C.C.は手摺に腰を下ろしてすわると正面を見つめたまま、傍らで水面を一心にのぞきこんでいた女に「ここへ来い――――シャーリー……」と言った。
躊躇う気配にC.C.は黙って手を伸べる。
手のひらに触れるようにおずおずと置かれた瘡つく手を握ると目前に来るように促す。
もう片方の手をも取って軽く引き寄せ、C.C.はシャーリーと真向かう。
C.C.は握り締めた手を自分の膝の上にのせて目を向けた。
シャーリーの指先に付着していた赤い汚れを親指でなぞる。
赤茶色した塵のようなものが剥がれ落ちていく。
身を僅かに屈めてシャーリーの左頬――――血で貼りついた髪を取り除き、白く細い頤に指先を当てて上向かせた。
こめかみには数条の裂傷があった。
頬は歪に閉じられた目蓋から流れ出た生乾きの血で汚れている。

「ルルーシュが哀しむ」
「どうしても………思い出してしまうの」

シャーリーは困ったように笑み、頬に添えられたC.C.の手に、自分の手を重ねて残った右眼を閉じた。

「わたし、とても幸せなの。でも…………」

閉じた目蓋から涙が零れ落ち、微笑を刻む唇を濡らしていく。

「ルルは、嫌うから………わたしが、思い出してしまうこと、とても、嫌うから………」

だから、と呟いてシャーリーは手のひらでもって左目蓋を覆って隠す。

「少しだけ………哀しかったの」
「――――愛しているからこそ、辛いのだろう」

思わず出た言葉にC.C.は苦笑した。
遠い昔、ルルーシュに言った言葉が微かに胸を打つ。

“本当に失いたくないものは遠ざけておくべきだ”

ルルーシュはC.C.の言うとおり、そのように決断した。
記憶を奪って、手離した――――だが、再び、ルルーシュはシャーリーを探し出し、手元に置いたのだ。
築いた生活を、新しい家族を奪い、身の自由も奪い、この睡蓮の宮殿に閉じ込めた。
よみがえる記憶を、そして子供も――――。
ルルーシュとの間にできた子供も取り上げて殺してしまった。
徹底してルルーシュはシャーリーから奪い続けていく。
そしてシャーリーはルルーシュに捧げ続ける。
慄きながらも。
悲鳴を上げ続けるシャーリーの姿を見ながら、ふと気まぐれのようにふって湧いた感情のまま――――また、目の前で繰り広げられる二人の愚行にうんざりとして、その手を取り、宮殿から逃がそうともした。
だが、シャーリーは決して宮殿から出ようとはしなかった。
C.C.はシャーリーの髪を撫でながら頭を抱き、片頬を寄せて囁く。

「ルルーシュには、もう、お前だけだ」



2007.8.9
“ルルーシュは永遠に失い続けるだろう”
未完


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