13 +
「あんの野郎! 絶対、地図間違ってんだろ! 目ぇ腐ってんのかよ!!」

往来の激しい広場にも関わらず、いい加減頭にきていたネロは思わず口に出して罵った。
もちろん、側にキリエがいないのを確認しての言動だが―――――――。

ネロは街路樹の下にあるベンチにすわって、しばらく地図と手紙に書かれた下手糞な地図を見比べていた。
手紙にあるとおり、この名前の町で降りて、この名前のメイン通りにある広場を目指し、この名前とこの名前がある店の間の路地を歩き、二本目の道で左折したら―――――――なのに、その二つの店がない。店名が違う。花屋と雑貨屋じゃなく居酒屋と銃器屋だった。
一応、それらしき場所を探して進んでみたが、二本目の道を左折したら袋小路だった。
あるいは溝川だったり、倉庫の裏口だったり、ゴミ捨て場だったり、何台もの廃車が詰め込まれたトンネルだったりと。
レンタルした携帯で事務所にかけてみたが、機械音声で「おかけになった電話番号はお客様の都合により…」と出た。
おかげで携帯をへし折りたい気持ちを抑えるのに苦労する羽目となった。
前もって手紙を送り、今日のことは知らせてあるが、それも伝わっているのかどうか非常に危うい。

“ダンテのやつ、アホくせー悪魔にでもやられて死んでんじゃねーのか”

ネロは溜め息を吐いた。
足元にあるボストンバッグに片足を乗っけて、脇に置いてあるキリエのキャリングケースに片腕をかけ、またその隣にある幾つもの土産袋に視線を向ける―――――――あれもこれもとそれもとキリエが用意したたくさん過ぎるほどの贈り物。
―――――――そして、先ほどからネロの様子を伺っているような不振な行動をしている男を一瞥する。

今いる場所は、のんびりとしたフォルトゥナと違う異国の地だ。
古風な趣のある見慣れた町並みや雰囲気などなく、行き交う人々の服装も慎ましやかなものとは言い難い。
そう思いつつも、ネロが普段好んで着ているような服装に通じているのだか、妙に不穏を感じてしまう。
フォルトゥナは悪魔がよく出る街だが、この国より余っ程安心できる―――――――。

ひと睨みでそそくさと逃げていく男から視線を外して周囲を見渡す。
不穏を感じたのは、約束の7分を過ぎてもキリエが戻ってこないからだ。
しばらく二人で、あっちだこっちだと歩き回っていたが、あっちとこっちの二手に分かれて道行く人に尋ねてみようとキリエが言い出したので路地には行くなと固く約束させて従ったのだが、止めるべきだったんじゃないかとネロが立ち上がったちょうどその時、求めていた鈴やかな声が響いた。

「ネロ―――――――遅れて、ごめんなさーい!」

ネロは街角から姿を現したキリエの姿を認め、ホっと安堵して笑いかけて、そのまま硬直する。

「キリエ、しんぱ、い―――――――……」
「あのね、あのね! とっても嬉しいことがあったのよ!」

満面の笑みを浮かべてキリエが小走りにネロに向かってくる。
キリエのすぐ後ろで悠々と歩きながら、相変わらずの真赤なロングコートを身に纏った人目を引くほど大柄な壮年の男が太平楽を表したようにゆらゆらと手を振っていた。
もう片方の手はキリエの優美で小さな手と繋がれている―――――――。

「よく来たな、二人とも! 迷わなかったか〜? おっ! 土産いっぱい持ってきてくれたんだなあ〜」


あっちとこっち



◎ダンテにふりまわされるネロと、あまりふりまわされていないキリエという光景が書きたくて。
<<  >>
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -