09 +
暗い古道路をミレーナは危なげな足取りで歩いていく。
おざなりに設置された道路照明灯はほとんどが壊されて、真っ黒な上空に引っかかっているクレセントムーンの頼りない薄明の中でイアンは陽気に歌いながら擦れた白線を辿るミレーナのたわやかな背中を見つめながら後を追いかける。
真夜中、誰もいない見捨てられた廃墟のような旧道を二人だけで歩いている。

胸がひどくざわつく。
どうして、こんな状況になったのか、イアンはため息をついて原因を反復する。

夜も更けた頃に鳴った電話。
出てみると明らかに酔っ払った態のミレーナ。
ミハイに迎えにきてほしいとの一点張り、そして、ぶつりと電話を切る。
途切れた音を聞きながら呆然とする。
ミハイは帰ってきたばかりで、シャワー中で―――――――無視しようとも思ったが、それもできず、だから、こうなった。

拳銃をホルスターに納めると住処を抜け出して急いで裏手にある廃墟を走って、その場所まで辿り着くとミレーナは道路脇に放り出された廃車の側で座り込み、うとうとと暢気に舟を漕いでいた。
無防備にもほどがある。
そんな文句を口にすると『ここは、あなたのお父様の縄張りだもの』と無邪気に笑う。
呆れてものも言えず、そのままミレーナの好きにさせてしまっている。

ふと、ミレーナが踏む白線の先に視線を向けた。
道路は高架橋へと続き、そして唐突に途切れてしまっている。
先にあるのは暗闇しかない。
不安が込み上げてくる。

「……いい加減にしろよ。帰るぞ」

イアンは前をふわふわと歩くミレーナへ背を向けようと踵を返す。
すると、ミレーナが身体のバランスを崩してよろめく姿が目の端に掠める。

「ミレーナ!」

イアンは腕を伸ばし、ひっくり返りそうになったミレーナを抱きとめた。
ひび割れたアスファルトに二人して倒れずにすみ、ほっとして息を吐くと腕の中で大人しく納まっているミレーナを見下ろす。

「び…っくり、したぁー」

イアンの身体にまわされた柔い細腕が少しふるえている。

「びっ、くり、したのは………こっちだ!」

胸もとでミレーナが呆然とした表情をしてイアンを見上げていた。
いつもは見透かすような笑みを湛えたそれは、今は稚さだけしかない。
イアンは思わず笑ってしまい、バランスを崩してミレーナと一緒にアスファルトの上へ倒れてしまった。


白 線



◎15歳ぐらいになってミレーナを抱きとめれるぐらいに大きくなったイアン。
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