“踊り続けるマリオネット”



あ かいい と あ かい いと つむぐ よ あ なたへ

歌声が途切れがちに響く。
終わりを失ったかのように歌はまわり続ける。

キラは素っ気無い天井に向けていた目を傍らのフレイへと移した。
すぐ目の前に鮮烈の赤がひろがる。
シーツへと傾けた頬をくすぐる艶やかな髪の、その甘い香りがキラの胸を熱く上ずらせた。
狭いベッドに無理やり並んで横たわっているため、肌の触れた箇所――――肩先から、絡まった腕と両足から体温が溶け込んでくる。

「………あか、い、いと、赤い、糸?」

指をひろげた手の甲を眼前に掲げて嬉しそうに眺めながらフレイが小さく頷いた。

「キラ、知ってる?」
「たぶん………」

フレイはキラを一瞥すると口許に淡い笑みを浮かべた。

「言ってみて」

キラは胸中に生まれた言葉を舌先にのせて――――唇を閉じた。
躊躇いが喉を詰まらせる。

「赤い………糸の、伝説」

指を見ていたフレイの瞳がゆっくりとキラを捕らえた。
シーツの上をすべる肌の音とともに仰向かせていたしなやかな肢体がキラの方へと向いていく。

「キラ?」

言葉の先を促すように薔薇色の頬をシーツに軽く押し付けて、上目遣いにキラを見つめてくる。

「………見えない、赤い糸が、指先には結ばれていて。その、糸の先には、将来、結ばれるべき………」

フレイが片方の手をキラの眼前に差し出す。
透けるような白い手首を掴むとキラは自分の口許へと寄せる。

「恋人に、つながって、いる………」
「恋人?」
「………そうじゃないの?」
「違うわ。赤い糸の先にあるのは、そんなものじゃないの。恋人だなんて、そんなもの」
「なにがあるの?」
「“運命”」

小さな笑い声をこぼすとフレイは肘をつき、僅かに身を起こしてキラの瞳を覗き込むように見下ろした。
肩先から真赤な髪が流れ落ち、まろい胸許、野薔薇のような乳房で毛先が飛炎のように踊る。

「運命は、恋も、愛も、憎しみも、死も、命も、過去、現在、未来、わたしのすべてを呑み込んでいく――――どうしたの? キラ、怯えてるの」

声に微かな嘲りを滲ませてフレイは笑う。

「ふるえているわ」

キラは目を伏せた。
まなうらで赤火の残滓が踊り続ける。
肢体から匂う甘さに眩む。

「そんなの、怖いよ………」
「だったら、わたしは、その怖いものの前にいるのね」

その言葉に胸を突かれてキラはフレイを仰ぎ見た。

「わたしの運命は“キラ”だもの」

こともなげに言い放つと謳うようにあでやかな微笑をたたえる。

「ぼくが………?」
「そうよ、あなたよ。わたしの、唯ひとりの人」
「………きみの、すべてを、呑みこんでいくの?」
「ええ、キラが」

キラの頬に手を添えて唇にキスを落とす――――唇の形をなぞる羽のように柔らかいキスを――――。

「ぼくだって、そうだよ。きみが、ぼくの……」

熱くなっていく肢体を抱き寄せるとキラはフレイの肌に口付け、舌を這わせる。

“運命”

扇情的な笑い声をあげてフレイは肢体を仰け反らせた。
否定しているかのような笑い声にキラはフレイの膚身に指を押し付け弄り――――柔らかいそれに歯を立てた。



2008.2.19
キラフレ愛祭企画へ提出した作品です。


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