クロームは両膝に置いた美術図鑑から顔を上げた。
目の前にあるクリスタルテーブルの卓上にあるロックグラスを見つめる。
西日に照らされたグラスは琥珀色に輝いていた。
グラスだけではなく、室内全体も、空間も。

アイスピックで粗く砕かれた氷は、いつのまにか溶けて丸っこくなっており、中を満たしていたアルコールは飲み干されてしまっている。
腰掛けているソファの右隣をそっと伺う。
ソファからはみ出してしまうほど大きな体躯を横たわらせて目蓋を閉じているザンザスの姿があった。
シャツを押し上げる厚い胸の前で組まれた両腕、片足はクロームの背後に伸ばされ、もう片方の足は床へと放り出すように下ろしている。

図鑑を膝から持ち上げ、重くなった両腕を慎重に動かしてテーブルへと静かに置いた。
クロームはほっとして小さく息をつく。
グラスの中の氷がまた少し溶けたのか、冷たい音を立てる。
思わず身体を竦めた。
息を詰めるとザンザスの方へ目を向ける。
目蓋は静かに閉じられたままだ。
クロームはうつむいて膝の上にのせた両手をぎゅっと握ったり開いたりを繰り返し、またザンザスの方を見つめる。

何度か躊躇った後、立ち上がってソファの端へと移動した。
床に座り込んで、ソファの肘掛に頭をのせているザンザスへ少しだけ顔を近づけさせる。
切り込むような目元が幾分和らいでいた。
穏やかな息遣い――――ソファに置いた指先が体温の気配を感じて熱くなる。

クロームは膝立ち、身を伸ばしてザンザスの寝顔を見下ろす。
顔を寄せると唇でザンザスの唇に触れてみる。
分厚く少し乾いた唇と温かい息を感じた。
皮膚に沁みこんだアルコールの苦い香りが胸裏を甘く疼かせる。
自分の息とザンザスの息が溶け合い熱くなり唇が濡れていく。
ザンザスが僅かに身動きするのを胸もとで感じた。
クロームは身を固まらせて目蓋を閉じたままのザンザスを凝っと見つめる。

「………ザンザス?」

組まれていた腕がゆっくりと解かれ、大きな手がクロームの髪を撫ぜてくる。
クロームは火照る頬をザンザスの胸もとにくっ付けると顔を伏せた。

“瞳を閉じたらイタズラするよ”

end



2011.12.10 site up
チャットとザン髑日誌より


[戻る]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -