「ねぇ、ねぇ、キラ、キラってばぁ」

下の方から腕を何度も引っ張られ、キラはモニターから傍らへと視線をずらした。
知らないうちにキラの部屋へ運び込んだ“ベルジェール”と呼ばれる張りぐるみの肘掛け椅子にすわったフレイが見上げている。
少し恨みがましそうな表情に、慌ててキーボードから指をひく。
そして、ごくりと唾を飲み込み、あらめてフレイへと向き直る。

「どうしたの、フレイ?」
「キラとアスランは一番の仲良しなのよね?」

向き合ったことで機嫌が直ったらしく、フレイはすぐに表情をほころばせながら唐突なことをきいてくる。

(いつものことだけれど――――)

ほっと安堵しつつも首を傾げて、灰みがかった薄青の明眸(めいぼう)を見返した。

「うん。“仲良し”だよ。兄弟みたいって思うし」
「そうそう。お兄さんって感じ」
「あはっ、そうかも。赤ん坊の頃から、ずっと一緒にいたし」
「そうよねー」

キラの机の上に置いてあったグラスにフレイは手をのばす。
透明な表面には水滴が纏わり、角がとけて丸くなった氷がカランと音をたてて琥珀の液体を揺らす。

「でもね、僕の方がアスランよりも、誕生日、先なんだよ?」
「うーん。そうなんだけど、でも、キラは弟って感じよね。カガリとだって、そんな感じだもの」

キラは上目にして天井を見て、一年前にキラを訪ねに海辺のこの町に来た少女の姿を思い起こす。

「………そう、なんだ。へー、僕って、そーなんだ」

フレイは含み笑いをしながら、こっくり頷く。
なんとなくわかってはいたが、実際にそう言われるとショックな気持ちが隠せない。

「もー落ち込まないでよ。それでね、話の続き。キラって、アスランの好きな人って誰か知ってる?」

その問いかけにキラは目蓋を瞬かせた。

「なに、それ? どういうこと?」

眉を顰めたい気持ちを抑えてフレイを見下ろす。

「キラ? どうかした?」

フレイはきょとんとしてキラを仰いでいる。

「………知らない。そういったこと、アスランは滅多に言わないし」
「やっぱり、そうよねー。アスランって――――アスランってぇ、そーゆーのに鈍いんだもんって、言い過ぎかしら」

椅子の背にもたれて楽しそうに笑うフレイをキラは穏やかではいられない心情を込めて見つめる。

「それ、アスランに言ったでしょう?」
「そうっ! 言っちゃった! すごーく変な顔してた。なぁに? アスランから聞いたの?」
「ううん。何も言ってないけど………なんか、考え込んでたから。でさ、どうしてアスランが誰を好きかって気になるわけ? おしえてほしいんだけど?」
「だって、キラにとってアスランは友達っていうより、兄弟みたいな存在でしょ。わたしの将来にもかかわってくるじゃない。アスランのお嫁さんは、キラとわたしにとって義姉さんっていうことじゃない? わたし、平穏なのがいいの。諍いなんていや。それに、わたし、一人っ子だし。だから、仲良く楽しくやっていけるように、今のうちに手をまわさなきゃ!」

ほんのりとハニーピンクに色づいた繊細な指先でブラックのストローをくるくるとわましながら、挑み顔で言う。

「――――なぁんだ。そっか、そーゆーことなんだ。よかったよかった」

はぁーと息を吐いてキラは肩を下ろした。

(フレイも大概鈍いけどねー)

「なにが?」

大きな瞳をぱっちりと瞬かせてフレイは聞いてくる。

「ううん、なんでもないよ。ええっと、僕たちの義姉さんかぁ。やっぱりアスランにはラクスでしょ? お似合いだし、婚約者だし怖いものなし!」
「ラクスがわたしたちの義姉さん………うん、やっぱりそうよね。いい! すごく心強いって感じる! 怖いものなし!」

ぱちぱちと手を叩いてフレイがはしゃいだ声を上げる。
キラもフレイに合わせて同意の拍手をする。

「そうそう! いいよね〜!」



2009.10.13
すみません。この二人、言いたい放題やりたい放題のバカップルですー;
アスランは苦労するんです。

title ララドール


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