午睡は疾うに過ぎ、
窓辺に蜜色の陽光がとろけだしたころ。
呼ぶ声に触れた気がして、
横たわらせていた亡骸のような身をベッドから下ろし、
花かおる小風をはらんで揺れるシアーカーテンから廃園をながめみる。

設計した主の遺言により植生は手入されないまま野放しとなっている、松と棕櫚(しゅろ)の樹木に囲まれた出口のない庭園。

鉄錆び倒れた柵に絡まり方々に這いよる赤紫のブーゲンビリア、
渦巻くようなアラベスク模様も崩れた柘植(つげ)の刈り込み跡、
緑影の片隅や壁際に咲いた血繁吹(ちしぶ)く色彩と芳香をはなつ薔薇、
這いひろがる蔦と草木に埋もれながら逃げ惑うひび割れ苔(こけ)むした群像、
どの彫像も身をねじり、怯えた表情で見上げ、または腕をのばしているその先にひろがっているのは、一片の雲さえ無い蒼い空。

「よぉ、ボスの女」

とろとろと微睡にただよう光のもと、白日夢にみる眩暈のようにたたずむ人影が呼ぶ。

「そこから下りてきな、王子と悪戯(あそぼ)う」

プラチナブロンドの頭にゴールドローズのティアラをのせて。
シャムのような痩躯に絡みつく緑と黒のボーダー、纏うロングコートの両ポケットに手を入れたまま漆黒の尻尾(すそ)を優雅にひるがえす。

「………吊りさげて?」

透きとおったカーテン越しに囁くと、歯を剥き出しにして楽しそうに嗤(わら)う。

「吊りさげて、荊をまきつけてやるよ」
「皮を剥ぐの?」
「好みの剥ぎ方、言ってみな」

腕を鞭のようにしならせ、薔薇色の指先から指先へ飛び交う銀のナイフ。

「手足も切り刻む?」
「もちろん、可愛らしーい、その首も」
「血はどれだけ?」
「ほんの少しだけでも、溢れるほどでも!」
「痛みと苦しみは?」
「痛みを無くして、苦しみを倍に。それとも、苦しみを無くして、痛みをそれ以上に。どっちが気持ちいい?」

長い前髪で隠れた目元のしたに薄ら笑いをはりつけて、無邪気に血生臭く手招く、
昔と変わらぬその無慈悲な仕草、切り裂き王子。

「だから、王子と悪戯(あそぼ)う、きっと愉しーぜ、デタラメみたいな女!」

end



2009.2.9
ニセ童話っぽい感じでベルフェゴール+髑髏。

title SLUTS OF SALZBURG


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