▼ワンコ系助っ人外国人×平凡メスくさ妻♂
ワンコ系助っ人外国人×平凡メスくさ妻♂
※匂いフェチ
※体臭など結構ムワムワ
※清潔な感じではない
分厚い体をグンを捩じり、ダイラーが打った球は高く飛ぶ。
テレビ越しでも伝わる、球場を揺らす歓声。彼のもとに駆け寄る選手たち。
「おお、サヨナラだ」
活躍する瞬間を、やはり生で見たかった。だが、当の本人が嫌がるのだから仕方がない。
まだたどたどしい日本語で、「スタジアム、が、みんな……チロを、狙ウ……」と、僕を家に置いて行ったのだから。
「本日も見事勝ち星! おめでとうございます」
「……ハイ」
それなりにタッパのあるインタビュアーよりも、頭一つ分大きい。ダイラーは口数こそ少ないが、真面目な性格ゆえ、くだらない質問にも丁寧に答えている。
早く帰ってきて、僕の両足を縛る足枷を外してほしいというのに。自国ではこうして愛する妻♂を閉じ込め――守るのが普通だのなんだのと言って、試合があるたび毎回こうだ。
おかげで、せっかく良い天気だというのに、洗濯すらままならなかった。
「好きな日本食は?」
「……チロの……ミチヒロ、の……潮で、茹でた、ウドン……」
「ああ、奥さまの手料理ですね! では、初めて覚えた日本語は?」
「メスクサ」
少しイントネーションの違うその一言に、画面からは笑い声が聞こえる。ダイラーだけが真剣な顔で、「ワタシの妻♂、メスクサ」とどこか誇らしげに答えている。
恥ずかしいから僕の話はするなと言っているのに、「野球も、愛も、牽制デス」と言って聞かない。
「なるほど、ダイラー選手は奥さまと仲良しなのですねえ」
「ハイ。チロはメスクサ。昨日も、メス潮……大変、スプラッシュで……ベッド、まだメスクサイ」
「ははは、では今夜は奥さまとも、完全試合というわけですかぁ!」
――――なんて下品な……ダイラーが真面目だからと言って、調子に乗りすぎだろう。
この足でなければベッドのシーツを洗濯できたのに、未だにベッドが湿っているのは、彼のせいでもあるというのに。
しかし揶揄われている事に気づかないダイラーは、依然、熊のような巨体をマイクに捧げ、太く硬い声で答えている。
「カンゼン……? ああ、パーフェクト・ゲーム?」
「イエス、イエス! ははは」
「いいえ、チロは野球しない……チロは、ワタシ、守ります。アナタ、チロ、危ないこと、サセルカ? チロ、狙ッテイルカ?」
急に低くなった声に驚いたのか、インタビュアーの苦笑いには冷や汗が滲んでいた。
別の選手にも質問をするという名目でダイラーから目を逸らしたカメラも、気まずそうな他の選手も。現場の空気がひりついているのが伝わってくる。
「ああ、もう……誰も僕なんて狙わないってのに……」
寡黙な仕事人で、真面目で、なにより鋭い雄の魅力にあふれた彼は、惜しまれつつも球場を後にする。
テレビの画面からいなくなったということは、おそらく一時間もすれば、僕の元に帰ってくるのだろう。
***
「チロ、やっぱり、みんな……チロ狙ってマス」
靴も揃えないまま僕のもとに駆け付け、スーハ―、スーハー、と犬のように匂いを嗅いでくる。ソファに座ったまま動かない僕の周りを、ぐるぐると動き回られるたび、汗臭い。雄臭い。
「そんなわけないよ。ていうかこれ、外してほしいんだけど……」
「……ア」
「まさか、また?」
「早く、チロに会いたカッタ……」
三回に一度はこうだ。足枷の鍵を球場の控室に忘れる。ダイラーは試合中は決して見せないシュンとした顔で、「チロ……」足枷をツンツンと触り、次の瞬間、握りつぶした。
「また、買わないとダメ、デス」
「う、うん……」
鍵が無くても、結果的に外してやったのだから許してほしい、と再び鼻先を擦りつけてくる。僕は、いつか自分もこんな風に潰されるのではと、彼の人並外れた力を見るたび心臓がぎゅっとなる。
ダイラーは粉々になったそれ(金属製のはずだが……)を雑に払いのけて、軽々僕を持ち上げた。たった二本の腕に支えられているとは思えない安定感だ。
肉厚な胸に抱き寄せられ、つい、顔を背けてしまう。彼はシャワーも浴びずに帰ってくるものだから、土埃と汗の匂いがすごい。
「ア……チロ、今」
「え、あ、いやあの、ごめん、でもちょっと、あの……先にお風呂で、ゆっくりしてきたら」
「お風呂、好きじゃナイ……チロのメスクサ、もっと濃くしたいデスカラ」
「いや、僕じゃなくてダイラーが……う、あ、ああっ、もう……ん、ん、んぅ”……っ」
――――い、言えない……お前と違って、僕は別に匂いフェチでも、変態でもないんだよ……っ
湿った匂いのベッドに下ろされた時、また顔をしかめてしまう。別に潔癖症というほどではないが、僕はどちらかと言えばきれい好きなのだ。
匂いとか、汚れとか、できれば先にどうにかしたい。いたって一般的な感覚だと思う。
「う、ううぅ〜〜……っん、ああ、いやだ、嗅ぐな、あっ、あ”ぁ……っひ、ぐ」
「フーーッ…… フーーッ…… ハーー……ッ……ハーー……ッ」
「ううっ、や、やだぁ……ダイラー、あ、あ、あぅ、ん、ん、ふ、ぅ……ん”」
自分のすぐ下にあるベッドからも、真上にいるダイラーからも、濃厚な性の匂いがする。
「チロ、すっごくメスクサ…… フーーッ…… フーーッ……」
そして彼曰く、僕も……匂いが、濃いと…… そんなつもりは一切ないし、彼にそう言われるようになってから、気を遣ってケアをしているのに……
「わ、あ、あ……っ」
「壁、手、ついて……チロ、壁もメスクサにします、ベッドも、壁も、チロの匂いに……フーーッ…… フーーッ…… メスクサハウスに、リノベーション……」
「え、や、やだって、あ、あっあ! ん、んぅ”……〜〜〜〜……っ」
「ッ……はあぁぁ…… フーーッ…… フーーッ……」
彼は基本的に温厚だが、こういうときは人が変わったように性急だ。
僕の話なんてまるで聞かずに、力で強引に押し切ってくる。
壁に押し付けられた時、僕と同じポーズで張り付いている蚊が見えた。ただ、蚊はその気になれば自由に飛んでいける。僕はそうはいかないけれど。
「チロ、腰上げて、ワタシ、支えるカラ、ハッ……ハッ…… フーーッ…… フーーッ……」
「い、入れんの、早、あっ ちが、そっち、触ってほしいわけじゃ、なくて、あっあっあ、んぅ……〜〜〜〜……っ」
――――くさい、くさい、くさい……っ ごそごそと動かれるたび、濃すぎる雄の匂いが舞って、頭がどうにかなりそうだ……っ
「お、オス、くさ……っ ダイラー、ほんと、風呂、入ってぇ……」
「でも、チロ…… ワタシ、試合帰りで、汗臭い時……いつも……フーーッ…… フーーッ…… はは、チロ、フーーッ……」
太ももの皮膚が、しっとりと温かい生の肌同士が触れ合っている。
腰のあたりをくすぐっているのは、ダイラーの陰毛だ。へそから陰毛まで、黒々と生えた毛が……僕の背中に、匂いを擦りつけている……
「いつも、トテモ、興奮してる……ワタシ、知ってる……」
くすぐったくて、不潔で、ありえない。
本当に、ありえない……
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