“冥水のオフェーリアが紡ぎつづける愛情を...”
世界は降りやまぬ雨によって深い蒼に沈んでいた。
溟々とひろがる水面(みなも)は天から落ちてくる雫に波立ち、蒼く浸す身をせめぐように揺らす。
「おしえてほしい」
ルルーシュは跪ついて眼前にひっそりと立つ少女にしがみつく。
その濡れ身の細腰に腕をまわして抱き寄せ――――そして、瞼を閉じながら顔を伏せた。
触れあったところから、どこまでもあたたかな温みがつたわってくる。
「どうしたらいい? どうやって、君に――――」
そのあたたかさにルルーシュは絶望して、喉からしぼりだした声をふるわせた。
「君に、償ったらいい?」
振り仰いだ少女を見つめて、白く敢え無いほどの手首を掴み取った。
少女はルルーシュの瞳を覗き込むかのように、身をわずかだけ屈める。
そして、微笑みながら、緩々と首をふった。
濡れた潤朱(うるみしゅ)色の長い髪から雫がこぼれ落ち、ルルーシュの身へとふりそそぐ。
少女のすべらかな頬にルルーシュは指先をのばす。
「俺を、憎んでほしい――――死んで、しまえと………言ってくれ」
そう懇願するルルーシュへそそがれるのは、けれど、やさしい眼差しだけだった。
唯、それだけ―――――もう、いいのだと、そう言ってるかのように少女はルルーシュに微笑みかける。
「お願いだ、シャーリー………お願いだから」
シャーリーは雫滴る頬を傾けて薄くれないの唇をかすかにひらいた。
“――――………て、る、あい………”
ルルーシュの耳もとに唇を寄せて囁いてくる。
「そんな目で俺を見ないでくれ!」
細い腕を強く引き寄せてルルーシュはシャーリーの身体を抱きしめた。
「俺は、許さなかった………俺から未来を、すべてを、奪った者たちを許しはしなかった、決して!」
降りやまぬ雨の下、身を浸す混濁した水の流れの中でルルーシュは腕の中に抱きしめたシャーリーにねがいのぞむ。
“――――あいしている、ルル”
愛しさの響きを紡ぎあげ、ルルーシュの頬を撫でながらシャーリーは微笑む。
“あいしている、あいしている、あいしている”
シャーリーは、ただ、愛だけを告げる――――。
愛だけを。
★2009.1.7
※title AnneDoll
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