大きな鳴動は徐々に治まりつつあったが、ときおり、痛みを堪えるように大地が揺れる。
大空と大陸に張巡らされていた神樹の木が枯死していく。
そこら中でツタのようなものに巻き取られてぶら下がっていた人間たちが身を覆う粗皮を破って這い出てる様子が見て取れた。
呆然と空を見上げたり、その場に座り込んだりとしていたが、状況を把握しようと少しずつ動きが活発になってくる。
香燐の胸中とは真逆の、蒼穹にまだら雲の帯が低くゆっくりと流れてのどかな空模様だ。

「なぁ、香燐。今のうちにここから離れたほうがよくない?」

先ほどから周囲をうろちょろと似合わないことをしていた水月がようやく口を開いた。

「……さっさと行け」

香燐は立ち尽くし、遠く荒野を睨みつけたまま言い放つ。

「あのね、ボクら犯罪者なんだからね。五国から指名手配されてるんだよ。そこらへん歩き回ってる奴らにバレる前にさ。ほら、変態な二人もどこかに行っちゃったし」
「知ってる。だから、さっさと行けって言ってんだろーが」

水月が何か言いたげにして、こちらを見ているのがわかる。

「重吾、キミはどうするの?」

少し離れた場所にある岩石に腰掛け、目覚めてから一言も喋らない重吾へ水月が尋ねる。
いつまで待っても返答しない重吾に水月は盛大な溜め息を吐き出す。

「いいから、ウチらのことはほっとけ」
「なんで探しに行かないの? 見つけてもらえるのを待ってるわけ?」

口調のわりに、珍しく嘲弄するような響きがない。
それに答えず、香燐は遠くに見える岩峡(がんかい)から視線を巡らし自分の足元へと向ける。
求めているチャクラは既に感知していた。
その人物は確実にこちらへ向かって疾走している。
激しい連戦によってだろうチャクラは消耗してしまっている身体で何故、懸命に走ってくるのだろうか―――――――ある予感が拭えず、この場から逃げ出しそうになる己に耐えながら香燐は両脇に垂らした手を握り締めた。
隣に並ぶようにして水月が立ち、同じ方向を見つめる。
重吾が無言のまま立ち上がったと同時に背後の崖上から声が響く。
姿を失ってから、それほど時間が経ってたわけでもないのに、ひどく懐かしいその声。

「って、サスケ、そっちから来るの!? 香燐、なんで、こっち向いてたワケ!?」

水月が振り向きながら叫ぶ。



「五影と話をつけた。お前たちは自由だ。ここからすぐに離れろ」

相変わらず淡々した声で唐突なことを言い出した。
それから大戦の顛末を簡単に説明する。

「いきなり何なの!? それにボロボッロじゃん! その腕、腕っ、左腕!」

水月が叫びながら香燐の腕を強く握り締めて身体を揺さぶる。

「ちょっ、なんだ、てめー、触んじゃ………ね…ぇ!」

水月の手を手の甲で弾き飛ばした拍子に香燐は視界に捉えてしまったサスケに心が引きずられて振り返ってしまった。
飛び降りて崖下へ着地したサスケを香燐は息を詰めて凝視した。
顔も衣服も、全身が泥まみれで、ところどころには乾いた血が付着し襤褸のような酷い姿になっている。
そして、左腕が上腕の途中から失われて纏わりついている千切れた袖あたりは濁った血色でごわついていた。
痛々しい姿に胸が張り裂けそうになり、サスケのところへ駆け寄ってしまう。

「重吾、サスケの傷を治せ!」

袖を捲るのももどかしく引きちぎって晒した香燐の腕を、だが、サスケは手を宛がって押し止める。

「大丈夫だ。傷とチャクラの応急処置は済ましてある」

その言葉と響きに香燐は体中の力が抜けていく。
静かな声の中に相手を労わるような響きが深く胸に入り込んでくる。
微かなイメージが脳裏に浮かぶ。

「なんて様だよ、情けねえ……」

香燐は涙声になるのを辛うじて堪えて悪態をつくとサスケはえも言われぬ表情を浮かべた。
端正な顔は打撲の痕や裂傷だらけで見れたものではないのにも関わらず、思わず魅かれて目が逸らせない。

「あのさ、ボクたちが自由になったのは嬉しいけど、サスケは?」
「自らの身と引き換えにしてか?」

水月の言葉を重吾が継いで言った言葉に香燐は眩暈がした。

「オレは木ノ葉に帰る」
「ダメだ! それは……そんなことは!!」

サスケに詰め寄って香燐は叫ぶ。

「そんなの認められるかっ! ウチが…!」

抜け忍の身でも危ういのに、木ノ葉崩しの首謀者・大蛇丸の元に身を置き、その後は暁と提携し人柱力と八尾、五影会談を襲撃、大四次忍界大戦を引き起こす加担と直後に木ノ葉の上層部・志村ダンゾウの暗殺。
連合とともに大戦の首謀者・うちはマダラを倒し、世界にかけられた無限月読の解除に協力したとはいえ、あまりに重過ぎる罪状に徒で済むはずがない。
たとえ死罪を免れたとしても、結局は死に等しい罰を与えられる。
能力と身体を封じられ闇の中に閉じ込められたまま永久に―――――――。

「サスケ、てめーを木ノ葉なんかにやってたまるか…!!」

香燐はサスケの腕を掴みながら水月と重吾を振り返る。

「水月! 重吾! サスケを……!」

重吾はサスケの顔を見つめたまま微動だにせず、水月はひどく困ったような表情をして香燐を見返す。

「だって、サスケ、ウチは…ウチは…」



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