11*


「…ほんとにいいの?」
「うん」
「ほんとに?絶対ェだな?」
「うん」
「あの、ほんとのほんとに最後の確認だけど、」
「三ツ谷君しつこいよ」


三月の昼下がり、自室にて。私はついに人生においての一大イベントに挑もうとしていた。

三ツ谷君はあの後すんなりと退院して、日常生活を送れるまでに回復した。本当にすごい回復力だと思う。毎日お見舞いに行き、彼の身の回りの世話をするのが少し非日常的で楽しかったのに、あっさりとそんな日々は終わった。

それからは相変わらずそこら辺をブラブラしたり、ファーストフード店でご飯を食べたり、お互いの家を行き来したりと中学生らしい健全なデートを繰り返していた。バイクで遠出しようと誘われたけど、あんな事があった後なんだからとそこは諦めてもらった。

そんなある日、急遽だが私の家に初めて彼を招いた。勿論両親不在のときに。そうなると自然とそういう雰囲気になったのだが、急だったため避妊具の準備がなくその日は事を得ずに終わった。その時の三ツ谷君の悔しそうな素振りといったら…なかなかなものだった。

だから今日はこの間のリベンジだねってことで、再び私の家に招いたのだ。


「それより三ツ谷君の体本当に大丈夫?」
「退院して何日経ってると思ってんだよ」
「そうだけどー…ほら、こういうのって男の人にとって結構な運動だって聞くし……」
「名前ちゃんはそんな心配しなくていーから」

ベッドに腰掛けたまま、三ツ谷君はそっと抱き締めてくれた。抱き締めてくれる事なんて今となればしょっちゅうで私も慣れてきたものだが、今日はやはりいつもと違ってドキドキと緊張感が走る。


「怖くなったり痛くなったら、言って」
「…うん」
「オレほんとに名前ちゃんに無理させたくないから」
「…じゃーあと半年はやらない」
「……ごめんそれは厳しい」
「うそ、怖くない。三ツ谷君となら何も怖くない。大丈夫、全然無理なんてしてないよ」

そう言ってキスすると、彼はふーーっと長めの溜息を吐いてからゆっくりと私をベッドに沈ませた。そしていつもみたいに優しく抱き締めてくれて、優しく唇を重ねてくれる。いつもと違うのは、ゆっくりと片手が服の中に侵入してくること。下着をずらされて、初めてそんな場所に直に彼の体温を感じた。心臓のドキドキ具合もきっと伝わってしまってるだろう。

「やっべ…なんかオレも緊張してきた」
「ふふ」
「…触るよ?」
「もう半分触ってない?」

随分と余裕だな、と三ツ谷君は笑いながら顔を近づけてきてまたキスしてくれて、でもそれはいつもより深いもので、自分の口内で彼の舌が暴れ回り絡み合うようなもので、呼吸が少ししづらくなるほどで。そしてそのまま彼の口元が胸の膨らみに触れてきて、それだけで私の心臓のドキドキはピークに達した。

でも不快感なんて微塵もない。私も、もっともっと三ツ谷君と深い仲になりたいと思っているから。








「ごめん、痛かったよな?」
「うん…でも思ったより痛くなかった」
「ほんと?」
「うん。でも思ってたより三ツ谷君のこともっと好きになっちゃった」
「…オマエはほんと、オレを殺す気か」

腕枕してくれているその腕で、私の頭をぎゅーっとして、そのままおでこや頬に優しくキスしてくれた。くすぐったくて、照れ臭くて、でもとてつもない幸福感に包まれた。

私のハジメテは、三ツ谷君に捧げた。それは私にとって何よりも嬉しいことだった。怖さや不安もあったけど、私だって中3にもなればそういったことに興味はあったし、何よりとにかく三ツ谷君とそういう関係になれて嬉しかった。「大丈夫?痛くない?」って最中に何度も聞いてくれる優しい彼氏に不満なんてあるはずもない。

まだ服を身に付けないまま布団の中で抱き合っていると、素肌がぶつかり合う。ゴツゴツした腕や腹筋が男らしくてかっこいい。ついつい触りたくなってしまい布団の中で彼の腹筋を撫でていると「また大きくなっちまうからやめろ」と呆気なく制された。


「でも、名前ちゃんが初めてなの意外だった」
「え?」
「ほらだって10ヶ月間付き合ってた生徒会長が…」
「まだ生徒会長の話引っ張る?付き合ってたって言っても、三ツ谷君と付き合ってるような感じとは全然違かったから。こんな頻繁に会ったり距離近くなかったから」
「そっか。でもとにかくオレは嬉しいよ、名前ちゃんのハジメテの相手になれて」

笑顔を見せながら三ツ谷君はベッドボードに置いておいたポカリを飲み始めた。飲む?と聞かれたから私も体を起こしてベッドの上に座ろうとすると、思いの外股関節が痛かった。ポカリを受け取り飲み始めると三ツ谷君はじーっとこっちを見てきた。

「なぁに?」
「んー、ヤった後に裸でポカリ飲む彼女。なんかいいなぁって」
「…変態ですか」
「うそうそ、ごめん。なんかすっげぇ幸せだなって思ってた」
「うん、私も…。三ツ谷君と付き合ってからたくさん幸せ貰ってる」

ありがとう、と言うと三ツ谷君は力一杯抱き締めてくれた。私はこの力強い腕に包まれるのが大好きだ。不良だけど、暴走族なんて入ってるけど、優しくて家庭的で、私を救ってくれて幸せにしてくれた大好きな人。「ずっと一緒にいたい」とポツリと呟くと「当たり前だ」と言って頬にキスを落としてくれた。よく恋愛小説なんかに出てくるありがちなフレーズだが、このまま時が止まればいいのにって割と本気で思った。





その後は私の部屋でお菓子を食べたり、借りてきたDVDを見たり、ゆったりとお家デートを楽しんだ。三ツ谷君は私を自身の足の間に座らせ、ずっと背後から抱き締めてくれていたおかげでなんだか映画には集中できなかった。目が合うたびにキスをして、きっと彼も映画なんてろくに見ていなかったと思う。

日が暮れ始め、そろそろ帰ると言った彼は「そういえば」と言いながら鞄から取り出したものを渡してきた。


「なにこれ?可愛いね」
「あげる」
「えー!ほんと?誕生日でも記念日でもないのにいいの?」
「なんか名前ちゃんに作ってあげたくなっただけだから」
「そっかー…ってえ!?作ったのこれ!?」
「おう。なかなか上手いだろ?」

驚いて三ツ谷君の顔を二度見した。彼が手作りしたというそれは、パステルピンクの可愛らしい花柄の生地で作られたミニポーチだった。たしかによく見るとタグとか付いてないけど…てっきり既製品だと思うほどの出来だった。

「これ…ファスナーとか付いてるよ?」
「ファスナーぐらい付けれるわ」
「裁縫得意って聞いてたけど、てっきりお洋服専門なのかと…」
「色々作れるよ。ポーチは初めてだったけど。小さくてごめんな、生地が足りなくてさ」
「ううん!このくらいの大きさのってすごく使えるよ!リップとか目薬とか入れるのに丁度いい!」
「なら良かった。いつしかくれたハンカチのお礼っつーことで使ってよ」
「ありがとう…、一生大事にする…!」
彼氏からハンドメイド品貰うなんて、普通立場逆じゃないかと女として焦るけど、でもそんな焦りも吹き飛ぶほど嬉しかった。早速いつも学校で使ってるリップ等を入れてみた。ファスナーの開閉もスムーズだしまだ物を入れる余裕のあるサイズ感。うん、なんかもう完璧だ。

「三ツ谷君ハンドメイドショップとかやりなよー。絶対売れる」
「ははは、でもオレが本当にやりたいのは服作りだからな」

玄関で靴を履き終えると「お邪魔しました」と言いながら玄関を出た。私もエントランスまで送るためサンダルを履きその後を追う。

「また親いないとき来ていい?」
「うん。大体夜までいないから。春休み入ったら長く一緒にいられるね」
「そんなん言われたら春休み中オレ毎日来ちゃうよ?」
「毎日でも会いたいよ?」

エレベーターまでの短い道のりの間に自然と手が繋がれる瞬間が好きだった。顔を上げると見える整った横顔が好きだった。いつも可愛いとか好きだとか、たくさん言葉にしてくれるところが好きだった。溢れ続ける私の「好き」の気持ち、三ツ谷君は受け止めきれるか心配になる時がある。それくらい私の「好き」は膨大だったから。






 




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