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優等生弟×意地っ張りおばか
いっぱいめすいきをしたぼくに、ヒロくんは何度も何度も言った。
「絶対、誰にも言うなよ」
あんなにめすいきを褒めてくれたのに、どうして言っちゃいけないのか。はなはだ、遺憾である(遺憾、ってかっこいい!)。
何を隠そう、普段自慢できる事がないぼくは、せっかく習得しためすいきを自慢したくて仕方がなかった。
ヒロくんに憧れる、とまで言わしめためすいき。家に帰ってからもぼくはうずうずしていた。言いたい。自慢したい。ぼく、めすいきができるんだけど? と、さらりと言ってのけたい。
「あれ、兄さん帰ってたんですね」
「マサくん」
弟のマサくんは、両手に買い物袋を抱えていた。今日は両親が遅くなる日だ。しっかり者で器用なマサくんは、代わりに家事を頼まれたらしい。
ちなみに、ぼくは全く当てにされていないので、両親からは毎度何の連絡も来ない。
「ふふふふ、マサくん、ふふふふ」
「はい?」
「ふふっ……どうしようかな? 言っちゃおうかな? でも、秘密って言われたし、ふふふ、ふふふふ……」
優等生で皆にちやほやされているマサくんは、めすいきができるだろうか。否、できないと思う。ヒロくんだってできないのだから。
何もかも負けていた弟に、一つだけ自慢できる事ができた。ああ、言いたい、言いたい……!
「ぼく、めすいきができますけど?」
ああ、言ってしまった! 口が滑ってしまった。まあ、言ってしまったものは仕方がない。
ヒロくんには悪いが、身内に自慢するくらいはいいだろう。ぼくは鼻高々で、固まっている弟を見る。
「はい?」
「だからね、ぼく、めすいきができますけど?」
「……はい?」
自慢できた喜びを噛みしめながら、買い物袋を受け取った。さすがのぼくも、食材を冷蔵庫に入れるくらいはできる。
「あの、兄さん……」
「うん?」
「め……めすいき? って、何ですか」
***
学年で主席らしいマサくんだが、どうやらめすいきを知らないようだ。
ということは、ヒロくんが特別博識なのだろう。やはり彼はすごいなあ、と素直に感心する。
「じゃあ、教えてあげる」
ひさしぶりにお兄ちゃんらしい事ができる。ぼくは誇らしい気持ちでズボンを下ろした。
「兄さん……?」
「めすいきはね、ここ……ここで、するんだよ」
パンツ一枚になり、弟におしりを向けた。すると彼は、目にもとまらぬ速さで部屋中のカーテンを閉めた。
「ちょっと! 何してるんですか外から丸見えですよ!」
「それでね、おしりをね……」
「ま、待って、脱ぐんならせめて風呂場、風呂場に行きましょう」
早くめすいきを教えたいのに、マサくんは何を躊躇っているのだろう。ぼくはパンツを半分下ろした状態で、風呂場まで抱っこで運ばれた。
「パンツを、脱ぐでしょ。そしたらね、ほら……」
「に、兄さん……っ何なんですかめすいきって! どうして僕におしりを見せつける!?」
「おしり、よーく見て……」
むちっ とおしりを開いて、ぼくのめすいきスポットを晒す。マサくんは眼鏡を外し、目をごしごし擦っていた。見えにくいのかな、と思い、さらにおしりを近づける。
「ここはね、めすいき、するところ……」
「ち、ち、違いますよ! そこは臀部です、めすいき? なんて機能はありません!」
「あるよ。だってぼく、めすいきできるし」
「だからめすいきって何だ! 兄さん、それ誰から教わった!? どこで聞いてきた!?」
ヒロくんだよ、と言いかけてやめた。彼らは、それはそれは仲が悪いのだ。とくに、まじめな弟はチャラチャラしたヒロくんが嫌いなようで、顔を合わせるたび突っかかっている。
「む……昔から、知ってたよ。ぼく、昔からめすいきが得意だし」
本当だよ、と念を押し、再びおしりを見せつける。
マサくんは賢いのに、案外騙されやすい。ぼくの言葉を信じ、「兄さんは、昔からめすいきを……」とぶつぶつ呟いている。
「めすいき、するためにはね……マサくんの協力がいるんだ」
「協力? いったい、何をすれば……?」
さあ、いよいよめすいきを教えてあげられる。ぼくのおしりはすでにヒクヒク し始めていた。
これはすぐにめすいきしてしまいそうだ
「おちんちん、出して」
マサくんは真っ赤な顔で五秒くらい硬直していたが、こくんと頷き、ベルトに手をかけた――――
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