“永久(とわ)に堕ちて還るのなら”



銀の髪留めで括られた長い髪が片方の肩から胸下まで垂れ、髪先から雫が滴る。
前髪からも、頬にはりついた漆黒の髪からも雨の雫が滴り落ち、男の身をさらに濡らしていく。
クロームは爪先立ち、ふるえる手を男の頬へとのばした。
右側の青い瞳を見つめながら――――――――左眼は長めの前髪で隠れてしまっている。

男はゆっくりと自分の手をクロームの手の甲へと重ねおく。
瞳を水面のように揺らし、あるかなきかの笑みを浮かべる。
髪から頬へと滴る雫が指をつたい、腕をつたい、クロームの膚身を濡らしていく。
雫には男の肌の熱が溶け込んだかのような温もりの甘さがあった。
もう片方の手を男の胸元へとのばし、肌にはりついた黒いシャツを握りしめる。
指先を解いては握りしめ、また解く。
それを何度も繰り返していると、くすぐるような笑い声をこぼして男は跪いていく。
クロームは身を屈め、男の耳元へと唇を近づけた。

“骸様?”

声を出さずに囁くと男は静かに頷く。

「この時代へ、ここへ来てしまいました。なにもかも――――すべてを」

そしてクロームを仰ぎ見る。

「歪ませて………なにもかも――――」

青い瞳は安堵と憂鬱に揺れ惑う。
雫は絶えることなく男の頬を濡らす。

「もう一度、おまえたち――――おまえに会うために」

クロームは薄い青みがかった骸の唇に人差し指を軽く押しあてる。

「凪、おまえに」

指先からつたわってくる唇のふるえに心が大きく上ずく。
息も止まるほどに――――。

「しー………………」

頬を傾けてクロームが笑むと骸は緩々と目蓋を落とす。

「大丈夫………大丈夫、骸様」

縋るように背中へとまわされた両腕に攫われ、クロームは骸の胸元に沈んでいく。
そぼ降る雨に濡れた熱と肌の匂いに眩み、まなうらが赤く染まる。

「ここにいるよ、ここに………ぜんぶ」

首筋へと頬を寄せた骸の頭を両腕に抱きながらクロームは囁く。

「骸様―――………」


end



2008.8.17
10数年後・骸さんと現代・髑髏ちゃん13歳。
「出会いは淡い雨の中」の続きでした…。

title/まくろ様『悲しい依存十題』


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