“おまえの無様な狂態に、吐き気”


死体は尽く、あらぬ方向に首を折られて、薄汚れた路地裏の上に倒れていた。
整然と横に並んでいるのも、死体の様子も無残そのものだった。
両腕は糸の切れたマリオネットのような無様極まる態で投げ出されている。
衣服から血が滲み出ていた。
袖からのびた手首の、その節々から皮膚を突き破り、赤黒い軟体をまとわりつかせた骨がのぞいている。
死刑執行人の放った幻覚の感染者は、ありえない力を噴出させ、自らの首を瞬時にへし折る――――その時に生じた傷だった。

どの死体も捻じ曲がってはいたが血痕は僅かばかり。
この死体を作りあげた殺戮者は血流を好まない。
少量の返り血も激しく厭う。
汚れるのが嫌だと囁いてくる。
あまりの嫌悪感に、振り向きざま憎しみを込めて飛びのく気配に向けて下段から廻し蹴りを打ち込む。
が、六道骸は身体を僅かに逸らし、寸前でかわされてしまう。
そして、薄くれないの唇を夕月にして微笑むのだ。

“僕を傷つけないでください”

だが――――、今夜は違っていた。
道の両側は古ぼけた煉瓦壁が並ぶ。
二軒ほど先にある店の扉上には半壊寸前の看板がぶら下がっていた。
ネオンランプの明かりは埃がかったように薄暗く、明滅しながら路地へと落ちかけている。
僅かな残光が並ぶ死体の上で蟠り、視界を浮かび上がらせる。
一体だけ、列からはみ出して転がっている死体があった。
死に様は他のものと変わりがなかったが、放り出された腕の、その指先に血塗れたナイフが落ちていた。
そして、ナイフの傍らには六道骸が跪ついている。
愕然として傷つけられた右腕を見つめていた。
黒い布地よりも濃い滲みが濡れひろがっていく。
すぐに吸収しきれなくなり、袖が垂れ下がる。
ほの暗く滑るような血が溢れ、膝や路地へと落ちた。

一度だけ身体を震わせると骸はスーツの上着を脱ぎざま血濡れの腕へと巻きつける。
視線を彷徨わせ――――――数歩離れた場所に立つ雲雀を見上げた。

「傷つけてしまった、凪をっ………クロームっ」と掠れた声で叫ぶ。

青と赤の異眼から涙を零し、六道骸が憑依している身体の持ち主の名を呼び続ける。
凪――――そして、クロームとも。
双名を繰り返しながら泣き叫ぶ。

「僕を助けてください、早く、恭弥っ………」

血塗れた腕を伸ばして骸は涙声でもって助けを雲雀にこいねがう。
その無様な狂態に吐き気がした。
骸自身よりも凪への怒りが激しく湧き上がってくる。
雲雀は骸へと歩を進めながら「くたばれ」と吐き捨てた。
伸ばされた腕を足で払いのけ、骸の胸ぐらを掴み上げて引き摺り倒した。
この男の身体を早く手に入れ――――咬み殺して、深い場所に葬ってしまおう。


end



2007.7.13
10年ちょっと後の二人。この二人が一緒に仕事するわけないですよね;
色々と悔しい雲雀さんでした。

title/まくろ様『悲しい依存十題』


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