「あの!」


コートを掴むと同時に黒色のナイフが首筋に当たる
じっと顔を見ると、包帯で顔半分を隠したあの時の

「ルーナ・アニムスナ・・・、さん・・・、」
「あら懐かしい名前ね」


男はナイフをコートの中にしまうと私をみる
やはり包帯で半分隠れているが女性と間違えてもいいレベルの
美しい顔だ、だけどこの人はかなり多くの闇を持っている・・・、
私が生きてきた中で一番多くの・・・、
でも何故か懐かしい香りもする・・・、悪い人ではないと信じたい・・・、


「その名前は捨てたのよ、今の私は屋敷 月子って言うの」
「屋敷さん・・・?」
「月子で構わない」
「月子さん・・・、あの、あれ・・・?」


まわりを見渡すと私達以外のものが全て止まっていた
空を飛ぶ鳥も雲も全部・・・、


「空間停止魔術、貴方が私を追っかけてきたという事は
私に用事があったんでしょう?」
「いえ、それといって用事は・・・、ただ、セシリア、私も探してて」


月乃さんはセシリアという言葉に眉間に皺をよせると
ため息を吐く


「あちらの世界でセシリアに会っていた」
「はい」
「ならばセシリアは生きている、その情報が確実な物と
なっただけでも十分よ」
「あの、私もセシリアを探しているんです、もう一度彼女に会いたい」


私の言葉に月子さんが目を細めてまたため息を吐く
ポケットからタバコを取り出し火をつけると
私がいた店を見て首をかしげる


「貴方は」
「春川 花恵です」
「そう、花恵はオルカ王子に会ってこの世界を少しずつでは
あるけれど知り始めてきた、その先全てを知っても貴方が
この世界を美しいと言うのなら・・・、私はこの世界を護ればいいと思うわ」

「この世界を・・・?」


月乃さんのタバコはどこか柑橘系の匂いがして
初めて精神病院で会った時もこれの近い匂いをしていたと思い出す
彼の琥珀の瞳はこの世界をどう見ているのだろうか


「月子さんは、この世界を美しいと思いますか?」
「さあ?私は半分半分って所・・・、」
「半分半分・・・?」


包帯がシュルリと解けるともう一つの目がこちらを見る
緑色の瞳、そのまわりには大きな火傷がある
月乃さんはその火傷を触るとタバコを捨て踏む


「こっち瞳にはこの世界は腐りきってるようにしか見えないのさ
ただ、無事だったこっちの瞳は・・・、まだ彼女といた美しい記憶を
覚えていてあの日に護れなかった事を後悔している」
「セシリアを・・・?」
「ラヘルがチャチャ入れてくる前に私は天界に戻る
花恵とはまたすぐに会えそうな予感がするわ、それまでに
この世界の事をしっかりと勉強しておく事ね、それと」

「はい?」
「貴方はノスタージャ様とそっくりだわ、考え方行動全てが
彼女の写しのよう、本当に、面白いぐらいに」
「母は、この世界をどうしたかったんでしょう」
「どうしたかったかは分からない、ただこの世界を護ろうとした
セシリアと同じようにね・・・、」


そういうと月乃さんはスウッと消えまわりの人たちや物が動き始める
篠の声が遠くで聞こえて振り返ると同時に地面を見る
底には月乃さんがいたとしめす、タバコが転がっていた
神様や魔法が本当にある世界、私は今そこにいる
セシリアやお母さんが護ろうとした世界、それを壊そうとする女神様
そしていくつもの糸の先に、沢山の人が繋がっている・・・、
セシリアや母がその糸を守っていたとしたら・・・、
女神様がその糸を全て断ち切ろうとしたのなら?
ここで歩いてる人たちや篠さん、セシリアも、消えてしまう?


「花恵!急にどうしたの?」
「いえ、知り合いに似ている人が通ったんですけど人違いでした」
「うーん、向こうの世界にいける人間もいるからね、知り合いが
いないというわけではないけど、急に飛び出るのは良くないよ!」
「ごめんなさい、あの、篠、私やっぱりイヴァラータに行ってみたい
それだけじゃない、お母さんがいた、アフィリポアにも・・・、
篠は嫌かもしれないけど・・・、無理だったら私一人で行く・・・、」


ここの町が嫌いというわけではない、この町は温かくてとても良い所だ
篠が大好きだというワケもよく分かる
でも私はもっと知りたい、この世界の事を、多くの記憶を・・・、
母が何をしてきたのか、何を遣り残したのか・・・、
セシリアが望んでいた物とは・・・、全てを知ってこの世界を愛したい
その先にある炎は糸を焼ききろうとしている
セシリアは本当に欲望のために戦争を起こしたのか
それとも・・・、焼ききれた糸の先にある人々の、大量の命は何処へ向かうのか

私には知る必要がある気がしたのだ


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