阿吽大門の前で一旦立ち止まり、なにやら話し込んでいるサスケとサクラの姿を遠く眺めながらナルトは両腕を頭の後ろで組み、そして、晴れ渡った空へと顔を仰向けた。

「ナルト」
「んーーーー?」

右隣にいたサイが小さな溜め息をつく。

「……サクラとサスケくんが一緒にいると、本当に嬉しそうな顔をするんだね」
「あったり前だってばよ!」

そう叫ぶとサイが益々困惑したような人間らしい表情をして溜め息をつく。

「僕は、すっかりわからなくなりました」
「えー? 何がー? 何がー?」

頭の後ろに手を組んだまま右隣へと上体を少し傾かせるとサイが眉根を寄せてナルトの側頭に手を宛がって押し返してくる。

「ボクは、ナルトとサクラは両思いだと思ってたなぁ。この年になっても、人が思っていることって、なかなかわからないものだね」

反対側にいるヤマト隊長がしみじみと言う。

「サクラのサスケを思う気持ちを考えて身を引いたとか、かな?」

今度はヤマト隊長の方へとナルトは上体を傾かせた。

「何だってばよ、サイもヤマト隊長も〜」
「ナルトは、小さい頃からずっとサクラのことが好きだったんでしょう?」
「おう! サクラちゃん、大好きだってばよ!」
「それじゃ、ヒナタさんのことは?」
「オレはヒナタに恋してるってばよ!!」

胸を張って言うとサイが驚きあきれた面持ちでナルトを見返してくる。

「身を引いたっていうか、う〜ん…う〜ん、ん?」

微笑みながらサスケの身嗜みを整えているサクラと―――――――そんなサクラを見下ろしてぽつりぽつりと言葉をかけているサスケの穏やかな横顔を見つめる。

「サクラちゃんからさ、オレがサクラちゃんを好きなのは、サスケの対抗心からでしょ、って言われたんだー」
「そうなの?」
「そんなにサスケと張り合ってたのかい?」

ナルトはサイからヤマト隊長へ、それから空へと目を向けてみる。
考えをまとめようと暫く上目遣いに頭上の青蓋を睨む。

「はじめはびっくりしたってばよ。でも、張り合ってたってことが全くないって言えば嘘になるし。でも……」

両腕を下ろして胸の前で組む。

「あの時は、早くヒナタのところへ行かねーと、って思ったし!! なによりごちゃごちゃぐだぐだ反論したら! はっきり言って! 俺は! あの場で、サクラちゃんに塵にされるって思ったし!!」

ナルトは同意を求めてサイとヤマト隊長を交互に見て迫ってみた。
二人はにっこりと仲良く笑むが目が少しも笑っていない。

「ああ……うん」
「そうだね。サクラは綱手さま2号だしね」
「やっぱ、オレがずっと持ってたサクラちゃんへの気持ちって、改めて考えても、なんて言ったらいいか、よくわかんねーんだ」

再度、自分の思っていることを言葉にあらわしてみようとナルトは頭をガリガリと掻く。

「オレが言えることっていったら…―――――――いっぱい辛いことがあって千切れそうになっても、それでも、サクラちゃんがサスケに手を伸ばし続けてるって、オレにとっては、この世が救われるってことと同じなんだってばよ!」
「この世って、いきなり大きな話になったね」

そう揶揄しながらもヤマト隊長の口もとが綻ぶ。
サイはきょとんとして、まじまじとナルトを見返している。

「ガキの時からサクラちゃんを追い掛け回してて、なんていうか、どんなことになっても一生懸命なこととか、嬉しくて泣きたくなることとか、嬉しくて笑うことだとか、どうしようもなく弱くなっちまうこととか、すれ違って失敗やらかすこととか、思いすぎて反対のこと言っちゃうとか、ひ、人が、人を好きになることとか、良いことも悪いことも、ぜんぶキラキラ輝いてみえるんだってばよって、ああああああああああうまく言えねえってばよ!!」

ナルトは頭を抱えて地団太を踏む。

「ちょっと、ナルト。ほら、睨んでるよ、サスケが」

ナルトの肩をちょいちょいと叩きながらヤマト隊長が指し示す。

「不審者を見るような目つきだね、サスケくん」

ぼそっと言うとサイとヤマト隊長がサスケとサクラに向かって片手を上げて振ってみせる。
ナルトも慌ててサスケたちに笑顔を向け、親指を立てた。
まじっと此方を見ているサスケに対してサクラが言い聞かせるような事を言ったのか―――――――サスケがぎこちなく頭を少しだけ下げる。
勿論、ナルトやサイにではなく、ヤマト隊長にだろう。

「なんていうか、まぁ…」

色々思い出したのだろう、ヤマト隊長が笑う。
サスケが背を向けて歩き始める。
サクラもナルトたちの方へ手を振るとサスケの隣に並んで歩き出す。
今回は国境までサスケを見送りにいくのだ。



この世が善悪の埒外で創られていることを感じている。
ながい、ながい時代を生きてきた尾獣たちの目を通して繰り広げられた人々の闘争と憎悪の奔流、その只中に投げ入れられ視界も身の内も真赤に焼け爛れ、臓腑を吐き出し、まだ吐き続けて身が裏返りのた打ち回る。
大地を舐めるように人の業という炎車が廻転し、生けるものを、自らをも焼き尽くしていく。
眼を凝らし続けた。
どれだけの破壊を、死を積み重ねれば、満たされるのか。
―――――――涙が止まらなかった。
果てはないのだと。
けれど、心を打ちのめしたのは、果てのない人の業ではなかった。
この世がまったき真暗な地獄であったなら心から安堵できたのに―――――――救われたのに―――――――。
それこそが、オビトを、サスケを、マダラを狂わせてしまったのではないかと、ふと思う。
炎舞に翻弄されながらナルトの手のひらに辿りついた小さな花びらが仄かに光る。
この世の創りは惨く、地獄の様でありながら、温かく優しく美しいたわいないものを気まぐれに生み出す。
それは、とても悲しいことだった。
脆く崩れやすく、見つけたとしても、すぐに奪われてしまう。
一瞬でも眼を離せば、離さなくとも呆気なく目の前で失われる。
涙は枯れ果ててしまう。


遠ざかっていく二人の背中を眺めながら、最後には、唯、祈ることしかできない。
どこでも無力であることを嘆くことなく、諦めることなく。
ナルトの手のひらに、心に舞い降りた光の花びらの記憶を手放すことなく。



-終-



2014.12.21
映画ザ・ラストから数日後の出来事。


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