痛い、苦しい、誰か、助けて、辛い辛い、ツライ、辛い
助けて、痛いのはもういや、嫌だ、助けて、
お父さん、お母さん
お父さん!お母さん!助けて!痛いよ!


神殿内に響くいろんな人の声に耳を塞ぎたくなる


フラフラする視界を必死にこらえて神殿の奥へ奥へと走る
祭壇がある場所にたどり着いた瞬間に
篠が「これは・・・っ・・・、」と震えた声を漏らした




そう、誰もが言葉を無くした・・・、
灰色や黒色が混ざった巨大な体の蛾
蛾の下半身から無数の触手が蠢いており
触手一本一本から子供達の悲鳴が響き渡る
その蛾の胸の間に赤黒い水晶が埋め込まれており
一人の少女が沈んでいた



「セシ、リア・・・・、なの、か?」


月子さんの言葉が震えていた
月子さんの手から滑り落ちた拳銃がガシャンと床に転がる
誰もが目を疑ったがセシリアの濃い桃色の瞳がギョロリと動いた
赤色の涙を流して私と目が合った瞬間



「ア゛ア゛アァ゛アアア゛ア゛ァ゛!」



化け物は叫んだラヘルは魔法陣を開き無数の壁を重ねる
悲鳴で鼓膜が破れそうになる
壁が何十枚も割れていく・・・、


「セシリアなの?セシリア?!」
「無駄よ?私の愛しい子」



ゾクリと鳥肌が立つ
振り返るけどラヘルさんしかいない、でも確かに
アルテミシアの声がした・・・・、

確かに、確かに、耳元で、私の耳元で彼女の声がした!



「いや、いやぁ」

「何を恐れるの?可愛い子、あれはセシリアの中に閉じ込めた呪い
醜い呪い・・・、ねえ、人って、絶望すればする程、怒れば怒るほど
強くなるのよ、あんなふぅに・・・・、」



「やめてええ!!」



私の叫び声が魔法陣となり突風を起こす
篠が私の名前を叫んだ気がしたけどそれすらももう聞こえない
何も聞こえない、聴こえない・・・、キコエナイ・・・、



「セシリア、セシリア、一緒に帰ろう?セシリアのいう事守るから
良い子にするから、セシリアをもう泣かせないし困らせないから
帰ろう?帰ろう?帰ろうよお!」

「少女よ、目を覚ませ、目の前の闇に捕らわれていては真のセシリーアに
届かぬ・・・・・、ぞ・・・?」


「貴方は邪魔なのよぉ、ラヘル、本当、あの人にそっくりで堪らなく好きよ」
「貴方・・・・、様は・・・・、ほう・・・、そういう・・・、こと、か、そういう、事
だったのか・・・、アルテミシア様・・・・、」



ラヘルが血を吐く、胸には白色の細い手が突き抜けており
ドクドクと赤色の血が床に広がる
アルテミシアが手を引き抜くと同時にラヘルは糸が切れたように崩れ落ちた


「愛しい子、この私の為に死んで頂戴!」


「花恵!」



篠に腕を引っ張られて抱きしめられる


「セシリア!セシリア!私を見て!私の名前を呼んで!セシリア!」
「花恵、しっかりしろ!正気に戻って!月子!」
「ぐっ・・・!」


月子さんが床にひれ伏す


「月子!」
「うるっさい・・・、クソガキ・・・、ぐっ、契約がっ・・・、くそっ!
私は女王以外の者に命令は・・・、されない!決して!ひれ伏さない・・・!」


「ねえ、アルカの息子、私にその子を頂戴?そしたら貴方は殺さないで
あげるわぁ」
「誰が、やるもんか・・・!」

「あらぁ、あの人に似て頑固なのねぇ・・・、そこも堪らなく、好きよぉお!」



アルテミシアの伸びる血まみれの右腕を篠が日本刀で切る
飛んだアルテミシアの腕は床でビチビチとはねるが
ジュワリと溶けると、またアルテミシアの切断された腕から
シュルシュルと水色の糸状の物が伸び腕が作られていく



「それ以上近づくな・・・、」
「皮肉ね、貴方達は繋がるなんて、あの人と私は繋がらなかったのにっ!」



アルテミシアの叫び声と共にセシリアの悲鳴が上がる
無数の魔法陣が開いた瞬間、篠と私に向かって光の槍が降り注ぐ


「花恵!離れないで!」


荒れる砂埃にむせ、うっすら目を開くと篠さんの顔が見えた
額を切ったのかポタポタと私の顔に血液が垂れてくる


「ごめんね、綺麗な顔、汚しちゃった」
「し、篠・・・・、」
「俺は無限の神子、そして花恵は結末の神子・・・、本当は俺
君を恋しちゃ駄目だった、でも、しょうがないんだ・・・、
俺は君を見つけちゃった、守りたいと思った、お父様との約束もあるから」

「し、篠?嫌だよ?私、篠まで、おかしくなっちゃったら・・・、」

「大丈夫、俺はおかしくならないよ」



篠が私から離れると日本刀を自分の腹に突き刺した
「ひっ」と私の喉から声にならない悲鳴が漏れる
篠の血は刃を伝うと青色に変わる、刃は青く光り日本刀を引き抜く頃には
刃は蒼黒く変わっていた・・・、
たまに水色に光る魔術が刃を滑り消えていく



「アルテミシア、お前は今不完全だろう、今俺の手で殺してやる」
「あら、あらあらあらぁああ?私を殺す?この私を?女神の私を?
ふふっふふっ、いいわぁあ、セシリアもまだ自制があるみたいで
使えないからぁ、私が、私の手で、貴方達を殺してあげる!」


アルテミシアの叫びと共に地面が激しく揺れ私は床に倒れる
三つの首の巨大な獣、ケルベロス・・・、は激しく叫ぶと毒の唾液を床にばらまく


「さぁセシリア!歌いなさい!」

「ア、アァ゛アアアアアァアアァ゛!!!」


セシリアの絶叫でケルベロスの回りに無数の魔術が浮かぶとケルベロスに
鋼の鎧をつけ魔力の共有をはじめた


「化け物め・・・!」


篠さんがケルベロスに突っ込み足元を切り刻む
だがケルベロスは右足で篠さんの体を吹き飛ばした



立ち上がり月子さんの方向まで走る
月子さんはナイフで迫りくる触手をぶった切り
時に魔術を使って触手を大量に焼いていくが触手が焼け切れるたびに
子供達の断末魔が上がる



「やめて、やめてっ、もうやめてえええぇええ!ぇ・・・・、」


「さあ、歌いなさいセシリア!私の盾となりこの世界を
一緒に破壊しつくしましょうおおお??」

『ウ、ダを゛うた、う゛・・・、』



化け物が巨大な羽を広げた瞬間無数の断末魔が止まる


『きゅう、サ、い゛の・・・、う゛た』

「セシリ・・・ア・・・・?」


『きゅうさいノ・・・、う゛だ・・・、を・・・、』



その瞬間子供達の叫びが重なり響きあう
耳を塞ぎたくなる巨大な音に目を細める
子供達の笑い声や泣き声などが混ざりあうまるで合唱だ
月子も篠も続く戦闘に体力や魔力が尽きかけていた

この空間はそれに精神的にも追い詰める・・・、
篠は「やめろ・・・、やめてくれ・・・、」と刀を持つ手を震わせた


「俺は・・・、ただ、無力で・・・、」
「あらぁああ?貴方は何も出来なかったクセにねぇ・・・、
子供達を救う事も、父親を救う事も・・・、出来なかった癖に」


「そうだね、俺は、お父様が望む事を何一つ出来なかった
子供達にはツライ思いをさせた俺はここで罪を償うよ、花恵・・・、ごめんね」



「し、の・・・?嫌だよ?篠は強いもん、ね?私を置いて逝かないよね?」



「花恵・・・、infinitum・・・、」

「貴方・・・、それは!あの人のっ!!」



篠の回りに青色の巨大な魔法陣が広がると海の波の音が聞こえた
ああ、これは、篠の・・・、



「篠・・・!」
「花恵!」



月子さんに腕を引っ張られ月子さんと同時に床に倒れこむ
それと同時に巨大な水の柱が何本も立ち篠とアルテミシアを囲み
その姿が見えなくなると同時に淡い光が満ちていく


「くそっ、」


月子さんが力強く私を抱きしめる
私に力があれば、あればあれば・・・、あれば、皆を助けられたの?
それとも私がこの世界に来てしまったからこうなってしまったの?
私が、私が、ワタシが・・・、この世界を知りたいといった、から・・・?



「いや、いやああああああああっ!」



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