楽園


実験が終わると決まって子供たちは白くて広い四角い匣のような部屋へ閉じ込められた。
次いで白づくめの研究員たちが部屋へなだれるように入ってくる。
検査のために身体を弄くりまわし、やがてそれも終わると、ようやく休まる時が訪れるのだ。
それは、次の実験が始まるまでの、ほんの僅かな間だったが――――。

ハイネはリリィと一緒に部屋の片隅にすわっていた。
罅割れがひろがる白壁にもたれて、白いタイルの床上へ両足を真っ直ぐに、放り出すようにのばして――――自分の膝の上に小さな頭をのせて気持ちよさそうに眠っているリリィだけを見つめる。
手折れそうなほど細い手足を丸め、顔をハイネの方に仰向かせて微かな寝息をたてている。
最近になって、ようやく見れるようになった穏やかな寝顔だった。
首に埋め込まれた鉛色の重しのような輪が眠りの妨げになり、なかなか身体を休ませることができず、長く愚図っていたが、何度かの実験の後、首輪の外殻を取り除かれ、横たわるのが随分と楽になった。
リリィの白く細い首に嵌まった不恰好な首輪が白天井からの照明を受けて鈍い光を反射させる。
その冷たく重い枷を睨むと視線を逸らし、リリィの淡い黄色がかった髪を撫でた。
そして髪から頬へと指先を動かしていく。
ふっくらとした頬から口もとへ――――少しだけ赤みがさした皮膚はすべらかで他に異常は見当たらない。
ハイネが触っているそこは数時間前の戦闘実験でリリィがケガをしたところだ。
左こめかみから顎にかけての顔半分の皮膚を獣人の鉤爪によって剥ぎとられ、ぬめった飛沫を散らしながら赤黒くうじゃけていたが、もう跡形もない。
千切り飛ばされたはずの白い細やかな五指も、すでに治癒しており、今はハイネの服を握り締めている。

リリィの再生能力は恐ろしく早い。
子供たちの中で突出していた――――ハイネよりも。
戦いながら再生する様は、まるで悪夢のようだった。
焼け爛れて剥き出しになった傷口の表面を蟲のような繊毛が蠢きまわっているのだ。
ハイネは袖からのぞいた自分の腕を見た。
血色のわるい腕の皮膚には歪なへこみが穿たれ、切り裂かれた痕も残っている。

不意に小さな寝言が聞こえてきた。
視線をリリィへともどすと、いつのまにか半開きになっている薄桃の唇の端から涎が垂れている。
それを親指で拭い取った。
尖った白い顎のほうまで涎にまみれてベトベトになっている。
ハイネは背をまるめながらリリィの寝顔をのぞきこみ、笑い声をこぼした。
起こさないように、小さく笑う。
眠る前にリリィが飲んだミルクの匂いがした。
また何か寝言をいうと、寝返りをうってハイネの腹に涎だらけの顔を押しつけてくる。
ハイネはリリィの汗で湿った髪へ指を差し入れ、その小さな頭を自分の膚身へ、より強く引き寄せた。

“大丈夫だ、大丈夫――――リリィを、守って、ここから、逃げてみせる”

“――――もっと、もっと、強く、なって、リリィをつれて――――………”

“あと、もう、少し――――………”

“あと、少し………もう、すぐ………”





ハイネとリリィ
お読み下さりありがとうございます。
妄想全開話です;;
うじゃける→ただれてくずれる。
2009.8.1
※御題配布元 SLUTS OF SALZBURG



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