孵 化



あの日、彼女を燃やし尽くした最後の炎が胸を貫いて――――その後に残された虚ろが徐々に身を侵していく。
おだやかな日々が緩々と身の上を通り過ぎていった。
だらだらと溶け腐った肉のような日常が排出されていくのを眺めている。
以前には常に存在していた情動―――――――その情動のありかを見失って、
眠っているのか、目覚めているのか、
うつつと夢がまざりあって、どこまでいっても目にうつるものすべてが曖昧だ。
人の形はぼやけて、かけられる言葉は意味を成さない。
争いさえも遠くかすんでいる。
混濁する意識が輪郭を結ぶのは、彼女を想わせるものを目にした瞬間だけだった。
その時だけ、心臓が鼓動を打つ。
内側から胸を叩いてくる。
何かが、それとも誰かが、この身体の内側で叫んでいる。
真赤な血を吐くような叫びを。

“故に我を形成する血と肉は”

『そこにいるの? 君はそこに?』



2009.2.26

title/亡霊


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