その呼びかけにクロームは応えなかった。
本当はもう目覚めていたが、もう少しだけシルクの海で泳いでいようと、ナイトジャスミンの香りがするピローに頭をもぐりこませたまま、じっと目蓋を閉じていた。
投げ出していた手のひらの下にあるシーツを握り締めたりしないよう指先にある力を解く。
ザンザスに向けている背中の辺りでギシリとベッドのスプリングが控えめに鳴った。
見上げるほどの偉躯を巧みに操り、いつだって気づいたらかき抱かれて腕の中――――シルクにわだかまっていた温もりが皮膚へと逆流してくる。
影が目蓋の裏に落ちてきた。

「――――おい」

熱い肌の気配が身体の上へと覆いかぶさってくる。
ザンザスの匂いにすっかりと包まれてしまうとクロームは身を丸めてシーツに頬を押し付けた。

「起きてるんだろうが」

指先で襟髪をかきあげられ、剥き出しになったうなじに熟息が触れてくる。

「…んっ」

膚身がほころびそうになり、クロームは首を竦めて唇からあふれそうになった声を飲みこんだ。
生温かい舌が首筋に押しあてられ、ホールターネックの結び目に噛み付いて引っ張ってくる。

「やっ…くすぐったい」

歯で皮膚を擦られてクロームは笑い声をこぼした。
肩先を尖らせてザンザスの胸もとを押すと、あっさりと掴み取られて濡れた舌で舐られる。

「ふぁ………」

クロームはシーツに伏せていた顔を上げて身体の上に覆いかぶさり、からかいを滲ませた眼差しを向けてくるザンザスを振り仰ぐ。
両脇につけた肘をさらに沈ませ、鼻先が触れ合うほど近くに顔を寄せてくる。
人が悪い笑みを浮かべた厚い唇には解いたリボンが咥えられていた。

「寝てるんだろ?」

ザンザスの唇から自由になったリボンがクロームの開けた胸もとにひらりと落ちてきた。

「………もう、起きた、よ」

口ごもりながら言うとザンザスは喉を鳴らして愉しそうに笑う。

「おせぇ」

低い声で囁いてくると、さらに顔を近づかせて、燃えるような唇を目蓋に押し付けた。
唾液を塗した舌で瞳からこぼれそうな潤みまで舐めとる。
ザンザスの身体の下にあるシーツが甘えてくるように鳴く。

「てめぇを全部食ってやる」

獰猛に囁くと熱い手のひらをクロームの内股へとすべりこませた。

end



site up 2011.12.18

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