胸をまさぐるたび唇を噛み締める力を一層強める狩屋の、その口をこじ開けようと舌を捩じ込んだ。「んっ、」と僅かな息が鼻濁音を伴って吐き出され、さ迷う舌を無理矢理絡め合わせる。
粘膜が擦れる感覚に下半身が疼く。それは狩屋も同じらしく、俺のユニフォームの裾をきゅ、と握る姿がいじらしい。
「唇は噛むな。だが声は出来るだけ抑えておけ」
「無茶、言うな、って」
息継ぎの合間に狩屋の口の端からだらしなく零れた唾液を舐めとり、文句を連ねようとするその口を角度を変えて何度も貪る。こうすれば声も何も関係ないだろう。
捲り上げたユニフォームの下で控えめに張った乳首をぐりぐりと指先で押し潰すと、おもしろいくらいに狩屋の体が跳ねた。
「っや、やめ……!」
「嘘つくな、狩屋」
「んぅっ……!」
指先で何度も摘んで弾く。肩を大きく揺らして微かに抵抗して見せる狩屋の目を覆うように貼った涙の膜が、俺を映しては戸惑うように波打った。
もうそろそろいいか、と片手で狩屋の頬を撫でつつ、上を弄っていたもう片方の手を下へと動かしていく。
肉のあまり付いていない骨ばった脇腹をなぞり、狩屋が一際大きく体を揺らしたのを確認して、ズボン越しにすでに反応しているそれを軽く撫でた。
「ちょ、っと……待って!落ち着こう剣城くん!?」
「何だ」
「いやいや何だじゃなくて!そろそろやばいって、時間見て時間!!」
狩屋の言い分はこうだ。そろそろ部活が始まる時間で、痺れを切らした松風や西園が俺たちを探しに来るかもしれないと。そもそもこんな公共の場で事に至るのは不摂生だと。そういうことだろう。だが。
「だからいい加減、」と俺を押し返そうとする狩屋のズボンに片手を突っ込んで、直に握り込んでやった。
突然の強い刺激に「うぁあっ!?」と声を大きくする狩屋に、にやりと口の端を吊り上げる。
人に見られようが不摂生だろうが、ここまで来ておいてやめることができるほど俺は大人じゃない。それにここにほとんど人が来ないことは知っている。仮に松風が探しに来たとして、俺たちの存在に気がつく可能性は低い。
まだ文句が言いたげな狩屋の視線を受け、俺は挑発気味に微笑んで見せる。狩屋だって決して嫌々俺に付き合っているわけではない。これは確信だ。
躊躇うように狩屋の睫毛がそこはかとなく震え、俺になるべく顔を見せまいとそっぽ向く。「……は、早くしてよ、」続き、と聞き取れるか取れないか程度の小さな声で呟いた、この男の意地はそう簡単にはほどけないらしい。
だがそんなことはこの際どうでもいい。なし崩しだろうが、全てはお前のせいだと再び唇を覆った。
「ん、ふ……っ」
キスを続けたままぐ、と握り込んだそれを上下に扱く。すでに先端を濡らしていた自身は、俺が手を動かすたびに水音をたて、それが狩屋の羞恥と興奮を一層煽っているようだった。
時折先端を引っ掻いたり、裏筋を指先で強く擦ってみたり、拙い技巧ながらも狩屋の反応を見ながら試してみる。
性的接触も、自慰すらもこの年齢だと経験が多いとは言い難い。手探りの愛撫。それでも頬を赤らめ体を震わせる恋人を見て変な安心感を覚えつつ、同時に気分が高揚するのも仕方のない話だ。
「ふぁ、あ…っ」
「イきそうか?」
「あっ!ち、ちがっ…あ、うあ、ぁっ」
「狩屋、声」
「ぁ、……ん、んーっ!」
慌てて手で口を塞ぐ狩屋の姿は、いつもからは想像も出来ないほど艶かしい。
早く快感に飲まれて溺れて酔いしれる顔が見たい、そんな欲を理性だけではもう抑えきれず、性急だと知っていながら狩屋の先走りを指で掬って後ろに塗り込んだ。
「あっ、つるぎ、く……」
「舌噛むなよ」
「っ、ひ、ぁ」
その指をそのまま中へと突き入れて、第一関節あたりまで押し込む。そのまま円を描くように掻き回して、入り口を押し広げていく。音を立てて俺の指を呑み込んでいく、その光景に思わず唾を飲んだ。
「はぁ……あっ、ん」
「痛いか?」
「へい、き……っ」
「もう少し我慢しろ」
「は、あ、んぁ……っ」
たいして時間もかけないまま適当な所を見計らってもう一本指を増やして挿し込んだ。
少しずつ弛緩して柔らかくなるソコは、俺を受け入れるにはまだまだ狭い。
強張る肩の力を抜かせようと、軽く耳に息を吹き掛ける。効果覿面だったらしいが、呼吸を乱しながらも涙がうっすらと滲む瞼をきつく閉じる狩屋のいじらしさに、不覚にも俺の鼓動が早くなるのがわかった。
指を奥まで押し込むと、口を覆う手をさらに強く押し付け、キッと俺を睨み付ける狩屋。
逆効果だ、と耳元で囁いて、指を三本まで増やす。「いっ、……!」と息を詰まらせる狩屋が肩を震わせ、必死に俺の早急な愛撫に耐える姿は悪くない。
三本纏めた指を奥へと押し込めば、俺の言うことも聞かずに狩屋は唇をきつく引き結んで噛みしめる。声を抑えるよう言ったのは俺だが、血色のいい唇が切れて痛々しい形になるのは勿体ないと思った。
「!!あ、や、ぁあっ!」
「おい、声」
「誰の、せいだよっ、あ、はぁ、んっ!」
前立腺を狙って纏めた指をぐりぐりと捩じ込むと、途端に目を見開いて高い声で鳴く。抑えも聞かないのか、いつの間にか狩屋の口許を離れた手は俺の肩口を掴んで。
呼吸も絶え絶えな中、「つ、るぎくっ…!」と俺の名前を呼ぶ狩屋の腰を、自分の方に抱き寄せて少し浮かせた。そうだ、その顔が見たかったんだ。
「狩屋」
「はぁ……ぁ……」
「痛かったら、悪い」
「は……いまさら、何言ってるの……ん、」
「いいか」
「……こ、いよ」
ニヒルに弧を描く、狩屋の唇に引き込まれるようにキスを落とす。結局こいつも俺と同じだ。互いに上手な甘え方を知らないから、その逆を施し合って。回り回って甘やかされているのだと、気づかないふりをして唇を舐める。ああ、甘ったるいのは嫌いだと言うのに。
「い、っ!く、ぁ…あっ!」
「……っ」
ズボンから取り出した自身の先端を何度か狩屋の後ろに擦り付け、力む間も与えず一息に突き挿れた。
びくん、と跳ねる腰を掴み、がくがくと何度も揺さぶると、すでに限界が近いのか俺の肩口を掴む狩屋が手に込める力を強めた。
熱い。俺のを奥まで呑み込んで収縮するソコは、陳腐な言い回しだが燃えているんじゃないかと錯覚するほど熱を帯びている。
こうさせたのは俺か、と誰に対してでもなく優越感を覚え、その衝動のまま狩屋の腰を浮かせて再奥を勢い良く突く。ぐちゅ、と卑猥な擬音を振り撒いて、仰け反った狩屋の喉のラインが艶やかに見えた。
「あっ、ぁあ、んっ!」
「はっ……よく締まるな」
「や、めっ…!バカ、ぁ、あっ……!」
「誉めてるんだが、……っキツい」
「ん、っ!剣城く、っ……あ、っ!」
「っ……狩屋、」
「ぁ、ああ、はぁっ!つる、ぎ、くんっ!」
半分意識も理性もとんでいるのか、自制が利かないらしい狩屋の唇から断続的に漏れる矯声が、狭い密室に響く。
だが余裕がないのは俺も同じだ。散々煽られていたこともあり、一気にスパートをかけようと狩屋の腰を一層強く掴む。
そのまま一度引いて、狩屋の体から力が抜けた瞬間を狙って激しく突き上げた。
「や、ぁ、んあっ!」
「はっ………狩屋、」
「ば、か!ふっ…、…ぁああっ!」
「、くっ……!」
――好きだ。柄にもないことを柄じゃない場面で言おうとして、ギリギリのところで思い止まった。
伝え合うだけの甘ったるい関係は俺たちには似合わない。その代わりに、喜べ狩屋。今この瞬間世界でいちばん優しいくちづけをくれてやる。
弓なりに下肢をしならせて吐精した狩屋の姿は絵になるほど美しいと、そう思考が追い付く前に俺も後を追うようにして果てたのだった。
それからどうしたということもなく、気だるげな雰囲気を固持したまま二人で幾重にも重ねられた固いマットに寄りかかっていた。
沈黙が降り積もるこの部屋で、けれどお互い口を開かないのは気まずさからでもなんでもない。心地よい疲労感だけが、絶えず空気を暖め続けている。
「……部活行くか」
「俺今日走れないんだけど……たぶん」
「その時は抱えて家まで送ってやる」
「うわー、それ最悪。どんな目で見られると思ってるの」
「関係ない」
「関係あるから。あとその前にトイレットペーパー取ってきて。拭かなきゃ下履けないし」
「確かに下半身丸出しはまずいな」
「誰のせいだよ!!」
「俺か」
ふ、と笑うと隣で「……そうだよ。君のせいだ、」と呟いた、狩屋の髪に手を伸ばした。気まぐれに掬って、さらさらと流れる猫っ毛を何度もすく。
たまには穏やかすぎるとも思える時間の流れに、身を任せてみてもいいかもしれない。
「くすぐったいよ、」と目を細めた狩屋を見て、ふとそんな気分になった。
廊下と扉一枚越しに、「剣城ー!狩屋ーっ!どこにいるのーっ!?」と部屋の向こうから松風の声が聞こえて、二人してぎょっと顔を見合わせる。それから慌てて俺たちがどう動いたかは、想像に任せることにしよう。