「触んな」

篠さんはサイさんを睨みつけて私の手を掴むと
早歩きで広場を抜けカフェに入り込む、篠はハアっと息を吐き
私をみて「ごめん・・・、」と小さい声で謝った
首を横に振って出されるお水を一口飲む
レモンの香りがして早い鼓動が落ち着いてくるのが分かった


「あー、どこから説明したらいいんだろ」
「話したくないのなら・・・、話さなくても大丈夫だよ?」
「ううん、花恵には伝えておきたいんだ、これから何があるか
わからないから・・・、明日、戦争になるかもしれないし・・・、」


篠はコーヒーとオレンジジュースを頼むと私にさっき
本屋で買った本を差し出す


「塔が三本あるでしょ、あのうちの真ん中の塔、あれの名前は
イヴァラータ、その中にある国がイヴァラータ帝国なんだ」
「イヴァラータ帝国・・・、セシリアの国・・・、」
「そう、でも今の王様は、シュヴァリエ・イヴァラータっていう男
冠たる王とか言われちゃってるけどそれはイヴァラータ国内だけ
下界の民はその男に怯え暮らしている・・・、実際下界の政治も
イヴァラータがやってるからね、税も法律も全部イヴァラータの基準だ」

「怖い王様なんですか・・・?」
「そうだね、美しすぎて怖い、って皆言うよ、黄金の君・・・、
黄昏の荒地に君臨する獣の王、力で他国を制裁し圧倒的軍力をもって
最強の国を完成させた男、つまりは次の戦争の鍵となる男だよ」


「まあ俺の父親だよ」その言葉に口が開いてしまう
つまり、その最強の国の王様の息子という事は篠さんは


「王子様・・・?」
「王子様なんてキレイなもんじゃないよ、顔も似てないし
性格も髪色目の色だって正反対、俺、親子だと思ってないし、向こうは
どうかしらないけど・・・、」

「でも王子様ですよ!王様の子供!・・・、でも篠さんはシュヴァリエ様
の事が嫌いなんです・・・か?」
「大嫌い、戦争ばっかりしてさ、俺はそんなアイツの背中を見てきて
小さい頃から思ってた、こういう人がいるから戦争は無くならないんだって
目の前で沢山の人が死んだしその中に女子供もいた・・・、だから嫌い」


イヴァラータ帝国・・・、どんな国かわからない・・・、
でも篠さんのお父さんなら本当に悪い人なのかな・・・、
だって本当にお父さんを、シュヴァリエ様を恨んでるなら
篠さんから闇を感じるはず・・・、でも海のように澄んでキレイな心は
お父さんを何処か尊敬しているような感じもする・・・、


「篠さん、私、イヴァラータ国にも行ってみたい」
「は?!駄目だよ!今そこの国はメルクリース国と戦争中で危ないし!」
「私はセシリアが産まれて育った国を、篠さんがいた国を見ないで
嫌いとか言いたくない・・・、それに、」
「それに・・・?」

「少しでもお母さんに近づける手がかりがあればと思ってるの
この世界にいる間は・・・、お母さんの傍にいるような気がして」



そういって窓の外を見るとふわりと太陽の光を受けて輝く
ミルクティーのような長い髪が目に入る
立ち上がって急いで店を出る、店の中から篠さんの声が聞こえるが
気にせず彼を追う、彼はあの時の・・・、



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