ネロは腰に手を当てると「いいか、勝手に森の中に入るんじゃないぞ!」と子供たちに向けて声を張り上げた。
仲良しグループに分かれて、わいわいと騒ぎながら子供たちが一斉に手を上げて銘銘に答えると持ってきた弁当をひろげて昼食を開始する。
子供たちに混じって院長もネロに手を振って答える。
大きく息を吐くとネロの心情とはうらはらに晴れわたる秋空を見上げた。
今日は一ヶ月に一度行われる孤児院の子供たちが楽しみにしていたピクニックの日だった。
先日から熱を出した子供がいたため、キリエが孤児院に残って付き添っている。
本当は院長が残るはずだったが、子供はキリエにしがみついて激しく泣きじゃくるため―――――――代わりにネロが引っ張り出されたという―――――――少しながらボディガード代も出してくれるそうで請け負ったのだ。

もう一度、ネロは広場を見渡して子供たちを確認すると片方の肩にひっかけていたリュックサックを降ろして広場の隅にある小高い場所に陣をとる。
この場所なら子供たちの様子を捉えやすい。
子供たちははしゃいだ声を上げて楽しそうに院長とキリエが朝早くに作った弁当を食べていた。
一年ほど前、このミティスの森で怖い思いをしたにも関わらず―――――――とても楽しそうに騒いでいる。

「案外、タフだな……」

そう呟きながらネロは背中のレッドクイーンを傍らに生えている低木の幹に立てかけ、リュックの中に収まっているずっしりと心躍る重さをもった特大ランチボックスを取り出す。
全部で3個ある。
キリエが作ってくれたネロの昼飯だった。
もう2個、袋から瓶と容器を取り出す。
保温性の瓶にはごった煮スープ、もう片方の容器をのぞくとネロの好物・キリエ特性のモスタルダ(マスタード風味のシロップに漬けたフルーツ)だった。
小さくガッツポーズを取る。
どこぞの神に祈りなんざまったくもって馬鹿馬鹿しいと常日頃思っているが、キリエには朝昼晩、いや一時間ごとに心を込めて祈りを捧げたい。
鼻歌交じりにランチボックスの蓋を開けていくと彩り豊かな料理がびっしりとバランスよく詰められている。

「ネロー! いっしょに食べようよ〜」

子供たちが弁当を持ってネロのいる場所まで騒ぎ騒ぎ駆け寄って座り込んで返答を待たずに食べ始める。

「うっわ、バカ大食いネロ!」

憎まれ口をたたく声にランチボックスの料理から顔を上げると、案の定、アベルが覗き込んでいた。

「ばかおお食いネロー!」

年少者の子供たちがアベルの言葉を真似してはしゃぐ。

「なに言ってんだ。お前らも俺ぐらいになったら、これぐらい簡単に平らげるぞ」

ネロはアベルのからかうような視線を無視して肉と野菜がぎっしりと詰まった分厚いパニーノを頬張りながら言う。

「おいしーい?」

頬にそばかすがいっぱいのロザンナが小首を傾げて聞いてきた。
他の子供たちも次々に同じ言葉をネロにわいわい言ってくる。

「………おいしい」

小鳥のような子供たちの言動にネロは戸惑いつつ答える。

「おい、おまえら、ネロの飯に、手、出すなよ。すっげー怒られるぞ!」

歯を剥いてニヤニヤと笑いながらアベルが言った。

「それ、愛妻弁当だからな!」
「あいさい、べんとうってなに、ネロ?」

ネロはかぶりついていたパニーニの咀嚼を一瞬止めて、アベルの言い放った言葉の意味を考え―――――――大きく咳き込む。
周囲で子供たちが「あいさいべんとうー、あいさいべんとうー」と大合唱をはじめた。

end


2014.10.9
at 10/9 23:20
●title 休憩

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