“どうしようどうしよう、どうしたらいいんだろう”


「きっと、きっときっときっと、すごくすごーく、とんでもないことが起こったのよ!!」

学園中を何週も走り回ったあげく、生徒会室の前で教師を巻き込んで派手にすっ転び、説教をくらい、今度は学園の外へ飛び出そうとするのを会長厳命で説き伏せた。
漸くソファに横たわせたものの、ルルーシュの身を心配し、延々と呟き続ける。

「悲しくって、苦しくって、辛くって、とにかく尋常じゃなくって、すごく、すごく………だって、嘘笑いの演技、すごく下手くそだったもの!」
「あはは〜、ほんと、あれは、ものすごく下っ手くそだったわ」
「しかも、ルルってば、わたしたちに演技ばれていないって、本気の本気の本っ気で思っているんだもの!」
「ほ〜んと、重症だねぇ〜」

ミレイはソファへと向かいながら手にした数枚のタオルを一瞥して苦笑する。

「ほ〜ら、これでぶつけたところ冷やしなさい」

ソファの前で立ち止まるとミレイは身を屈ませ、横たわるシャーリーの腫れて赤くなったおでこに氷水で冷やしたタオルをのせた。

「あ、ありがとうございます、会長……」
「どーいたしまして」

ミレイは笑いながら赤くなった鼻の頭にもタオルをのせる。
途端にシャーリーの声がくぐもった響きになった。
タオルを口元まで覆ってしまったからだ。
それでもシャーリーは気にも留めず、再び呟きを開始する。
ミレイは溜息をついて肩を軽く竦ませた。

「ほ〜らほら、もうやめやめっ! シャ〜・リ〜っ」

シャーリーは鼻の頭にあるタオルを少しだけ除ける。
そして頭を動かし、覗き込んでいるミレイを仰ぐ。
若葉色の瞳が潤みだし、深くなっていく。

「会長、やっぱり外に出――――」
「ダーメ。許しません! いやだからね、病院から連絡が入ってくるとか!」

こんな状態のシャーリーを外に放つことなんて出来ない。
脇目も振らずに町中を探し回り、ひっきりなしに車が走る車道すら飛び出し兼ねない。
当てのところでも見つからなかければ、租界の外さえ躊躇いなく行ってしまだろう。

「――――だって、ルルが」
「リヴァルが外を探してます」
「でも……」
「大丈夫だって。帰ってくる!」

ミレイはシャーリーに笑いかけながら、サイドテーブルの傍らに置いてある椅子を引き寄せてすわった。

「ここに帰ってくる! ねっ?」

もう一度言うとシャーリーは目を瞠る。
そして鼻を小さく啜って自分に言い聞かせるように緩々と頷く。
ミレイは膝に両肘をつけて頬杖をしてシャーリーを覗き込む。

「まぁ、帰ってくるまでに馬鹿の一つも二つも三つも四つも五つもしてくるだろーけどねぇ〜」
「か、会長〜〜〜」
「だってさ、ルルーシュって、もともとトンでもない馬鹿だし。絶対、なーんかヤラかして帰ってくるでしょーね〜。でも許してあげなさいよ、ね?」
「………ゆ、許すも、な、なにも、だって……別に………ルルは………きっと、いっぱい、考え込んでいて、いっぱいで………」

シャーリーはもごもごと言いながらタオルで口元を隠していくが直ぐにタオルを捲る。

「会長、どうしたら、元気になるかなぁ、ルル………。なにができるかなぁ、ルルのために――――元気のでるもの。ルルの好きなもの………元気のでる」

不安げだった瞳が明るい若葉色へと澄んでいく。
真摯な眼差しで一心に仰いでくるシャーリーにミレイは微笑んだ。

「よし、みんなで考えるぞ! って、その前に、しっかりと冷やしなさいよ、そ〜れ。おでこもはなも真っ赤々なんだから。それに、ルルーシュの奴、そーゆー時にこそ、素で突っ込んでくるからね」

シャーリーは頬を染めるとタオルで顔を覆った。



2008.5.22
そして折鶴のことを思い出すシャーリー……でした。


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