象毛色の瀟洒な洋館と礼拝堂、校庭と建物をぐるりと囲う繁った木々と塀―――――――街を望む小高い丘に建っているカトリック系ミッションスクール・ノートルダム女学院を見下ろす。
下校を告げる鐘が鳴り響いてから小一時間を経て、ようやく校庭の疎らな人影の中に目的の小さな姿を見つけた。
校門へ向かう女生徒たちから飛び出し、膝下まである長い髪をなびかせて違う方向へ転がるように駆けていく。
その走り方は太ももが見えてしまうほど元気よく、マリン・ブルーのフレアースカートが波のようにひるがえっている。

「やっぱり、かわい〜なぁ」

気取られないように、少しずつ下降して様子を伺う。
形のよい頭の真ん中、その頂点に蕾のような可愛らしい旋毛が見えた。
以前はすぐそばで、その旋毛を見下ろせていた。
よく突いて怒らせていたのを覚えている。

長い髪をした小柄な女生徒は校庭の端っこに辿りつく。
そのまま勢いつけて塀に向かってジャンプしてしがみつくと懸命によじ登り始めた。
塀の上に四つんばいになり、道路の左右を見渡して確認する。

「よし!」

声を出して頷いて――――――――――――――そのまま動かなくなった。
しばらく塀の上にしがみついて、足や手を伸ばしたり、塀を叩いたりしてもがき唸っている。
やがて、思い切ったのか、身体を道路側の方へと傾かせていく。
落ちるに任せるように。

「ブルーベルってば、危ないよ〜」

白蘭はセーラーカラーの後ろ身頃を掴んで女生徒―――――――ブルーベルが落っこちないように支えた。
弾かれたように顔を上げて、そこに浮かんでいる白蘭を認めるとブルーベルの表情が石のように固まり、ゆっくりと唇を開く。

「うぎゃああああああああ! 殺じん、鬼―――――――!!」

渾身の絶叫を放って、自らの状況も宇宙の果てとばかりに闇雲に暴れ始めた。

「暴れないでよ、危ないってば〜」
「やだああああ! 殺されるよおおおおお! ミイラやだああああ!」
「そんなこと、もう絶対しないよ〜。この間、そう言ったじゃない」
「うわああああ人殺し!! ブルーベルは、こいつに殺されたんだあああ! やだやだやだよおおおお!」

仰け反って空を蹴っていた白い細足が白蘭の脇腹を打つ。
螺旋する火玉の如く暴れまくるブルーベルを、なんとか塀から下ろして両足を路上に付けさせると白蘭は安堵して、距離を少し置いて立った。
道路にへたり込んでいたブルーベルは頭を振って汗ばんだ頬に張りついていた髪を払う。
身をわなわなとさせながら立ち上がり、烈しい眼で白蘭を睨みつけてきた。
白蘭は肩を竦ませ、両腕をひろげると手のひらを見せて害心はないのだと合図を送る。

「もう、しない。本当に。ブルーベルに、あんなこと」

ブルーベルは拳を握り締めて足で路面を打ち鳴らす。
眦を釣り上げ、怒り剥きだしの形相をして、拙くとも全身で白蘭を威嚇してくる。
ブルーベルの周囲がゆらりと歪んで蒼い閃光が散乱し、長い髪が生き物のようにうねった。

「そんなこと言うなら、消えろ。なんで、来るんだよ!」
「だって、会いたいから。またいっぱいお喋りしたい。遊びたい―――――――一緒にいてほしい。大好きだよ、ブルーベル!」
「うるさい、うるさーい、うるさあああい!!」

上身を前へ倒すようにして喉が裂けろとばかりに叫ぶ。

「ごめん。わがまま、ごめん。ブルーベル」
「お前なんか、大っ嫌いだ! 嘘吐きは大嫌い! 嫌いで嫌いで嫌いすぎて、ブルーベルの頭、おかしくなってくる! もう、ブルーベルのこと、ほっとけよおおお!」
「ブルーベル……」
「それができないって、なら、殺せばいーじゃん! わたしをぶっ殺してくれ!」
「絶対、しない。そんなことするの、嫌だ」
「へぇ〜!? へええええ!? そんなこと、言っちゃうんだあ〜!」

絶叫とともに稲妻のような光が空中を滑走して白蘭の前の路面が礫を飛ばして弧状型に抉れた。
激怒のあまりか、ブルーベルは涙をこぼして歯を食いしばっている。

「次は、お前の首、ぶった切る!!」
「―――――――いいよ」

白蘭はブルーベルに微笑むと差し出すように首を傾けた。
瞬間、引き攣った笑い声が響き渡った。

「そうだ〜! いーこと思いついたぁ!」

祈るように顎の下で両指を絡ませるとくるりくるりと踊りだす。

「お前の、大事な、ユニって女の首も、すっ飛ばしてやる〜! ブルーベル、あったまいい〜!」

ヒステリックに仰け反ってブルーベルは身体をふるわせて歌うように言い放っては笑う。
白蘭はため息をつくとご機嫌な様子のブルーベルに笑いかける。

「……それって、嫉妬かな〜?」




「―――――――今、引き上げますから」

大きく陥没した底で瓦礫の下敷きになっている白蘭を桔梗が心配そうに覗き込んでいる。

「…激しいな〜、ブルーベルは」
「ザクロがブルーベルを追いかけています」
「そっか…」
「ザクロとなら、少しは話せるかもしれませんから」
「そう……そうだ、ね…」

白蘭は笑った。

「白蘭様……」

桔梗が困ったような、気遣うような表情をして膝をつく。

「僕が悪い、今回もね」

また笑ってみせると眦から涙があふれているのを白蘭は感じた。


end



2014.10.16
現代ブルーベルのにゅぅ〜口調はなりを潜めていますという妄想設定です。

title/SLUTS OF SALZBURG


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