クロームはザンザスの膝から立ち上がろうともがいたが、腰にまわされていた強靭な腕が身体を締め付けるほど狭めさせてしまった結果に終わった。
「………………ザンザス」
「なんだ?」
「お願い、離して………」
「いやだ」
耳朶に唇を寄せて囁いてくるとクロームのこめかみを舌先で舐めてくる。
声を上げそうになったが慌てて唇を噛んで、それを抑えた。
「………………でも、あの、ね」
「――――――――今夜はオレの傍にいろ」
「でもね、その」
「帰るんじゃねえ」
恥ずかしさで思うように言葉が出てこず、クロームは目にじんわりと涙が浮かんでくるのを感じた。
部屋にはザンザスとクロームの他にもう一人いるのだ。
「それは困る」
先ほどからザンザスとクロームがいるソファの前で静かに立っていた長身の男が淡々とした声で言う。
「そろそろクロームを離してはもらえないだろうか」
男は感情の読めない三白眼でザンザスを見据えている。
負けずとザンザスは眦を吊り上げて、恐れ気もなく堂々と眼前に立つ男を睨みつけると、疎ましそうに低い唸り声を上げた。
<end>
★2011.4.13
企画・捧げもの。
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