いつか狩屋に言おうと思っていたことがある。
ふと目を閉じて、彼を思い浮かべながら唇を震わせる。たった数文字の言葉の羅列だ。けれど、自分が知っている限りある音の中で、もっとも甘美で柔らかな色を映す言葉でもあった。
夢を、みる。
それはなんて細やかな望み。
生まれたての赤子が母親の胎内に戻りたがるのは、一種の連鎖の表れなのだと気がついた時から、俺は子供らしい幼さを捨ててしまったらしい。
来世が必ずしもあると信じることをやめたと同時に、俺は空を仰ぐことを忘れた。
俺を見下ろしてばかりの青い壁紙が、いつのひも同じ色ではないことに戸惑っていたのかもしれない。
ただの思い上がりだったのかもしれないけれど。
今さらだ。
(もう、誰も見つけられない。)
深い、深いところに置いてきたものがある。
いつの日か狩屋に告げようと砂糖をかけ蜂蜜をかけどろどろに漬けたそれは、今も誰の口にされることもなく言葉としての存在を見失っている。
夢であればよかった。
夢じゃなくてよかった。
狩屋はよく笑うようになった。八重歯を見せて、眉間の皺も自然と薄くなって、あどけなさの残る笑顔を見せるようになった。
そのとなりに、俺は。
現世なんてどうでもいい、と、俺に悪態をついてばかりいた狩屋は、もういない。
夢も希望もないと嘲っていたのは、今となっては、どちらなのかも――
「……はは、」
なんてことはない。
ただ、悲しいだけさ。
いつか狩屋に言おうと思っていたことがある。
それはもう二度と俺の口からは発せられることのない、僅かな寂しさと回帰願望と、世界人口分を寄せ集めた程度の愛情表現だ。
∴僕を産み落としたメシア