンと痛みが走った。


「っいた…」
「あー血出てる。あと顔も、擦りむき傷できてる」
「……」
「ちょっと待っててな」

やっぱり顔も傷出来てるんだ…。それに膝も、結構派手に血が出ている。こんな怪我したの小学生以来だな。本当にもう。なんてツイてないんだ今日は。


「!?冷たっ」
「あ、ごめん。でも拭いとくぐらいしとかねーと」

いつの間にやらその男の子は水道でハンカチを濡らしてきてくれたみたいで、私の膝の傷を拭いてくれていた。


「このハンカチ…あなたの?」
「ん?そうだけど」
「えっ、ごめんなさい、血で汚れちゃう…」
「いーよ。血なんて洗濯すれば落ちる」

流石に消毒と絆創膏は持ってねぇけど。と言いながら彼は私の傷を拭いてくれた。なんて優しい人なんだ。こんな時間にこんなマトモな人も歩いてるもんなのか…なんて思ってしまう。


「あの、助けてくれてありがとうございます」
「全然。なんもしてねーよ」
「でも、なんかよく分からないけどあなたが来たらあのチンピラ達逃げてったし」
「ははっ」

顔もこれで拭いておけば?と彼は濡れたハンカチを渡してくれた。きっと顔に傷だけでなく砂汚れもあるのだろう。有り難くハンカチを受け取り、ちょっとその冷たさに目を細めながら頬を拭いている時、彼の服の背中の文字が目に入った。

東京……読めない、なんだこの記号。
それにこの服、暗くてよく見えてなかったから作業着みたいなつなぎだと思ってたけどよく見ればこれ、特攻服ってやつじゃ…。

「それ、なんて読むの?トーキョー…」
「ん?あぁこれ?マンジカイ」
「マンジカイ…」
「怖ェと思う?」
「え?」
「オレ、トーマンの一員だよ」

トーマン?あっそう言えばさっきのチンピラ達、この男の子ことトーマンだって言って焦って逃げてった。てことは、きっと周りに恐れられる人たち。怖い人たちなんだ。…いやでもごめん、

「あの、ごめんなさい。トーマン?のことよく知らなくて…」
「……」
「きっと有名なグループ?なんだよね?すみません知らなくて…」

すると彼はブハッと盛大に噴き出して笑い始めた。やっぱりトーマン知らないって恥ずかしいことなのか…世間知らずなつもりはなかったけど、たしかに私ちょっと流行に疎いところあるしなぁ。もう一度ごめんなさいと謝ると、彼は違うと笑いながら言う。


「や、わり。ほんと…、そーだよな、普通知らねーよな!あんな奴らに絡まれてたし、アンタそういう知り合いいそうに見えたからつい…。悪ィ、知らなくていんだよ、そんなこと」
「そう、ですか…」

なんだか腑に落ちない。やっぱり自分が世間知らずな感じがして。でもまぁ大体分かった。トーマンってなんていうかこう、不良のグループなんだよね多分。この人もこんな髪の色してるし、色々親切だし物腰柔らかいけど、ヤンチャしてるって言われたら納得できるタイプの人だ。


「で、アンタこんな時間に一人で何してんの?まさか家出?」
「家出ではないけど…ちょっと外ブラブラしてただけ」
「そっか。でも流石に女の子がこの時間ブラブラしてんのは良くねーよ。帰ろうぜ」
「……はい」
「…もしかして、家帰りにくい事情があるとか?」
「まぁ…そんな感じです」
「じゃあオレんち来る?」


は?と思い彼の顔を見るとニコっと笑ってる。
…なんだかよく分からない人だ。親切な不良かと思ったけど結局はそこらへんのチンピラと変わらないんじゃ……

「親切にしてもらったけど、数分前に出会ったばっかの男の家になんて行くわけないでしょ」
「おう!当たり前だ」
「……は?」
「家帰らないでホイホイ男の家に行ったりばっかかと思ったけど、大丈夫そうだなアンタは」
「いや…さっきだって私あいつらの家連れてかれそうになってたじゃん!」
「やー有無を言わせず力づくで連れてくクズも多いからさー、わかんねーじゃん」
「そう、か…」
「まぁさ、帰れる家があんなら帰っとけよ。送ってやるから」
「え、いいですそんなことまで」
「あんな事あった後だぞ?心配じゃん」
「…ありがとうございます。でも、よく知らない男の人に家知られるのも怖いんですが」
「あー…たしかに。オマエ本当ちゃんとしてんなそのへん!じゃあ近くまで送るよ」


伊達に夜、街を徘徊してるわけじゃないからそのあたりの心得はしっかりしている自覚はあった。だから本来ならこの出会ったばかりの親切な不良に家の近くまでとは言え送ってもらうのも、もしかしたら良くないのかもしれない…。

でもこの人は、さっきのチンピラ達とは違う人種だと分かる。だから私も少し心を許して送ってもらっちゃったんだ。ここまででいいよ、と家の近くの自販機の前で伝えれば彼は、「気をつけろよ、おやすみ」と言いまた暗い街中に消えていった。彼の後ろ姿から目が離せず、最後にもう一度お礼を言おうとしたのをすっかり忘れてしまった。そんな後悔が残った。




 




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