どこまでも真っ青な空が目の前に広がっている。
里の賑わいとどこか遠くで響いてくる野鳥の鳴き声を耳にしながらナルトは顔岩の頭頂で寝そべっていた。
晴空をなんとはなしに眺めてはうとうととする。
第四次大戦は終幕したが、療養もそこそこに国と里の事後処理に追われて日夜駆けずり回り、それもようやくひと段落して久しぶりに得た静かな時間、一先ずの―――――――。
閉じていた目蓋を開けて上身を起こす。

「ナールト! やっぱりここにいた!」

傍らに視線を上げると同時にナルトのいる四代目火影の頭頂へ軽やかに着地したサクラが睨みつけて見下ろしてくる。

「サクラちゃん………」
「よーやく身体休めれるっていうのに、病院抜け出して何してんのよ!」

鮮やかな眦を吊り上げると両腰に手を宛がって身を屈める。

「あ…えーと、その、サクラちゃん、実は…」

ナルトは頬を掻きながら必死で繋げる言葉を探す。

「二時間ぐらい抜け出したっ、てーのだったら構わないわよ! わかってるんだからね? でも六時間以上経っても戻ってこないから、すっごく怒ってんのよ!!」

捲くし立てながら迫ってくるサクラにナルトは身を徐々に反らす。

「アンタはアンタでサスケくんの見送り、ちゃんとしたんでしょ?」
「……!」

ナルトは瞬いてサクラを見返した。
ふっと吐息するとサクラはどかっと勢いよくナルトの隣へ腰を下ろす。

「うん。ちゃんとできたってばよ」

胡坐をかいて座りなおすとナルトはサクラの顔を改めて見つめた。

「よかったね、ナルト」

一点の曇りもない晴れやかな笑みをするとサクラは真っ直ぐな強い瞳で見返してくる。

「サクラちゃんは?」
「―――――――サスケくんがいつでも帰ってこれるようにする!」

腕を振り上げるとナルトに向かってガッツポーズをしながらサクラが破顔する。

「おう!」

サクラの腕に自分の腕を絡ませてナルトも笑う。

「ナルト。あのね」
「んー?」
「さっきね、カカシ先生…六代目火影様から任務を受けたの。特別上忍に着任して、木ノ葉使節団の一人として四大国に派遣されることになった」
「えっ…!?」

どくん、と心臓が強く鳴ったような気がした。

「各国の医療研究所・シンクタンクに招かれてるの。この機会にもっと見解を広めたいし、なにより他国の里と少しでもパイプを太く繋げたいと思って受けたわ」

ナルトはサクラの顔をまじまじと見つめた。

「スッゲェ!! マジで!?」
「もっともっと力をつけて守るの―――――――」

“火影になるあんたの夢と、サスケくんが無事に旅を続けて、里に帰ってこられるように私にある全ての力を注ぐの”
言葉にしなくてもサクラの思いが心へ緩やかに伝わってきた。
サクラが詰め寄りながらナルトの眼前に人差し指を立てる。

「アンタも気を抜いちゃダメなんだからね〜! 調子に乗るようなことしたら、どの国にいても、アンタをぶっ飛ばしにくるからね!! わかってる!?」

鬼気迫る表情でを間近で見てナルトはこくこくと頷くしかなかった。

「わ、わかってるってばよ〜サクラちゃん〜」
「ま、でも、今はゆっくり休んで充電しなきゃね」

そう言って、しなやかな指でナルトの頭を優しく撫ぜてくる。

「……あのさ、あのさ、どれぐらい木ノ葉離れんの?」
「んー、全部を回って三年ぐらいかな〜。あ、でも、国を移る時に一度里に戻るからね」
「そっかー。んじゃ、いつ出発すんの?」
「一週間後かなぁ。それぐらいあれば、アンタも完全に回復するだろうし。それを見なきゃ安心して里を離れられないじゃない」

ぺちんとナルトの頬を軽く叩いて笑う。

「へへへ、じゃあさ、じゃあさ、オレってばサクラちゃんお出発日引き伸ばすために治療さぼっちゃうもんね〜!」
「なーに言ってるの」

ぱちぱちと頬を優しく叩くサクラの柔らかな手を掴む。

「ナルト?」
「わかってる…わかってんだ…」

ナルトは自分よりも小さく細い指の手を握り締める。
大戦が終わった頃から抑え込んでいた痛みが疼きだし全身へひろがっていく。
心配そうに顔を覗き込んでくるサクラにナルトは笑いかける。
すぐに視界が薄い膜を張ったように滲み始めた。

「ヤダってばよ…」

ナルトはサクラの肩に顔を押し当てて柔らかな身体にしがみつく。

「―――――――イヤだ!! サクラちゃん、が、そばから、いなくなるなんてヤダってばよ!」

そのまま共に倒れこむ。甘い肌の匂いが鼻腔を満たすとさらに身体中で逆巻いていた疼きと飢えが怒涛のように迫ってくる。

「サスケが、また里を出ちまうのも本当は、本当はイヤだ、イヤだイヤだ!! なんで―――――――!」

痛い。こんな痛みは知らない。昔の、誰にも顧みられず孤独だった頃に渦巻いていた痛みとは比較にならない。
ぽっかりと空いていた胸の穴には仲間たちがいる。サスケも戻ってきた。もう二度と心が離れることはない。塞がって満たされているのに、どうしてこんなにも痛いのだろう。痛みが際限なくあふれてくるのだろう。

「イヤだ、イヤだイヤだ! ずっとみんなといたいんだってばよ! サクラちゃんとサスケと、カカシ先生と……昔みたいに、七班のみんなと、ずっと、ずっとずっと!!」
「ナ、ルト―――――――……」

サクラの腕がナルトの頭を抱きしめる。

「……なんでだよ、サクラちゃん、いてぇよ。さみしいよ…いてぇよ」

身を裂かれるような激痛に身体がふるえる。
さみしい。さみしい。さみしい。
耐え切れずナルトは声を上げて泣いた。小さな子供のように駄々をこねて泣き喚き縋りつく。

「この、ばか…ナルトっ…! 私もだよっ…」

サクラがナルトの頬に頬を付けて嗚咽する。

「私だって! 一緒にいたいよ。いつまでも、サスケくんとあんたと一緒に……ずっと手離したく、ないっ。私たち、いつも一緒だったよ」

共に過ごした時間は、そう長くはない―――――――だが、永遠とも思える何ものにも代えられない時間だった。
サクラの膝の上に顔を伏せて涙が止まるまで泣きじゃくった。胸が、喉が裂けよとばかりに。


涙で汚れた顔を手で拭こうとするとサクラがハンカチを取り出してナルトの顔を強く擦る。
長い時間泣き続けてどちらもひどい有様だった。
目蓋も目の周囲も頬も鼻の頭も腫れぼったくなっていた。
それから並んで岩壁に凭れすわって、黙ったまま暫く里の様子を見下ろす。
空の青にほんのりとした赤みが緩やかに溶け込んでくるまで。
ナルトは隣で同じように両足を投げ出してすわっているサクラへと瞳を向けた。
サクラもこちらへ顔を向ける。
そして、顔を見交わせると口角を緩ませて、やがて笑いあう。

「ナルト、ひっどい顔」
「サクラちゃんだって」

はじめはくすくすと笑っていたのが、次第に大きくなってゲラゲラとお腹を抱えだす。
肘と肘をぶつけ合ったり、互いのわき腹を突いたりする。
仲間であり、友人であり、サスケを追いかけることを誓い、絶望と希望を共にしたかけがえのない人だった。
まだ何も知らなかった頃も、知った後でも、
恋人のようでもあり、姉のようであり、妹のようであり、母のようでもあった。
そんな存在の人をなんと呼べばいいのだろう――――――――――――――。


サクラが座ったまま両腕を思いっきり上げて背伸びをすると顔を青空へ仰向かせる。

「ナルト、帰ろうか」
「うん。帰るってばよ」

立ち上がって振り返るサクラを見上げてナルトは笑う。

「なーなー、サクラちゃん」
「何よ?」
「サクラちゃんと、手、繋ぎたいってばよ」

そう言うとサクラがきょとんとした表情をしてナルトを見下ろしてくる。

「いいわよ」

昔なら即ぶっ飛ばされた言葉にあっさりと応えてサクラがナルトへ手を差しだす。


『マジで!? あ、じゃあさ、じゃあさ!』
『今度はなによ』
『一度さ、やってもらいたかったんだけどさ! 負んぶしてくれってばよ〜!』
『はああああ―――――――!? やってやろうじゃない!』
『………サクラちゃん、それってマジで?』
『アンタが言い出したことだろうがああああ!!』
『なーなー、サクラちゃん。サスケ、いつ帰ってくんだろ』
『いつだと思う?』
『んー、あした?』
『“そんなわけあるか、このウスラトンカチ!”』
『!?』
『えへへ〜サスケくんの物まね、に…似てたかなぁ?』
『似てた! 似てたってばよ!』
『やった〜!』


-終-



原作完結後のお話。
七班大好きなナルトとサクラの話です。
サスサクとありますが、サスケは登場してません。
ナルトが色々弱みを吐露してます。
ここを乗り越えてたくさんの愛情もってヒナタへと繋ぐナルト。


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