“間違った存在よ”

自然の摂理によって生まれた美しい少女は事も無げに言い放ち、自身を誇るように嫣然と笑う。

「いっそ、君を嫌いになることができたら――――」

何度も呟き、少女から離れようと僕はもがく。
みっともなく足掻いては泣き崩れる。
少女の仕打ちに傷つき、報われることのない想いに絶望して吐き出す。

“そうまでして、いったいなにが欲しかったの?”

僕らの存在を跳ねつける少女の端麗な容貌は、ひどく残酷めいていた。
冬の湖面のような深い瞳の色、その眼差しは裁きの女神に似て、欺きを許さない。
人の奥底にあるものを無慈悲に暴いては抉り、眼前に突きつける。

“さわらないで”

少女は自身に対しても、他人に対してもあまりに真っ直ぐだった。
自身も他人も傷つけてしまうほどに――――純粋だった。

“本当は、どこに行きたかったの?”

美しさも、醜くさも、憎しみも、恋も、愛おしさも、寂しさも、強さも、弱さも、浅はかさも。
傲慢さも、悲しみも、狡さも、傷だらけの優しさも、嘘も、そして儚さも。
孤独と罪、失うことを――――なにもかもをおしえてくれたのは少女だけだった。
すべてを少女は持っていた。
それを惜しみなく与えてくれた。

持てるものとは少女のこと。
持たざるもの、それは僕のこと。
“愛にあふれたきみは―――――――”



2007.1.31

title/AnneDoll


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