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窓から午後の青空を眺めていて、ある予感にかられるとクロームは急いで出かける準備をした。
ガス、電気、戸締りの確認をして、ドアに鍵をかけてアパートを出る。
階段を降り、アパート前の道路までくると思いがけない人に声をかけられてクロームはぽかんとして立ち尽くした。

「こんにちは」

クロームが敬愛してやまない骸が柔和な微笑みを浮かべて、こちらへ向かって歩いてくる。
慌てて周囲を何度も見渡した。
路上にいるのは骸と自分しかいない。
やはり、骸が話しかけているのは自分なのだとわかると、クロームは更にまごつく。

「こ、こんにちは!」

両手を太ももの前で重ねて頭を深く下げと骸が笑い声をこぼす。

「あ、あの、その……」

頭の中でいくつかの言葉が浮かぶが、うまくまとめられない。
声に出せない。

「お前の顔が見たくて来ました。どこかへ出かけるのですか?」
「…はい。あの」

今、骸が口にした言葉の意味を懸命に把握しようとして、ふいに頬が火照る。

「それは残念です」
「あの…、散歩……しようと思って」
「誰かと、ですか?」

クロームは顔を上げて骸を見つめると頭を思いっきり横に振る。

「それでは、僕もクロームと一緒に散歩してもいいですか?」

嬉しさのあまり、今度は頭を縦に何度も振った。
しかし、少しだけ不安が心を過(よ)ぎる。

「でも、ほんとうに、ただ、歩くだけなんです…」

公園にある花壇や木々、並盛商店街の様子や人々がのどかに歩いている姿や、神社や路地裏で寝そべっている野良猫たちを訪ねたり、並盛丘の広場で夕日を眺めたり―――――――クロームにとっては、とても楽しいことなのだけれど。

「散歩は、そういったものでしょう?」

骸は微笑みながら前屈みになってクロームの顔を覗き込むようにして言う。

「…はい」
「クロームとなら、どんなことでも僕は楽しいです」

クロームは骸のシャツの袖をきゅっと握りしめた。

「……わたしも、骸さまのお顔、見たかったです! とても会いたかった…!」

思いを言葉にして仰ぎ見ると骸が嬉しそうな笑顔でクロームを見つめ返して髪を撫でてくる。


散歩
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